競技仲間との交流を終えて
ツェルミンの話が一通り終わると、ノノノが俺を見た。
「マルス君、わたしが先に話すね?」
「ああ」
言って、ノノノは先輩たちの方に向きなおった。
「自分で言うのもなんですが、これといって秀でた能力はありません。
強いて上げるなら、どれも平凡なのが特徴ですね。
なるべく慎重にミスがないよう行動しますが、咄嗟の判断力に欠ける面もあると思います」
淡々と説明口調でノノノが述べた。
「試合中に、ノノノちゃんは自分に炎の玉を投げてきたっすけど、あの魔術の制御は見事なもんだったすよ」
「三年の先輩方なら、あのくらいできる方も多いと思うので」
特別優れた魔術ではなかった。
手の平サイズの炎の玉を投げ、それを自由に操る。
消滅しない限りは何度も襲い掛かる火の玉。
使い所を間違えなければ、相手の虚を付くことはできそうだ。
「ノノノさん、ああいう魔術の操り方はどこで覚えたのかな?」
興味を引かれたのか、ミストレアは口を開いた。
「覚えたというか……。
仮に魔術が外れても操作できれば、武器になるんじゃないかと思ったので、自主的に訓練したんです」
「……あなたの……固有魔術……という……わけね……」
「そんなカッコいいものじゃないですよ。
どちらかといえば、習ったことの応用に近いと思います」
初級の魔術でも応用の仕方で十分に武器になる。
ただ難易度の高い魔術を習得しようとするのではなく、自らの発想で魔術を応用できるのも間違いなく才能だろう。
ノノノは発想力や応用力は高そうだった。
それから、ノノノはいくつか質問を受け。
「これでわたしの話は終わりです。
最後は、マルス君だね」
柔和な笑みを向けたノノノと共に、鬼喰のメンバーとラフィの視線が俺に集中した。
特にラフィが物凄く目をキラキラさせている。
「なぜラフィまでそんな興味深そうなんだ?」
「マルスさんのお話であれば、ラフィはいつでも興味津々です!」
それにしてもラフィの視線はどこか眩し過ぎる気がした。
しかし、自分の能力について話せと言われても、何をどう話したらいいのか。
得意な魔術や苦手な魔術という話が出ていたが、とくに何が得意で苦手というのはない。
俺が一人考えていると。
「キミの力がズバ抜けているのは、先日の死旗を見ていればよくわかるさ」
「凄かったすね。
一体一でファルトと互角にやり合える人を初めて見たっすよ」
競技としては、俺自身はファルトの方が一枚上手だと感じたが。
試合を見ていた者からすると、俺とファルトは互角の戦いを繰り広げていたように見えたようだ。
「マルスさんは、手加減していましたからね」
「手加減? ファルト相手にか?」
ラフィの言葉に、ミストレアは首を傾げた。
競技としては手加減していたわけではない。
どちらかと言えば、手探りだったという感じだ。
「ファルト先輩ではマルスさんの足元にも及びませんよ」
「……それほどか」
ラフィは確信があるように、周囲に対して明言した。
「……競技に……戸惑いが……あるのね……」
イーリナの言う通りだ。
規定の中で勝利条件を満たすというのは、ただ敵を殲滅するよりも遥かに難易度は高いと感じた。
「よくわかんないっすけど、実力を出し切れないってのは、不憫なもんっすね」
「強過ぎる余りの欠点か。
戦いではなく競技ならではの悩みというわけだな」
欠点――と言われればその通りかもしれない。
まだ要領がわからない――という形に近いが。
「魔術の苦手な系統とかはないんっすか?」
「ないな。
どの系統でも問題なく行使できる。
好んで使うのは火が多いが」
それは師匠の影響だろう。
あの人は好んで火の魔術を使っていたからな。
師匠から最初に教わったのも火の魔術だった。
「どの程度の魔術を行使できる?
上級魔術か? それとも……」
ミストレアが真っ直ぐ俺を見つめた。
「威力や効果範囲ということであれば、最上級規模の魔術なら行使できるな」
「最上級!?」
大声を上げたのはツェルミンだった。
「き、聞いてないぞ!」
「初めて話したからな」
知っていたらおかしい。
「……最上級か。
小さな村なら吹き飛ぶレベルと聞いたことがあるが……」
「本当だとしたら、とんでもないっすね」
「A級の冒険者でも、最上級魔術を行使できる人は限られているんじゃないでしょうか?」
A級の冒険者が大陸にどれほどいるかはわからないが。
かなり珍しいということは、ここにいる者たちの反応で理解できる。
「……他には……?」
「他?」
イーリナの発言に俺は疑問を感じた。
その表情は窺えないが、俺から直接聞きたいことでもあるのだろうか?
「……技能……は……?」
「持ってるが?」
「え!?」
素っ頓狂な声を上げたのはラフィだった。
「ま、マルスさんも、技能保有者だったんですか!?」
「ああ。
一度も使ったことはないがな」
「え?」
今度は疑問に首を傾げるラフィ。
首の動きに合わせて、長い兎耳も動いた。
「師匠に技能を使用することを禁止されてるんだ」
「使用を?」
「ああ」
嘘ではない。
だから俺は一度も技能を使用したことがないのだ。
「何か意図があったのでしょうか?」
「さてな」
結局、その理由は一度も聞くことができぬまま、師匠は死んでしまった。
暫くイーリナは、じ~っと(正確には顔を見ることができないのでわからないが)俺を凝視し。
「……そう……。
悪い……ことを……聞いて……しまって……」
申し訳なさそう? に頭を下げた。
「マルス君、その技能の効果――いや、そもそも、今後技能を使うつもりはあるのかい?」
「約束している以上、今後も使うことはないだろうな」
技能は発現した瞬間に使用の仕方を理解するものだ。
発現したときのことは覚えていないが、師匠に拾われた頃にはこの技能の使い方を理解していた。
だが師匠に拾われて以降、技能を使用したことはない。
「……約束……なら……仕方……ない……わ」
「そうっすね。
約束は守るもんっすから。
さて、これでみんなの能力についてはわかったすね」
「ああ。
後はそれを補う為のチームワークを身につけなくては」
その辺りは、今後の課題になるだろう。
――コンコンコン。
話の切りが良いところで、扉が三度ノックされ。
「開いているぞ」
俺が答えたところで、ようやく扉が開いた。
「失礼します」
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」
入ってきたのは、エリーとアリシアの二人だった。
「ん……ミストレアにコルニス――と、イーリナもですか」」
「やあ、アリシア。
お邪魔してるよ」
「それは私に言うことではありません」
「ただの冗談じゃないか。
相変わらず真面目だなアリシアは」
面白みのない返答を返すアリシアに対して、ミストレアは苦笑を浮かべた。
「交流の委員会に相談――というわけではありませんよね?」
「ああ。
競技の相談だ」
「……なるほど」
椅子に座る俺たちを見て、アリシアは何かを納得したようだ。
「こちらこそ、邪魔をしてしまいましたか?」
「丁度話も終わったところさ。
さて、何やら生徒会の用事があるようだし、ワタシたちはそろそろ帰るとしようか」
「そうっすね。
んじゃ、また明日から宜しく頼むっすね!」
ミストレアとコルニスの二人が席を立ち。
「……マルス……君……また……。
ラフィ……さん……も……」
「はい! 先輩とは後日ゆっくりと!
色々聞かせていただかなくてなりませんから!」
ラフィとイーリナはあっという間に親交を深めているようだった。
「ノノノ、僕らも行くか?」
「そうだね。
じゃあ、みんなまた明日!」
三人の先輩と二人のクラスメイトが部屋を出て。
部屋に残ったのは俺とエリー、ラフィとアリシアの四人のみになった。
ルーシィとルーフィに、セイルはまだ来ない。
「まだ全員来てないんだね」
「ああ。
競技の話し合いが長引いているのかもな」
定期試験で好成績を納めたエリーは、再び生徒会に所属できることになった。
生徒会に所属して以降も、毎日こっちの委員会に顔を出して帰りは一緒に帰宅しているので、エリーが来ること自体は珍しいことではないのだが。
「それで、何か仕事の相談か?」
エリーとアリシアが共にこの委員会にやってきたということは、何か生徒会絡みの仕事があるということだろう。
「ええ。
生徒会のみで対応可能だとは思いますが、一応話だけはと思いまして」
それだけ前置きして、アリシアは本題に入った。