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デモンイーター(訓練)③

 そして地面がボコッと浮き上がり。


「っぷはー!? ったくもう、イーリナは人使いが荒いっすよ」


 地を割って顔を出したのは猫人族のコルニスだった。

 どうやら地中を掘り進んで移動していたらしい。


「は、離してください」

「そういう訳にはいかなっ――!? って、み、見てないっす、自分は何も見てないっすから」

「え……? ――はっ!?」


 突然コルニスが顔を伏せ。

 ノノノは足を掴まれた状態のまま股を閉じた。


「コルニス先輩! な、何を考えてるんですか!」

「ち、違うっす。不可抗力っすよこれ!」

「いいから一度手を離してください!」

「は、はい……!」


 強い語調でノノノが叫ぶと、コルニスはその指示に従った。


「コルニス! 手を離したのか!? 何を考えている! 試合中だぞ!」

「い、いや、で、でも……」


 俺が拘束している状態のまま、ミストレアの叱咤が飛ぶ。

 だが怒鳴りたくなる気持ちはわかる。

 彼女からすれば、敵の言うことを聞いてどうするんだ。と思うのが当然だろう。


「コルニス先輩……責任取っていただきますよ」

「や、だ、だからそれは……」


 ノノノがしゃがみ、コルニスの手をガシッと掴んだ。


「い、いた、いたたたた――ひ、ひいいいいいいいい一!? 鬼の形相っす!」

「いやですよ、何を言ってるんですか?」


 俺の位置からではノノノの顔は見えないが、その形相は少しだけ気になった。


(……あっちはノノノに任せておけば問題なさそうだな)


「さて、こっちも片を付けようか」

「はぁ……上手くいかないものだな」


 溜息を吐くミストレアだったが。


「だが――まだ手はある」


 予想外の事態を踏まえさらに別の手を用意していたのだろう。


「地に宿る命よ……芽生え……そして捉えよ」


 イーリナの声だけが聞こえた。

 そして――ツェルミンの水魔術でぬかるんだ地面から。


「っ――」


 樹木の枝のような物が生え、俺の足に纏い付いてきた。


(……面倒だな)


 細い枝が何重にもぐるぐると足に絡まり、俺を拘束していく。


「逃げなくてもいいのか?

 このままでは全身拘束されるぞ?」

「そうだな」

「流石のキミも、イーリナの拘束魔術を解くのは楽じゃないかい?」


 無限に伸び続ける木の枝は、魔力を注ぎ続ける限り俺に迫ってくるようだ。

 強度もそこそこで、軽く動いた程度ではビクともしない。

 だが。


「いや、少し面倒なだけで、この程度ならどうにでもなるよ」

「……ほう」


 警戒するような呟き。

 ミストレアは、俺の言葉をでまかせだとは思っていないようだ。

 だが、その判断は半分正しく半分間違いだ。

 彼女が今警戒しなくてはならないのは。


「ツェルミン、そろそろ拘束は解けたか?」

「――すまぬ、待たせた!」


 穴の中、四肢を拘束され寝転がっていたツェルミンが立ち上がった。

 泥だらけになった腕を伸ばし。


光玉(ライト)!!」


 ツェルミンがミストレアの眼前で弾けた。


「ぐっ!?」


 防ぐことはできず光を直視したミストレアが、苦渋の声を漏らした。

 光玉により目が眩んでいるミストレアは、俺たちの動きは掴めない。

 行動するなら今がチャンスだ。


「では、必要な物も貰ったし一旦引かせてもらうか」

「なっ!? ま、まさか……」


 俺はミストレアを拘束を解き、足を拘束する木の枝を無理矢理引きちぎった。

 拘束の解けたミストレアが、直ぐにスカートのポケットに手を入れて、何かを探すように手を動かしていたが。


「くっ!? ――いつの間に!?」


 ミストレアの悔しそうな声が耳に入った。

 彼女の探している物――勝利条件の書かれた紙は今俺の手の中にあった。

 折りたたまれた紙を広げて勝利条件を確認すると。


○勝利条件

 敵チームの選手、三人を何らかの手段で拘束する。


 そう書かれていた。

 これでまずは一人。

 後二人の勝利条件がわかれば、俺の勝利条件が満たせる。


「ツェルミン、ノノノと合流次第、一旦引くぞ」

「うむ! 了解だ!」


 俺たちは交戦中のノノノの元に駆け寄った。

 既にコルニスは地中から這い出ていて、ノノノから逃げ回っていた。


「どこまで逃げる気ですか!」

「ど、どこまでって追うのを諦めてくれるまでっす!」

炎球(ファイアーボール)!!」


 ノノノが炎の魔術を放った。

 一直線にコルニスに向かって飛ぶ炎球。


「よっと」


 だが、コルニスは軽々と避けた。


「そんな単調な魔術じゃ当たんないっすよ」

「それはどうでしょう」


 手を突き出したまま、軽やかな声でノノノは言うと。


「は……なに言ってんっす――っ!?」


 避けたはずの炎球が突然静止し、コルニスに向かい戻ってきたのだ。

 しかし、コルニスはしゃがむことでギリギリ炎球を避け。


「っと――あ、危なかったっす」

「逃がしません」


 ノノノの声に呼応するように炎球がコルニスを襲った。

 完全に追尾している。

 どうやら炎球を魔力で制御し自由自在に操っているようだ。


「ったく――厄介な魔術っすね」

「大人しく当たってください」


 避けられる度に、炎球がコルニス目掛けて舞い乱れる。

 が、冷静に炎球の軌道を読み、コルニスは避け続けた。

 だが、これではキリがない。


(……何より、今も姿を見せないイーリナのことが気掛かりだ)


「ノノノ、一旦ここから引くぞ」

「う……うん」


 小人族の少女の横を駆け抜ける間際、声を掛けた。

 すると、ノノノが魔術の制御を解いたのか炎球は消失した。

 そして――。


「先輩、これをやるよ」

「っ――えっ!?」


 俺はコルニスに向かい、ミストレアから奪った紙を投げた。

 ひらひらと風に舞うようにゆったりと飛び。

 反射的にコルニスは、その紙を手に取っていた。


(……チームメイトに勝利条件を知られた場合、選手は失格となる)


 このまま紙を目にすれば、コルニスはミストレアの勝利条件を知ることになり、強制的に失格となる。

 後は中を見れば――。

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