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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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定期試験①

 早朝の教室はいつも以上にザワついていた。

 普段よりも早い時間に生徒たちが集まっているのは、遅刻を避ける為なのだろうか?

 本を見ながら頭を抱えて唸っている生徒や、目に隈が出来ている生徒など、明らかに体調が万全でない生徒もいる。


(……実技試験もあるのに、こいつらは大丈夫なのか?)


 そんな生徒たちの様子を見ながら、自分の席に向かうと、既にエリーが席に着席しているのが見えた。


「マルス、おはよう」

「おはよう、エリー」


 いつものような柔和で爽やかな笑みを浮かべるエリー。

 その様子からして緊張は見られない。


(……少し心配していたのだけど)


 試験当日に、これだけ自然体でいられるのなら、結果はきっと付いて来るに違いない。


「どうかしたの?」

「いや。試験、頑張ろうな」

「うん!」


 俺の言葉に、エリーは力強く頷いた。

 今のエリーに余計な言葉は不要だろう。


「マルスさん! おはようございます!」


 少し遅れて教室に到着したラフィが、俺に歩み寄ってきた。

 しかも、意外なことに双子の手を引いている。


「どうしたんだ?」

「双子が明日、寝坊するかもしれないから起こしてとラフィに頼んできたので、仕方ないから起こしに行ったのですが……」


 案の定、起きられなかったというわけか。

 ルーシィもルーフィも、どちらも寝惚け眼でおぼつかない足取りだ。


「わざわざ制服まで着させて、朝から疲れてしまいました……」

「ラフィは、面倒見がいいんだな」

「頼まれてしまったから、仕方なく。

 ラフィのせいで遅刻したなんて言われたくありませんからね」


 そう言ってラフィは双子の頭をガシッと掴むと。


「ほら、いい加減起きなさい!」


 ぐるんぐるんと揺さぶった。


「あ、あうぅ~」

「や、やめて……」


 双子の姉妹は、寝惚けた声で小さな悲鳴を漏らした。


「頭痛い」

「酔った」


 目は覚めたようだが、ダメージは残ったようだ。


「大丈夫か?」

「ん。

 酔ったけど、兎には感謝」

「ありがと。

 遅刻せず、済んだ」


 俺が尋ねると、双子はラフィに感謝の意を示した。


「素直に感謝するとは、意外ですね」

「兎と私たち友達」

「友達に感謝、当然」

「と、友達……ま、まぁ……構いませんが……」


 困惑しているのか耳はペタンと倒れた伏せたが、ラフィの短い尻尾はゆさゆさと揺れていた。

 エリーはそんな三人を微笑ましそうに見守っている。


「ふふっ、仲がいいなぁ」

「な、仲良くなんてありませ――」

「仲良くない?」

「私たち、友達違う?」

「ぐっ――そ、そうではありませんが……」


 友達と口に出して言われるのが、ラフィは少し恥ずかしいようだった。


「と、とにかく、そろそろ試験も始まります。

 席に戻りますよ。

 マルスさん、失礼します」

「ご主人様、またね」

「試験終わったら、遊ぼ」


 ラフィ、ルーシィとルーフィが席に戻って行った。

 それと同時に、セイルが教室に入ってきて。

 俺と目が合うと、挨拶の代わりか軽く手を上げて、俺もそれに倣った。

 それから直ぐにベルが鳴り――。


「さて、あんたたちが楽しみにしてた定期試験の時間よ!」


 ニヤッと生徒たちにイヤらしい微笑を向けたラーニアが訪れた。

 そして、生徒たちに二枚の羊皮紙が配られる。


「まだ裏返したままにしておきなさい。

 まずは筆記試験から。

 時間は一時間。

 次の鐘が鳴るまでね。

 終わった者から、退出していいわ。

 実技の時間まで適当に時間を潰していなさい」


 簡単な説明の後――。


「じゃあ、始めなさい」


 ラーニアの言葉と共に、筆記試験が始まるのだった。


 紙を捲り、一通り問題を流してみる。


(……アリシアの予想が当たったな)


 問題の割合は、魔物学が多いように思えた。

 次に魔術学、治癒魔術、薬学、調合といった感じだ。

 錬金魔術や鍛冶は選択授業なので、試験には含まれない。


 魔術学は、座学で一番授業回数が多かったが、その割に問題数は少ない。

 結局は実戦で魔術を行使する為の授業なので、習熟度は実技試験を見ればわかるということなのかもしれない。


(……流石にブータに関する問題はなかったか)


 もしも出題されていれば驚きだったが、やはり記憶しておく必要はないのだろう。

 基本的には下級の魔物に関する問題が多い。

 例えば。


 鬼火ウィルオウィスプの属性や弱点は?

 子鬼ゴブリン子悪魔インプ豚魔物オークこの中で繁殖能力が高い魔物は?


 こんな感じの問題だ。

 また、判断力を見極める為のものなのか。


子鬼ゴブリンの群がいます。

 あなたにはまだ気付いていません。

 どう対処しますか?』


 などという漠然とした問題まであった。


(……こんなものは人それぞれではないだろうか?)


 なんと記述すればいいんだ? と悩んだ結果。


『剣で一掃する』


 と記入しておいた。

 魔術で一掃してもいいが、魔力を使わなくて済む分、効率もいいと判断したのだ。


(……うん。

 それなりに順調に書けているな)


 今のところ、空欄はそれほどない。

 勿論、全てが自信を持って答えを記入しているわけではないが、思っていたよりは勉強の成果が出ているようだ。

 半分ほど問題を解き終えた頃――。


 ツェルミンが席を立ち、教室から出て行った。

 もう全ての問題を解き終わったということのようだ。




 それからそれなりに時間もたち――九割ほどは答えを記入できた。


(……まだ時間もあるようだし、一応見直しておくか?)


 上から下まで解答を確認する。


(……師匠から教わっていた知識も役立った)


 俺が師匠から教わったことは、教材には書かれていないことが多かったが。

 例えば後半の方に出た問題。


 土人形ゴーレムの弱点についてという問題。


 魔物辞典には中級の魔物として紹介もあった土人形ゴーレムだが。

 迷宮ダンジョンの奥で宝を守っている守護者ガーディアンとして、土人形ゴーレムという中級の魔物は知られている。


 だが、この土人形は魔物であって魔物ではない。

 魔物として知られているこの土人形ゴーレムだが、実は人の手で作製することもできるのだ。


 金属や石などの素材を用い錬金魔術で人形を形作る。

 そして魔力を流しその人形を制御することができれば、手動の土人形ゴーレムが出来上がるのだ。


 冒険者の間で知られている一般的な土人形ゴーレムは自動で動く魔物として広く認知されている。

 なので、人の手で作製できるということはあまり知られていないのかもしれない。

 人形を作製する技術や、制御する為の技術は必要で、操る為の手間も多いというのが理由かもしれないが。


 製作者の使った素材により弱点も異なり、その為に様々な種類も存在する。

 その為、土人形ゴーレムの弱点は『素材によって異なる。』というものが正解のはずだ。

 土人形などという名前から、水属性の攻撃が弱点に思われるかもしれないが、こういった引っ掛け問題もあり、筆記試験の問題を考えた者の性格の悪さ? が窺えた。


 ある程度の見直しも終わった頃――カーン、カーンと、筆記試験の終了を知らせるベルが鳴り。


「はい、それじゃ筆記試験はこれでおしまい。

 次の時間からは実技試験よ。

 全員――戦闘教練室に向かいなさい」


 生徒たちはラーニアの言葉に従い、ぞろぞろと教室を出て行くのだった。




「みんな、どうだった?」


 教室を出て戦闘教練室に向かう最中、エリーたちに筆記試験の手ごたえを聞いてみた。


「私は大丈夫だと思う」

「ラフィもまあまあでした」

「前の試験よりは」

「できた気がする」


 エリー、ラフィ、ルーシィ、ルーフィの女性陣はある程度の手ごたえを感じているようだ。


「セイル、お前は?」

「……オレは元々、筆記の点数なんか気にしちゃいねえよ」


 セイルの狼耳が下がった。

 どうやらかんばしくなかったようだ。


「あらあら、ダメでしたか」

「ちっ――クソ兎、テメェーは実技の心配でもしとけ!」

「言われなくても心配ですよ!」


 足を止めて言い合いを始めそうな二人だったが。


「喧嘩するにしても、まずは戦闘教練室に着いてからね」


 エリーに言われ、


「ふんっ!」

「はっ!」


 二人は睨み合いをやめ、顔を逸らした。

 目的地に向かいながら。


「そういえばみんなは、子鬼ゴブリンの群の対処についてなんて書いた?」


 気になった問題について話を振ってみた。


「あれはこちらの状況が想定されていなかったから、それを含めた解答をしないとダメなんだと思うんだ」

「そうですね。

 自分の状況を想定した答えを出す。

 というのが正解ではないでしょうか?

 なので、答えは複数あるのかと」


 エリーとラフィがすらすらと自分の意見を述べた。


(……あれはそういう問題なのか)


「ちなみに、マルスはなんて書いたの?」

「……剣で一掃すると書いた」

「流石ですマルスさん!

 マルスさんなら子鬼など一撃ですからね!」

「うん、ご主人様なら、一撃」

「うん、素手で倒せる」


 ラフィとルーシィとルーフィは無駄に褒めてくれたが。


「ま、まあ、マルスならそれでも正解だよね」


 エリーは渇いた笑いと共に苦笑を浮かべ。


「全員ぶっ倒せばいいんじゃねえのか?」


 セイルは倒すことが当然と言うように首を傾げた。


(……筆記試験は、あまり芳しくないかもしれないな)


 などと不安に思いながらも、俺達は戦闘教練室に着き。

 試験開始のベルが鳴るまで思い思いの時間を過ごすのだった。

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