代表選手決定①
学院対抗戦。
大陸にある全ての冒険者育成機関が集い、才能ある冒険者候補生たちを競わせる大規模な競技大会にして、国家間の友好の印として毎年行われている祭典のようなものらしい。
その為、各国の重要人物や大手ギルドの代表も招かれ、毎年盛大に行われている。
(……ラーニア曰く、裏では色々な駆け引きもあるそうだが)
国家間の駆け引き以上に、生徒たちにとってはこの学院対抗戦という競技大会は重要なものになっている。
なにせこの舞台は、自分を売り込むことのできる最高の場――冒険者候補生たちにとっては、この大会での活躍はまたとないチャンスなのだ。
しかし、定期試験が終わってから数日、未だ代表選手の発表はない。
選手を決めなければならない教官側にも、色々と迷いがあるということなのか。
それとも何か問題が起こっているのか。
学院側の思惑は抜きにして、訓練をする生徒たちも活気に満ちているのはいいことだ。 が、その期待は裏切り続けられたまま、さらに時間は進み六月も半ばに差し掛かった頃。
「全員、今から集会場に向かいなさい」
ラーニアが、早朝の教室に訪れたと同時に指示を出した。
(……やっとか)
と、思ったのは俺だけではないだろう。
「代表選手の発表よね?」
「集会場ってことは、全生徒集まるんでしょ?」
「早く行きましょう」
生徒たちのガヤガヤとした喧噪で教室が満たしたかと思いきや、直ぐに席を立ち、生徒たちが移動していく。
それにならって。
「マルス、私たちも行こうか」
「ああ」
俺たちも流れに乗るように、移動を開始した。
*
集会場に到着すると、既に多くの生徒が着席していた。
「人が多い……」
「……人混み、苦手」
ルーシィとルーフィは人混みが嫌いなようだった。
「少しの我慢だな。
話も、直ぐに終わるだろうからさ」
俺が言うと。
「ん、大丈夫」
「我慢できる」
双子は口元を緩めて、小さく首肯した。
「マルスさん、取りあえず、空いている席に座りませんか?」
「そうだな」
ラフィに言われ、俺たちは空いてる席に腰を下ろした。
普段教室で使っている木製の椅子とは比べ物にならないくらい柔らかい、上品な質感の革の椅子は座り心地が抜群だった。
「全学年を集めているようなので、やはり学院対抗戦の代表を発表するようですね」
周囲の様子を確認して、ラフィがそんなこと言うと。
「多分、そうだと思う」
エリーも同意した。
「今年は、誰が選ばれるんだかな……」
「セイルは去年は選ばれたのか?」
俺が尋ねると。
「……一応」
奥歯に物が挟まったような物言いのセイルが。
「……補欠でな」
次の一言でその理由がわかった。
死旗の時もそうだが、競技には代表と万一の為の補欠という予備選手も選んでおくもののようだ。
「ラフィやルーシィとルーフィは代表ではなかったのか?」
「マルスさんも知っての通り、ラフィは実技はダメダメですから」
「興味ない」
「疲れそう」
実技を苦手と明言するラフィはともかく、双子が代表ではないの意外だった。
もしかしたら、試験の際に手を抜いていたのかもしれない。
「でも、今年は代表に選ばれるかもな」
なにせ実技で同率トップの二人だ。
教官連中も選ばない理由はないはずだ。
「今年はご主人様いる」
「一緒なら頑張る」
俺と一緒なら、学院対抗戦に参加してもいいと思っているようだ。
どういう心境の変化なのかはわからないけど。
「あ――始まるみたいだよ」
エリーの視線の先――舞台の上にラーニアが上がった。
途端に集会場が喧噪に満たされていく。
ラーニアは、舞台の中心に設置された演台の傍に立つと。
「全員わかってるみたいだけど、今日は学院対抗戦の代表選手を発表する為にここに集まってもらったわ」
期待した通りの発言に、生徒たちの喧噪が頂点に達した。
その喧噪に。
「静粛に!」
壇上から俺たちを射殺すような目で見下ろしたラーニアの一喝で、集会場は静寂に満ち。
「宜しい。
代表発表の前に学院長から大切な話があります。
心して聞くように」
すると。
「――生徒諸君、手間を取らせて済まない」
学院長の姿が見えないまま、声だけが聞こえた。
かと思えば――まるで最初からその場に居たかの如く、学院長が壇上に立っていた。