デモンイーター(訓練)②
試合開始を告げる爆炎が放たれ、青空を真っ赤に染め。
――ドカーン!!
と、学院中に轟音が響き渡った。
「試合開始だな」
「予定通り敵チームを探そう」
「うむ、三人纏まって行動を心掛けるのだぞ」
いつも通り上から目線のツェルミンではあるが、死旗の訓練では、リーダーがどうのと自己主張の激しさが目立っていたが、あの時に比べれば今回は随分と大人しい。
「……なんだ?」
「いや、今回はリーダーを決めなくて良かったのかと思ってな」
「行動を決める際の意思統一は必要だが、今回はそれぞれ勝利条件が違うからな。
リーダーを決めて指示を出したとしても、その行動に従えないなら意味がないだろ?」
「無理に行動を指示して、相手の勝利条件に触れたらマズいもんね」
「うむ」
意外と……というのは悪いが、色々考えているようだ。
「では、まずは学院校舎側に向かうぞ。
問題ないな?」
「了解」
「うん、わかったよ」
しかし、なんだかんだで仕切る辺りはこの男の性格なのだろう。
俺たちは学院校舎に向かい足を進めた。
ノノノは小人族なので歩幅が小さく、身体能力も高いとはいえない。
その為、ノノノに合わせて行動していく。
(……風の魔術でも行使すればもっと速く移動できるのだが)
ノノノ自身がそうしないところを見ると、何か複雑な条件があるのか。
それとも魔力を温存しておきたいわけでもあるのか。
試合が終わった後、全員にどんな勝利条件が出されていたのかは確認したいものだ。
「むぅ……人影すらないな」
「……どこかで待ち伏せしているのかも」
学院校舎に接近していたが、確かに周囲に人影は見えない。
全部で六チーム――十八人も選手がいるのだ。
一チームくらいは見つけていてもおかしくないと思うのだが。
「校舎裏に回ってみるか?」
「うむ」
「そうだね」
次の行動を決め、校舎裏に回ったがやはり誰もおらず。
「うん?」
だが、違和感に気付いた。
ばかデカい校舎のせいで影に覆われている地面が、ほんの少しだけ盛り上がっていて。
「マルス、どうかしたのか?」
「あれだよツェルミン」
ノノノも気付いたようで、地面を指差した。
「ん? なんなのだあれは」
「罠かもな」
「……なら――確かめてやろうではないか」
ツェルミンが手を向けて。
「水よ――我が手に集まり塊となれ」
魔力を使い大気中に溢れる水の元素を集め、水塊を形成していった。
「放て!!」
その叫びと共に、ツェルミンの手から水の塊が地面に向かい発射された。
バシャーーーーン!!
水の塊が弾けて地面に染み込んでいく。
「ぅ――」
呻くような声が聞こえた
「中に隠れているのだな!
――もう一発だ!」
水塊がもう一発放たれ、地面に当たり弾けた。
水で濡れてぬかるんでいた為か、盛り上がっていた土が吹き飛び泥が跳ねた。
「ふははははっ! 喰らえ喰らえ!!」
さらに数発。
敵が隠れているのは確実。
このまま穴の中から出てくるまで、ツェルミンは撃ち続けるつもりのようだ。
だが、放たれた魔術が十発に届くくらいで。
「つ、ツェルミン、待って」
「なんだノノノ。
敵がいるんだぞ?」
「本当にあの中に敵がいるの?」
「何を言ってる。
声が聞こえたではないか」
だが最初の一発以外、敵は声すら上げない。
「……まさか」
慌ててツェルミンが穴の開いた地面の中に駆け寄っていくと。
「……いないではないか!?」
言って右往左往とツェルミンが周囲を見回した後、もう一度覗き込むように穴を見た――その時。
(……うん?)
地面に出来ていた影が濃くなったように見えた。
(……――まさか!?)
俺は空を見上げた。
すると――。
「ツェルミン、上だ!!」
「っ――!?」
上空から落下するように迫ってきたのは。
「えっ――ミストレア先輩!?」
ノノノが驚愕し叫び声を上げた。
そのまま加速し急降下してくるミストレアに対して、固まったまま動けないツェルミン。
(……攻撃を受けるのか?)
動けずにいるツェルミンが行動不能にされた場合、戦局は一気に不利になる。
そう考えていたのだが。
落下してきたミストレアは地面に落ちることなく。
「風よ!!」
風の魔術を地面に放つと急速に落下速度が緩んだ。
さらに、その風圧にツェルミンが身を硬くする。
「虚を付かれたのは判るが、こういった事態では冷静に動けるようにしなくてはね」
優雅に着地したミストレアが、ツェルミンの背中に触れて。
「暴徒を鎮める光の鎖を――拘束」
ツェルミンの四肢が光の拘束具によって拘束された後、ミストレアは背を押した。
「んぐっ!?」
なす術もなく開いた穴に落とされるツェルミン。
(……やってくれるな)
だが、やられてばかりで終わるわけにはいかない。
俺は地面を蹴った。
「やるな先輩」
「っ――!?」
ミストレアの背後を取り囁くように耳打ちし、反撃させないように腕を拘束した。
(……流石にこの程度なら攻撃を加えたうちには入らないだろう)
勝利条件に面倒な条件が付加されている為、少々厄介だった。
「ツェルミン、その拘束、自分でどうにかできるか?」
「す、すまぬマルス。
……この程度ならなんとかなる」
穴に落ちて泥塗れになったまま、ツェルミンは答えた。
魔術解除にどのくらいの時間が掛かるだろうか?
と、考えていると。
「……流石だね、マルス君」
ミストレアが冷静に声を掛けてきた。
余裕ぶっているわけではなく、冷静に状況を把握しようとしている。
「攻撃を加えないのかい?
キミなら傷つけずにワタシを行動不能にすることなど、容易いと思うが」
「そんなことするまでもないんだ」
俺の勝利条件を探ろうとするミストレアに。
「そうか。
でもなマルス君。
いいのかい? ワタシ一人にかまけていて」
「……?」
意味有り気な発言の直後――。
ボゴッ――。
「え……!?」
背後から小さな悲鳴が上がった。
ノノノの声だ。
俺は振り向くと。
「――な、何っ!?」
地面から手が伸びて、ノノノの足首を掴んだ。