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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
17/201

授業初日⑥ 初めての座学

15 8/24 サブタイトルを変更しました。

* エリシア視点 *




 教室に戻るまでの間、ボクは自分の弱さを後悔していた。

 戦闘力だけじゃない。

 今悔いている弱さは、心の弱さだ。


(なんで……ボクはあんな話を……)


 この学院にいる人間は全員ライバルだ。

 競争相手なのだ。

 いつかはバレていたと思うが、わざわざ自分から欠点を教えるような真似をするなんて自殺行為に等しい。


(マルスなら、自分の力になってくれるとでも思ったの……?)


 戦ってみてわかったが、マルスの強さは圧倒的だ。

 戦いに負け悔しいと思う以上に、憧れの気持ちが心を満たしている。

 それほどマルスの強さは圧倒的だった。

 そんなマルスなら、もしかしたら魔術が使えない自分でも強くなれる方法を知っているんじゃないか?

 そうボクは考えた。

 でも、それは勘違いだと知った。


(強くならないと生きていけなかった……か……)


 だとしたら、こんなにも弱い自分は、どれだけ甘い環境で生きてきたのだろうか?

 そして信じられないほど力を持ったマルスは、どんな環境で生きてきたのだろうか?

 

(マルスの話を聞きたい。どんな些細なことでも。そこにはきっと、今のボクにないものが沢山あるはずだから……!)


 きっとそれは、今よりもボクを強くしてくれる。

 そう考えた。


 ボクの中で、マルスに対する興味がいっそう強くなったのを感じていた。




* マルス視点 *




 教室に戻ると既に授業は始まっていたようで、


「すみません、遅れました」

「話は聞いている。授業を受けるのであれば席に着け」


 エリシアが謝罪すると、細身のエルフの教官が淡々と告げた。


 言われるままに俺達は席に着く。


「では、授業を続ける」


 このエルフの教官が担当する授業は魔術学というものらしい。

 一体、どんなことを学べるのか。

 俺は鞄から魔術学の本を取り出した。

 ページをめくる。と、


(……なるほどな)


 軽く目を通した感じだと、この魔術書きょうざいには、冒険者として生きぬく上で習得しておく必要のある魔術が基礎から順を追って記載されているようだった。


 魔術というのは本来、魔術書を読みその手順に沿って訓練することで行使することができるようになるものだ。

 最初から高難度の魔術書に目を通したからといって、その魔術が使えるようになるわけがない。

 魔術に必要なものは基礎の積み重ねだ。

 基礎的な魔術を覚え、それを応用、発展させることで、新たな魔術を習得していくことができるが、本来、個人レベルではそれすらも難しいのだ。

 特殊な教育を受けた者でない限り、自分の覚えたい魔術の基礎となる魔術がわからないからだ。


 勿論、冒険者を目指すような者であれば、多少は魔術に明るいものもいるだろうが、一から十まで全て個人の判断で魔術を覚えていてはあまりにも効率が悪い。

 なにせ、世の中に存在する魔術書の数は計り知れない。

 複製されているようなメジャーなものから、禁呪と言われるような封印指定を受けた魔術まであるのだ。


 そこでこの学院は冒険者を育成する為の効率化を図り、最低限必要な魔術だけを覚えさせる為の魔術書きょうざいを用意したのだろう。


(なるほどな……)


 大したものだ。と思いはしたが……。


(眠くなってくるな……)


 身体を動かす実戦形式の訓練ならまだしも、座学とは退屈なものだ。

 俺の瞼はだんだんと重くなって、意識が落ちかけたその時、


 ――ツン!


 と、脇の辺りを突かれた。

 隣を見ると、エリシアが「寝ちゃだめ!」と言っているみたいな、困った顔で俺を見ていた。


(ああ……)


 どうやら座学を眠って過ごすわけにはいかなさそうだ。

 俺は眠気と必死に戦いながら、魔術学の授業をやり遂げるのだった。

       


           *



「いきなり寝始めちゃうと思わなかった」


 授業が終わると、エリシアからお叱りの声が飛んできた。


「すまん……。あまりの眠さに、教官が眠魔術スリープを掛けてるんじゃないかと疑うくらいだった」

「教官によっては本当に魔術が飛んでくる場合だってあるから、気をつけてね」


(……ラーニアとかだったらやりそうだ)


 そんな失礼なことを考えていると、


「マルスさ~ん!」


 間延びした声に顔を向けると、


「おお、ラフィ。どうしたんだ?」

「次は魔術訓練の授業なので、戦闘教練室まで一緒にどうですか?」

「またあそこに移動するのか?」

「はい。教室内で魔術を使うわけにはいかないのです」


(そりゃそうだわな……)


 この場で火の魔術なんて使ったら、文字通り室内が火の海だ。


「さ、さ、ラフィと一緒に行きましょう!」


 ラフィに腕を掴まれ、引っ張られた。


「そんな急かすなって。行こうぜエリシア」

「う、うん」


 エリシアとラフィの二人は面識がないのだろうか?

 戦闘教練室に向かう道中、二人は話そうとする素振りもない。

 ラフィはオレの腕と自分の腕を絡め隣を歩き、エリシアは一歩引いたように後ろについてくる。

 険悪というわけではないのだろうけど、


「なあ、二人は面識があるんだろ?」


 気になったので質問しておいた。


「そうだよ」

「はい! 一年の頃から同じクラスですので」


 が、それだけで会話は終わった。

 あまり親しくはないらしい。


「ご安心くださいマルスさん! ラフィはマルスさん以外の雄には興味ありませんから」


(いや、そういう心配をしてるわけじゃないんだが……)


「それに、別に気になることもありますし……」

「え?」

「そういえば、お二人が親しげなのは何故なんですか?」


 ラフィは小首を傾げた。


「ああ、俺がこの学院に来て最初の友達がエリシアなんだ」

「最初の友達?」

「マルスとは、宿舎で同室なんだよ」


 ラフィの疑問にエリシアが答えた。


「な、なんと!? お二人は同室だったのですか?」


 何かに動揺するみたいに、ラフィは驚愕していた。


「なんでそんなに驚く?」

「い、いえ……これといって深い理由は……。そうですか、同室……」


 それから戦闘教練室に着くまで、何かに悩むように難しい顔のままラフィは唸っているのだった。

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