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学院対抗戦――参加競技決定③

「優勝を目指すと言ってた割には、随分適当だな」

「……冗談よ。

 覚えてたに決まってるでしょ。

 この後、鬼喰デモンイーターのメンバーと親睦会でもやるかしら? と気を利かせてあげたの。

 あんた一人だけ残すのも悪いかなって……――って、何よその目は!」


 拳を振り上げられ、睨まれた。

 本当か? と疑いの眼差しを向けていたのがバレたようだ。

 だが、気を利かせたと俺をエリーと相部屋にしたり、わざわざ歓迎会を開いたりしてくれたラーニアだ。

 もしかしたら本当に俺の為を思ってくれたのかもしれない。


「イーリナは後で委員会に遊びに来るとか言ってたよ。

 それに明日から訓練で顔を合わせられるしな」

「ま、そうなんだけどさ。

 三年生は今年で卒業だし、接点をもてるなら今のうちかと思ったのよ」


 なるほど。

 確かにそう考えると、多くの三年生と接点を持っておきたい気はする。

 これだけ多くの生徒がいるのに、まだどんな生徒がいるのかすら把握できていないのは勿体ないことだと思った。


「だが、今日はあのまま解散だったな。

 出口から耳を覗かせて待ってるヤツもいるしな」


 出口では、白兎の耳が出たり消えたりしていた。

 こっちに来ないのは、話し合いの邪魔をしてはいけない。と思っているのだろうか?


「甲斐甲斐しいわね~。

 なら、戦王バトルロイヤルについては簡単な説明だけにしときましょうか。戦王(バトルロイヤル)は競技の中では最も単純(シンプル)

 冒険者育成機関最強の生徒を確かめるという趣旨で存在している競技よ。

 競技という扱いになってるけど、実際は実戦に近いわ」


◯競技内容

 全十校の中から一人ずつ代表選手を選ぶ。

 その選ばれた生徒で実戦形式の勝ち抜き戦を行う。

 勝利条件は三つ。

 戦闘不能になるほどのダメージを負わせる。

 意識を奪う。

 選手自身に負けを認めさせる。

 全七競技の中で、最も獲得できるポイントが高い競技でもある。


「殺しは禁止。

 でも即死しない程度――魔術で治癒できるレベルの攻撃は認められているわ。

 試合は教会の修道士、修道女を始め、治癒魔術に長けた教官も付いているから、ほぼ死ぬことはないと思うわ。

 試合中に、無茶苦茶なことをしない限りね」


 ラーニアの真紅の瞳は、俺に注意を促していた。

 絶対に殺すなよ……と。


「十分気をつけるって」

「ならいいわ。

 あんたの実力なら特殊な訓練は必要ないと思うんけど、どうかしら?」

戦王(バトルロイヤル)の訓練ってのは、要するに実戦訓練のことか?」

「ええ、この競技に選ばれた者は基本的には教官と訓練する感じになるわね」

「教官と?」


 それはつまり、俺がラーニアと戦うという認識でいいのだろうか?


「でも、必要ないでしょ?

 そんなことしなくても、勝つわよね?」


 不敵な笑みを浮かべるラーニアに、当然のように言われた。

 そして俺は、当然勝つつもりでいるが。


「正直、戦王(バトルロイヤル)よりも、ラーニアと戦うほうが面白そうだな」

「もしかしたら、化物みたいに強い生徒がいるかもしれないわよ?」

「確かに信じられないくらい強いヤツはいるかもな。

 だとしても、俺が勝つが」

「口だけでないなら、自信があるのはいいことよ」

「自信じゃなくて確信してるんだよ」


 師匠アイネが言ってくれたことがあった。

 俺に勝てるヤツはいないって。

 だが『自分を除いてな』とも言っていたけど。


(……もし今、俺が師匠と戦ったとしたら、勝つことができるだろうか?)


 何度か自問自答したことはある。

 だが、もう絶対に勝てない相手になってしまった。

 一生追いかけるしかないのなら、少しは追いつけたと信じたい。


「へぇ――勝てるヤツはいないとは大きく出たわね」


 挑発的な笑みを浮かべるラーニア。

 持ち前の負けん気だろうか? がほんの少し漏れ出していた。

 だが、実際に戦おうとは口に出さない。

 ちょっとした訓練程度では、本当の実力など見えない。

 本気の戦いでなければ、強さを競う意味はないが。

 それは、どちらかが死ぬことを意味しているとラーニアは理解しているのだろう。


「でも、慢心でないならいいわ。

 それは口ではなく行動と結果で示せばいい。

 ウチの学院は、少なくとも優勝候補ではないから、番狂わせを起こしてやんなさい!」

「任せろ!」

「それと、戦王バトルロイヤルの訓練がしたいなら、あたしに声を掛けなさい。

 学院対抗戦前なら、軽く付き合ってあげる。

 ただし鬼喰デモンイーターの訓練が優先よ!

 あっちはチーム戦だから、一筋縄ではいかないと思っておきなさい」


 その言葉に、俺は首肯した。

 死旗デスフラッグの訓練で、十分にチーム戦の大変さは理解したつもりだ。

 自分の力だけでは勝てない。

 そして誰かのミスで負ける可能性がある。

 団体競技というのは非常に厄介なもので――その分やりがいのあるものだ。

 今、俺が持つ団体戦のイメージはこんな感じだった。


「さて、少し話もそれたけど。

 他に何か質問はあるかしら?」

「大丈夫だ。

 何か気になることがあれば、その都度質問させてもらう」

「ええ、それでいいわ」


 ある程度、話が纏まったところで、他の競技の話し合いも段々と終わり、選手たちが戦闘教練室を出て行く中で。


「お疲れ様でした」


 エリーがチームの先輩たちに挨拶をしているのが見えた。

 軽く会話を交えた後、エリーは周囲を見回し。


「ぁ――マルス!」


 俺と目が合うとエリーは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「おう、エリー。

 やっと終わったんだな」

「うん。

 ありがとう、待っててくれたんだね」

「みんないるんだし、どうせなら一緒に帰ろうと思ってな」


 続いて、セイル。

 そしてルーシィとルーフィも、話し合いが終わったようで。


「ご主人様、待っててくれた?」

「お腹空いた。直ぐに帰る?」

「もう夕食が始まってる頃じゃねえか?」

「確かにお腹ペコペコ。

 マルス、みんなも揃ったし帰ろうか」

「そうだな」


 五人揃った。

 後はさっきから我慢できずにちらちらとこちらを見ているラフィを回収して、いつものメンバーで帰宅するとしよう。


「それじゃあな、ラーニア――教官」

「失礼します」

「うっす」

「「……」」


 ルーシィとルーフィは、言葉の代わりに頭をちょんと下げた。


「ええ、お疲れ」


 微笑ましそうに笑うラーニアの返事の後、俺たちは踵を返し。

 戦闘教練室を出た。

 出口で「マルスさ~ん!」と俺の名前を呼び、腹部に突撃してきたラフィを受け止め。

 俺達は宿舎に帰るのだった。


            *


 そして次の日。

 午前の授業は何事もなく終わり。

 午後の授業から――学院対抗戦用の訓練が始まったのだった。

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