家政婦の真似事③ 余談
前の話の選択肢で、意外とセイルを選ぶ方が多くてびっくりです!
セイル、アリシア、ラーニア、選択肢にないネルファさんまで感想の一言に書いて下さる方もいたので、この際、エリシャ、ラフィ、ルーシィ、ルーフィは勿論ですが、感想欄で出たキャラクターも書いてしまおうかと思います。
今回はセイルとアリシアです。
「さあマルスさん、誰が思い浮かびましたか?」
何故か最初に俺の頭の中に浮かんだのは、セイルが家政婦の格好をした姿だった。
俺が知る家政婦服というのは、ネルファが着ている女物の服装だ。
それを男であるセイルが着ていること自体がまずおかしい。
頭に付けた白い飾り物――確か、カチューシャと言うんだったか? を付け、家政婦服から尻尾が出ている。
ちゃんと獣人仕様の家政婦服だ。
(……我ながら、なんて想像をしているんだ)
魔術の行使をする為の想像の構築は得意ではあるが、まさかこんなところでも役立ってしまうなんて。
『……よう、マルス』
しかも、想像の中のセイルが俺に語り掛けてきた。
想像があまりにも正確で明確だった為だろうか?
ぶっきらぼうな口調までそっくりだ。
『そ、そんなに俺に奉仕されたかったのかよ?』
ちらっと俺を見て、直ぐにセイルは目を逸らした。
『……なら、仕方ねえな。
他のヤツが相手なら、ぜってーこんなことしねえんだが、お前の為なら奉仕してやるよ。
してほしいこと、言ってみろ?』
照れているようだが、嫌がってはいないようだ。
だが『してほしいこと』などと言われてもな。
そうだ! そのモフモフの獣毛に包まれた尻尾を触ってみたい。
『し、尻尾? ……ちっ、仕方ねえな』
セイルがくるっと後ろを向いて、尻尾を差し出してきた。
『……好きにしろよ』
果たしてこれが奉仕……と言っていいのかわからないが、家政婦のセイルはいつもよりも従順だった。
手を伸ばして尻尾を触る。
――モフモフ。
『ど、どうだマルス?』
かなりモフモフだ。
『あ、あまり強く握るなよ』
強く握るなと言われると握りたくなるが、次触らせてくれなくなりそうなのでやめておこう。
『どうだ? 満足か?』
十分堪能した。
『ならマルス、今度はお前がオレに奉仕する番だぜ?』
セイルが三白眼で俺を見つめてきた。
なぜそうなる?
俺は慌てて想像を振り払う。
想像から逃げる為にぶんぶん首を振った。
次だ次。
誰に奉仕されたいかと考え、思い浮かんだのは――アリシアだった。
『あ、あまり見ないでください』
そして、やはり話し掛けてきた。
セイルの時と同じように、アリシアも家政婦服を着ている。
白を基調としているということもあり、アリシアの黒髪が良く映えた。
しかし眼鏡の奥の気の強そうな眼差しは、とても奉仕を仕事とする家政婦らしからぬものだった。
『そ、それでマルス君。
私に何をさせるつもりですか?』
何をさせる……?
奉仕というのは、何かしてくれるものではないのか?
『い……今だけは私は家政婦ですから、命令には従います』
素直でないうのはアリシアらしい反応だ。
しかし、命令することなどない。
『な、なぜ黙っているのです! 何かないのですか?
できる限りのことは……します』
う~ん。と考え、頭をひねる。
そして、思いついた。
今まで俺は、アリシアが眼鏡を外したところを見たことがない。
だから、見てみたいと思った。
『なっ――め、眼鏡をっ!? どういうつもりですか!』
どういうつもり?
ただ俺は、アリシアの素顔を見てみたいと思っただけだ。
「私の素顔……そ、そんなに見たいのですか?」
興味はあった。
『し、仕方ありませんね……。
あまり素顔を見せることはないので恥ずかしいですが……わ、私は家政婦ですから、主の願いを叶えなければいけませんから』
無理する必要はない。
『無理なんてしてません!』
勢いのまま、アリシアは眼鏡を外した。
素顔になった彼女は視線を伏せる。
落ち着かないのか、おどおどしていた。
『み、見ないでください。恥ずかしいです……』
森人の特徴である長耳が自信がなさそうに下がった。
『おかしく……ないですか?』
俺を窺うアリシア。
彼女の黒い瞳が不安そうに揺れた。
だが、全くおかしくなどない。
それどころか、普段と違う感じに不思議と惹かれた。
生真面目な印象を与えるアリシアだが、眼鏡を外した今のアリシアは真面目な印象はあるものの、キツい感じが抜けている気がする。
『も、う満足でしょう? 終わりです!』
そして、直ぐにアリシアは眼鏡を掛け直してしまった。
どうせなら、あのまま素顔でいて欲しかったのだが。
『……マルス君、酷いです。
よりにもよってこんなお願いをするなんて。
私は辱められた気分です。
これは責任を取っていただかなければなりません』
責任?
それはどうとればいいのだろうか?
『そうですね。
まずは執事服にでも着替えてもらいましょうか?』
は? それはどういう――。
「マルスさん? 誰が思い浮かびましたか?」」
ラフィに声を掛けられ、意識が現実に引き戻された。
なんだかこの想像自体、うまくいっていない気がする。
「……すまない。
もうちょっと待ってくれ」
だが、俺はもう少しだけ考えてみることにした。
次はラーニアを選んだ場合と、選択にはありませんでしたが、ネルファのお話を。
その後、話を本筋に戻します。