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代表選手決定②

 無駄に趣向を凝らした登場の為、全生徒の視線が一斉に学院長に向いている。

 俺も含めたほとんどの生徒が、学院長の姿を見たのは久しぶりではないだろうか?

 年齢を感じさせぬ精悍な顔付きに変化はないが、頬が痩け少しばかり疲れが見える。

 魔族の件以降、やはり多忙を極めているのかもしれない。


「皆も気になっているだろうが、学院対抗戦について発表がある」


 演壇から生徒たち一人一人の顔を見渡した学院長は。


「各国の代表、重要機関と会議を重ねた結果、例年通り学院対抗戦を開催する事が決定した」


 淡々と決定事項を告げた。

 意外なことに、生徒たちに驚きはない。

 開かれて当然という認識をされているのかもしれない。


「が――全てが例年通りとも言うわけにはいかなくなった」


 この学院長の発言で、静謐な集会場にざわめきが生まれ。


「本来、学院対抗戦はこの大陸の中心に設立された専用競技場で開催されていたのだが、

 今年は例外として、開催地を変更することになった」


 ざわめきが広がる中――。


「開催地はこのユーピテル学院に決定した」


 学院長の口から、ただ淡々と開催地が伝えられ。

 その余りにも意外な決定に、生徒たちは静まり返った。

 今、生徒たちの脳裏には。


 ――なぜだ?


 そんな疑問が浮かんでいるのかもしれない。

 だが、その理由は明白だろう。


(……それは)


 魔族の件――スミナの敵討ちはまだ済んでいないと言っているのと同義だった。

 この学院を開催地にしたのは、全てを把握しているとまで宣言するこの学院内であれば、

 どんな状況においても生徒を守りきる自信があると、そう判断した結果なのだろう。


(……もしくは、餌を撒くことで魔族が喰いつくのを待っているのか)


 喰いつけば、発見と同時に魔族を殲滅できる。

 もし現状で、未だ魔族の動向を掴めていないのなら――……いや、これは考え過ぎか。


「学院対抗戦開催に伴い、多くの来賓がこの学院に来ることになった。

 勿論、各学院の代表選手もここに集まる。

 選手の移動は各学院に転移の魔法陣を設置する」


 外に出る必要なく、生徒たちはこの学院に来られるわけか。

 安全な移動と万全な警備が可能だと、学院長は強調したいようだ。


「学院対抗戦用の競技場には、戦闘教練室を『利用』し使用する予定だ。

 主な伝達事項は以上だが、何か質問のある生徒はいるかね?」


 話を終えた学院長が、座席に腰を下ろしている生徒たちの顔を見回す。

 だが、声を上げる者はおらず。


「では、ワシの話は終わりだ」


 その言葉だけを残し、姿を消していた。

 何度か目にする光景ではあるが、生徒たちの口からは驚嘆が漏れ、視線は舞台上に釘付けにされていた。

 舞台上に残っているのはラーニアのみで。


「あんたたち、もういい加減慣れなさい」


 苦笑するように言った後。


「さて、このまま解散と言いたいところだけど。

 この後、あんたたちが楽しみにしていた、学院対抗戦の代表選手の発表をするわ」


 ラーニアが言うと、数人の教官が舞台に登っていく。

 その中には魔女帽子を被った見た目お子様の教官の姿も見えた。

 舞台に上がったかと思えば、リフレはそのまま壇上に立って。


「じゃあ~、まずは三年生の代表選手から発表だよぉ~。

 呼ばれても、壇上に上がらなくていいからね~。

 全員上がったら舞台がいっぱいになっちゃうからぁ」


 小柄ながら、集会場全体にはっきりと届く声が聞こえ。

 リフレの間延びした声が、代表選手の名前を呼び上げていった。

 アリシアやファルト、ネネアの名前は、当然のようにその中に含まれていた。

 三年生だけで十人以上の代表選手が名前を呼び上げられていた。


(……代表に選ばれるのは、やはり三年生が多いのかもしれない)


 実力で選んでいるのは勿論だろうが、今年で卒業してしまう三年生にとっては、ギルドを初めとする各機関に実力を見せ付け名前を売るまたとないチャンス。

 来年以降もチャンスのある一年生や二年生とは、やる気も段違いだろう。


「てなわけで、全部で二十三人の選手を三年生から選ばせてもらったから~。

 どの選手がどの競技になるかは、他の学年の発表が終わってからね」


 小柄な魔女が無邪気に微笑み、壇上から下りた。

 続いてラーニアが壇上に上がると。


「二年の選手代表を発表するわよ」


 宣言の後、次々に選手の名前が呼ばれていく。

 代表に選ばれた生徒は、エリー、ルーシィ、ルーフィ、セイル、ノノノ、ツェルミン。

 そして、壇上に立つラーニアが俺を見た。

 真紅の瞳は確かに俺を捉え。


「マルス・ルイーナ」


 名前を呼ばれた。

 視線が交差したのは一瞬で、直ぐにラーニアは全体を見渡すように視線を上げ。


「以上の七人が二年生代表よ。

 三年よりも選手が少ないのは、毎年のことだけど、

 それだけ実力差があるってことは忘れんじゃないわよ。

 悔しかったら、その悔しい想いを強くなる為の意志になさい!」


 発破を掛けるラーニアに、生徒たちは重々しく頷き。

 そんな生徒たちに小さく微笑み、ラーニアは壇上から下りた。

 続いて森人のシーリス教官から、一年生の代表選手の名前が告げられた。


 細い見た目から発せられた低い声が呼んで生徒の中には、生徒会の二人の名前も含まれていた。

 しかし、少しだけ疑問だったのは、


「以上、十人が一年の代表だ。

 新人戦の優勝を目指し精進しろ」


 二年の代表が七人だったのに対して、一年から十人の代表が選ばれたことなのだが。


(……一年生のみ、新人戦というのに参加できるからか?)


 正確な答えはわからないが、この話が終わった後、誰かに聞いてみよう。


「さて、この四十人がウチの学院の代表よ。

 代表選手としての自覚を持って――なんてこと、当然あたしたちは言わないわ!

 そんな自覚なんて持つよりも、結果を残すことを考えなさい!

 冒険者育成機関全十校の頂点に立つこと!

 それが、あんたたちの目標よ!」


 再び壇上に上がったラーニアが、全生徒に喝を入れるように強い語調で言い放った。

 それに答えるように生徒たちも。


「やる以上は、優勝だな」

「去年の屈辱は今年晴らす!」

「上位入賞すれば、冒険者としての道は開けたも同然だしね」


 反応は様々ではあったが、より気合は入ったようだ。


(……しかし、優勝か)


 俺が編入したばかりの頃は。


『できることなら今年、上位三校には名を連ねたいところね』


 なんて、控えめなことを言っていたのに。

 もしかしたら、あの時に優勝を目指すと宣言したことでラーニアをその気にさせてしまったのかもしれない。


 その証拠と言う訳ではないが、ラーニアはニヤッと俺を見て微笑んでいた。

 俺は思わず苦笑を浮かべ。


(……少なくとも、俺が出場する試合は全て勝ってみせる)


 まだどの競技に出ることになるかはわからないが。


「今日の放課後、代表選手は戦闘教練室に集まりなさい。

 顔合わせと出場競技を決定するから。

 話は以上、質問がなければ解散!」


 その言葉を最後に伝達事項は全て終わり、解散を告げられたのだった。

更新遅れていてすみません。

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