家政婦の真似事①
2016/05/03 02:07 後半の内容を修正しました。(2回目)
委員会部屋の前に着いたのだが。
(……ん?)
既に誰か部屋にいるのか、扉が半開きになっていた。
「あ~もう! どうなってるんですかこれは……」
「思いのほか面倒……」
「だるくなってきた……」
「ちょ、ちょっとルーシィ、ルーフィ、そのままぐったりしないで!」
部屋の中から、みんなの声が聞こえてきた。
セイルの声が聞こえなかったので、あの狼人だけはまだ来ていないようだ。
訓練が長引いているのかもしれない。
俺は半開きになっている扉の取ってを持ち。
「みんな早いな」
扉を開いた。
が――。
「……」
扉を開いて直ぐ、エリーと目が合った。
おかしい。と思い、視線を少し下げる。
その瞬間、この状況が明らかにマズいということを理解した。
この美しく穢れのない純白の少女は――なぜか服を着ていなかった。
雪のように真っ白な肌。
豊満な双丘を包む純白な白い下着。
鍛えられた流麗な脚線美。
恐らく刹那の間だったのだろう。
しかし、俺には時が止まっているかのように長い時間が過ぎ去ったように感じた。
「ぁ……ぁぁ……」
エリーがぷるぷると震えだす。
美しい肌が上から下まで真っ赤に染まり、エリーはその場に座り込んでしまった。
「あ、マルスさん! もういらっしゃったんですか!」
「ご主人様、待ってた!」
「早く入る!」
ラフィ、ルーシィとルーフィが迫ってきた。
そして、当然のように三人とも服を着ていない――正確には服を脱ぎ掛け、いや、どちらかといえば着掛けていたのだろうか?
そんな中途半端な状態で俺にくっ付いてくる三人の少女達。
「ちょ、ちょっと待ってお前ら! 服を、服をちゃんと着ろ!」
四人の少女は、宿舎の家政婦――ネルファが着用しているのと同じ服を身に纏おうとしていた。
「も、もしかしてマルスさん、照れていらっしゃるんですか?」
(……照れてというより、どちらかといえば、焦燥感に近い感覚だと思う)
何せ明らかに異様だろ。
四人の少女が学院の部屋の一室で半脱ぎ状態なんていうのは。
「こ、これはイーリナ先輩のお言葉の通りなのでは!?」
イーリナ……? ま、まさかこのおかしな状況は、イーリナによって仕組まれたものなのだろうか?
「ご主人様、見て」
「このお洋服どう?」
混乱する思考の隙を付き、腕にくっ付いてくる双子の姉妹。
服をどう? などと聞いてくるが。
「お前ら半分以上脱げてるじゃないか」
俺が突っ込みを入れると、ルーシィとルーフィはお互いの姿を見て。
「半分着てる」
「だから問題ない」
「いや、問題はあるだろ」
こんな格好で、二人を外には出せない。
いるだけで男を狂わすような魔性を放つ闇森人がこんな格好で外に出れば、非常に大きな問題に繋がる気がする。
「ラフィ、もう全部脱いじゃっていいでしょうか?」
「いや、取りあえず着ろ」
などと、冷静に突っ込んでいる場合じゃない。
取りあえずどうしたものか。
「ま、マルス! 話してないでさっさと出て行って!」
「す、すまない!」
キッ! と怒りの眼差しをエリーに向けられ。
俺はルーシィとルーフィに掴まれて腕を振りほどき、部屋から飛び出した。
(……怒られてしまった)
着替え中なのであれば、鍵を閉めておいて欲しかったのだが。
いや――半開きだったとはいえ、最低限ノックくらいはしてから入るべきだったのだろうか?
それにしても、最近は部屋を追い出されることが多い。
折角委員会を作ったというのに、少しだけ寂しい感じがした。
(……この後は、どうするかなぁ……)
エリーは、やはり怒っているだろうか?
だとしたら、まずは彼女に謝るべきだな。
しかし、直ぐに部屋に入れば、またあの恐ろしい世界が待っているはず。
取りあえずは、みんなが服を着るまでこの場で待つしかなさそうだ。
そう決断し、一人待機していると。
「部屋の前で何してんだマルス?」
「おお、セイル。困ったことになってな」
訓練を終えたのか、ようやくセイルがやってきた。
「困ったこと? どうしたんだ? つ~か、入らねえのかよ?」
「いや、入らないんじゃなくて、入れないんだ」
「あん? 意味がわからねえ。
なんだ、とんでもねえ化物でも中にいるのか? って、んなわけねえよな。
そんなもんがいたら、お前が喜び勇んで倒してるってな」
「魔物やら化物だったら、どれほどいいか……」
「んなことより、さっさと入ろうぜ」
俺の制止など聞かず、セイルが扉の取っ手に手を掛けた。
「ま、待てセイル」
「なんだよ?」
「やめておけ。
世の中には踏み込んでは行けない一線がある」
本気でセイルを止めた。
「は? どういうことだ?」
「とにかく、今は待て!!」
「な、なんだってんだ……。
そんなマジになって」
俺と同じ轍を踏ませたくはない。
その真剣な想いが通じたのか、セイルは取っ手を離した。
「……何かあったのか?」
鋭い三白眼を向け、訝しむように尋ねる狼人に、俺はこの部屋の状況を説明する。
話を聞き終わった後。
「家政婦の服?
あいつら、何をする気なんだ?」
「俺が聞きたいくらいだ」
「……わりぃが、オレは帰るぞ?」
「ああ。
この中に飛び込むのは勇気ではなく蛮勇だ」
絶対に勝ち目のない戦いに挑むのと同じだ。
「だけど、お前は行くんだろ?」
セイルの目を真っ直ぐに見て、俺は頷いた。
あの格好がイーリナの仕業なのだとしたら。
俺に対し何かを仕掛けるつもりなら、逃げるわけにはいかない。
「わかった。
死ぬんじゃねえぞ、マルス」
「当たり前だ。
必ず生き残ってみせるさ」
また会おう。と、そんな約束を交わすように俺逹は握手をした。
そして、セイルはこの場から去って行ったのだった。