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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
15/201

授業初日④ ラフィの想い

15 8/24 サブタイトルを変更しました。

* ラフィ視点 *



                  

(ふふふっ~チャンスなのです!)


 現在、ラフィとマルスさんは一緒に医務室に向かって歩いています。

 ラフィは表面上おっとりと振る舞っているつもりですが、内心はワクワクとドキドキで胸を高鳴らせています。

 なにせ今日という日は、ラフィにとって理想の雄――つがいとなるべき相手に巡り合うことができた記念すべき日になったのですから!


(ああ……こんなに強い人がこの学院に入学してくるなんて……)


 ラフィは、これまでの人生で感じたことのないような最高の高揚を感じています。

 ラフィたち兎人族ラビットぞくは、獣人の中でも戦闘力が低くひ弱な一族です。

 その為、自分たちの身を守る為に、強者をつがいとして求めるという習性があります。

 元々、ラフィがこの学院に入学したのも、自分の理想とする強い雄を探し出し番いとなる為でした。

  ですがこれまで、運命の相手と思えるほど惹かれる雄は教官も含め一人とすらいなかったのです。

 でもそれは、マルスさんと出会う為だった。

 そう、ラフィは強く感じているのです。


(ラフィは、絶対にマルスさんと結ばれてみせます……!)


 そんな熱いを想いに気付いてほしくて、ラフィは隣を歩くマルスを見つめました。

 でも、マルスさんは全く気付く気配がありませんでした。

 だ、大丈夫! まだまだ戦いはこれからなのですから!

 



* マルス視点 *




「失礼します」


 ラフィが言って、俺達は医務室に入った。

 しかし室内には誰もいない。


「まだシスターはいないみたいですね。とりあえず、エリシアさんをベッドに」

「そうだな」


 俺は背負っていたエリシアをゆっくりと下ろし、そのままベッドに寝かせた。


「マルスさんは、これからどうしますか? 次の授業までまだ時間はありますけど?」


 ラーニアは自習と言っていたが、これといってやることはない。

 なら、


「俺はエリシアが起きるまで、ここにいることにするよ」

「……そうですか」


 そう言ったラフィは、どこか不満そうだった。


「どうかしたのか?」

「い、いえ、なんでも。あの、ラフィもここに居てもいいですかぁ?」

「ああ、構わないけど?」

「ありがとうございます」


 ラフィは、先程までの不満顔が嘘のような満面の笑みを浮かべていた。


(随分と感情表現が豊かなヤツだな……)


「それで、マルスさん。告白の返事はいつ貰えますか? ラフィは今も胸がドキドキしているので、できれば返事は早めに欲しいのです」


(……忘れてた)


 当然、そんなことを声に出して言えるわけもない。

 俺はこの子に告白されていたのだ。

 さきほど、なんの前触れもなく、ただ唐突に。


「疑うわけじゃないんだけど、本気なんだよな?」

「勿論です! もしも可能であるならば、ラフィの胸の熱い想いを、マルスさんにお見せしたいくらいですよ!」


 即答だった。

 俺を見上げる瞳は真剣そうのもので、彼女の思いを否定する方がバカらしいと思えるほどだった。


(本気だな……)


 しかし今日会ったばかりで、ろくに会話もしていないのに好きになったと言われても返事に困る。


「そもそも、なんでラフィは俺を好きになったんだ?」

「運命を感じたからです!

 さっきの戦い、凄くカッコ良かった。

 そして、マルスさんはあの場にいる誰よりも強くて凛々しかった。

 見るものを虜にしてしまうような圧倒的な強さと、その強さを裏付けるような自信に満ち溢れた表情、とにかく素敵だったのです!」


 そこまで手放しに褒められると、俺も流石に恥ずかしい。

 しかし、当のラフィは心酔しているみたいに、ふわっ~っとした表情を浮かべていた。


「……ラフィの気持ちはわかった。好きになってくれたのは素直に嬉しく思うぞ」

「では、ラフィの番いになってくださるのですか?」

「番い?」

「はい! 人間で言うところの夫婦です」

「ふ、夫婦……?」


 また予想もしていな方向に話が展開してしまった。

 ラフィはキラキラと瞳を輝かせている。

 どうやら、俺の返答に期待しているようだけど、


「……それは無理だ」

「ええ!? どうしてですか!」


 断られることなど考えてもいなかったように、ラフィは驚愕していた。

 だが、考えてみろ。


「まだ恋人にもなっていないんだぞ?」

「何か問題があるのですか?」

「お互いが本気で好き合っていれば時間や種族なんてものは関係ないと思う。

 でも、ラフィには悪いけど、恋人にしたいと思えるほど俺はラフィに好意を持ってないんだ」

「……」


 ラフィは何も言わず、ただじっと真剣な表情で俺の瞳を見つめた。

 その赤い瞳は深淵のように深く、まるで俺の心の底を覗き込まれているような気がする。

 しかし、少しするとラフィはその表情をニコッと緩め破顔した。


「わかりました。

 でも、マルスさんには必ずラフィのことを好きになってもらいますよ!

 その時は、ラフィと番いになってくださいね!」

「ああ、俺がラフィのことを、心の底から好きになったらな」


 そうなるかどうかはまだ誰にもわからない。

 もしかしたら、本当に俺はラフィのことを好きになるかもしれないし、ならないかもしれない。


 しかしラフィは自信満々に、


「絶対、マルスさんの気持ちはラフィに向きますから!」


 きっと根拠があるわけではないのだろう。

 しかし、そう言って笑みを浮かべるラフィの顔は確かに可愛かったから、その可能性を完全には否定できなかった。


「ではまずアプローチとして、とりあえず脱ぎます!」


(そうか脱ぐのか……うん?)


 その発言に俺が疑問に感じた時には、ラフィは首元に結ばれていた赤いリボンを外し服に手をかけていた。


「――っておい! なぜ脱ぐっ! 脱ぐな! とりあえず脱ぐな!」


 小柄な割りに胸の大きいラフィに、俺は少しドキリとした。


「ダメですか? 折角マルスさんを悩殺しようと思ったのに……」


 しょぼん――と落ち込んだような顔を見せたラフィに、


「夜のベッドの中でなら歓迎したかもしれないが、ここは学院の医務室だぞ?」

「ここにいるのは、ラフィとマルスさんだけです」

「いや待て、ここにエリシアがいるだろっ!」

「眠っているから大丈夫です!」


 ニコニコとした爽やかな笑みで言うセリフじゃない。


「そういう問題じゃないだろ! それに、簡単に素肌をさらすなよ。女の価値が下がるぞ」

「マルスさんになら、見られてもいいのです」

「俺にだけって言うなら、ここではやめておけよ。エリシアがいつ起きるかもわからないだろ?」


 なんとか説得しようと投げかけた言葉に、


「……なるほど。マルスさんはラフィの肢体を独占したいと言うことなのですね! そういうことならわかりました」

「は……?」


 ラフィは何か勘違いをしているけれど、とりあえずこの場を治めることはできたので良しとしておこう。

 眠っているエリシアの傍で、これ以上騒ぐのもあまり好ましくはなしいな。


「このままここで騒いでいると、エリシアさんがいつ起きるかもわかりませんし、今度は二人きりになれるような場所にお誘いしますね!

 その時はまたアプローチをさせてもらうのですよ! ということでマルスさん、ラフィは一足先に教室に戻りますね」


 伝えたいことを伝えると、ラフィは暴風雨のように去って行った。


「ふぅ……」


 一人になると、思わず溜息が漏れてしまった。


(なんだか疲れた……)


 あんな素直な感情を正面からブツけられたことはほとんどなかった。

 そのせいか、ドッと疲れが押し寄せてくる。

 でも、不思議と悪い気分じゃなかった。


(学院に通っていると、こういうこともあるのか……)


 同世代と共同生活など送ったことがなかったので、これから学ぶことも多そうだ。


(面白いもんだな……)


 一人で生活をしていては味わえなかったものが、沢山ここにはある。

 俺は、これからのここでの生活が益々楽しみになっていた。




* ラフィ視点 *




 医務室を後にして、教室に向かっています。

 でも、ラフィには一つ疑問に思っていることがありました。


(う~ん……今まで気付きませんでしたが、エリシアさんのあの匂いは……)


 兎人ラビットは他の種族に比べて鼻がよく、匂いを嗅ぎ分けることに長けています。


(人間であることは間違いありませんが、もしかしたらあの人は……いえ、でも勘違いという事もありますし……)


 ラフィは、とても悩んでいます。

 あの部屋には、マルスさんとエリシアさんが二人きりです。

 ラフィ自身、余計な心配をしてしまっているという気がしなくもありませんが……。


(注意しておいて、損はないですよね……)


 これも念のため。

 恋するラフィは油断をしないのです!

 教室に向かっていた歩みを止め、ラフィは教会に向かうことにするのでした。

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