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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
14/201

授業初日③ VSエリシア

15 8/24 サブタイトルを変更しました。

* エリシア視点 *




(セイルをたった一撃で……)


 自分の目を疑ってしまう。

 セイルは決してAクラスの中でズバ抜けた成績を誇っているわけではないが、単純な戦闘能力だけでいえば上位グループに入る。

 狼人ウェアウルフの身体能力を活かした猛攻は、上級生であってもまともに戦えば苦戦を強いられるレベルなのだ。

 普通の人間ヒューマンであれば、魔術で肉体を強化でもしない限り、本来はその動きに付いて行くのがやっと。

 それほどまでに、人と狼人ウェアウルフでは身体能力という持って生まれた才能に差がある。

 しかも、セイルが繰り出した最後の一撃は、魔術で身体能力を強化していた。


(なのに……)


 マルスは一度も攻撃を受けることなく、たった一撃でセイルに勝利してしまったのだ。


(もし、ボクが戦っていたら……)


 周囲を生徒たちに囲まれ、なにやら質問責めに遭っているマルスを、エリシアはただ呆然と眺めていた。


 少しずつ、胸の内に悔しい思いが募っていく。


 エリシアでは、それこそ一瞬で倒されていただろう。

 今のエリシアの戦闘力はセイル以下。

 この学院内でも下から数えた方が早いかもしれない。

 いや、もし――本来の自分の力を取り戻せたとしても、きっとマルスには敵わない。


(もしかしたらマルスは、この学院の誰よりも……)


 エリシアはその強さの秘密を知りたくなった。


(ボクは、もっと強くならなくちゃいけないから……)


 エリシアには目標がある。

 そしてその目標を達成するには、彼のような圧倒的な強さが必要だった。


(部屋に戻ったら、話を聞いてみよう。どういう訓練をしていたのか。……もし彼の強さが才能なのだとしたら、ボクは……)


 未だ歓声の中にいるマルスを見ながら、エリシアはある覚悟を決めたのだった。


   

               

* マルス視点 *




 歓声に包まれながら、俺は周囲にいる者たちから質問攻めに合っていた。


「魔術で身体能力を強化していたのか?」

「人間なんだよね? 実は別の種族だったり?」

「どうしてあんなに正確に攻撃が避けられたんだ?」

「魔石を使ってなかったけど、武器を使わないの?」

「編入する前はどこで何をしていたんだ?」


 など、様々な質問が次から次へと飛び交っているせいで、俺は戸惑うばかりで何も答えることができなかった。


「みんな、マルスさんが困ってます」


 そんな中、のんびりとした声が喧騒の中はっきりと聞こえた。

 周囲の者がその声の方に視線を向けると、その声の主は兎人ラビットの少女だった。

 小柄な兎人の少女は、ピクピクと白く長い耳を震わせていた。

 そして赤い宝石のような瞳で俺をじ~っと見つめたかと思うと、満面の笑みで、


「あの、マルスさん」

「うん?」

「一目惚れしました。ラフィと付き合って下さい!」


 ラフィと名乗る少女の言葉を切っ掛けに、周囲はさらに喧騒に包まれた。


 それは男共の、


「な、なんだとおおおおおおぉぉぉぉ!?」

「オレたちのラフィちゃんがあああああああああああああああっ!!!!!!」

「ちっきしょぅ! 新入生の野郎、闇討ちしてやろうかっ!」


 という、不穏な野太い悲鳴から、


「ついにAクラスにカップル成立っ!?」

「そういう浮いた話なかったものねぇ」

「競争社会だから仕方ないけど……」


 女子の黄色い悲鳴だったりと様々だった。


「付き合うというのは、恋人同士になるという意味の付き合うか?」

「はい。ダメでしょうか?」


 上目遣いで俺を見つめる少女の姿を観察する。

 弱々しそうな小柄な身体は、とても冒険者を目指しているようには見えない。

 ウェーブがかった長い白髪と雪のように真っ白な肌のせいか、少し病弱そうに見える。

 ガーネットのような真っ赤な瞳はキラキラと煌き、今か今かと俺の返事を期待しているようだった。


「あの、答えは?」


 再び問われた。

 俺の返事は――


「あんた達! 今が授業中だってわかってんでしょうね!」


 ラーニアの一喝で先送りになった。


「他にマルスと戦いたい者は?」


 周囲を見回すラーニアに、返事をする者は一人もいない。


「なら、特別授業はこれで終わりにするけど、構わないかしら?」


 全員異論はないようだけど、俺には一つ気になることがあった。

 エリシアのことだ。先程からエリシアが俺の方をぼ~っと見つめていた。


 俺と戦えなかったことを根に持っているのだろうか?


「エリシア、お前さえよければ、俺はもう一戦してもいいぜ?」

「……ん? あ――」


 声を掛けるまで、エリシアは自分が声を掛けられたと気付かなかったようだ。

 この様子だと、どうやら俺と戦えなかったことを悔いていたわけではないらしい。


「マルスの実力はわかったよ。

 今のボクじゃキミには勝てそうにない。

 ……でも……折角の機会だと思って、胸を借りてもいいかな?」

「おう」

「それと、一つお願いがあるんだ。分不相応かもしれないけど、この戦い、手加減をしないでほしい。全力で戦ってほしい……!」


 エリシアの真摯な眼差しに対して、俺はノーとは言えず、


「わかった。可能な限り全力で戦うってことでいいなら」


 曖昧な約束になってしまったが、命のやり取りでもないただの訓練では、その程度の約束しかできない。


「それで構わない」


 手の中の魔石が光り、エリシアはショートソードを構えた。

 防具は軽装ではあるが、目を引かれるほど美しい白銀の鎧を纏い、腕にはガントレット、脚にはグリーフと、騎士を連想させるような装備だった。


 流石にセイルのような不意打ちはなく、


「始めてもいいか?」


 俺の言葉にエリシアは頷き、それが戦い開始の合図となった。




* エリシア視点 *

      



 刹那――


「――!?」


 ボクの目の前からマルスの姿が消えていた。

 少なくとも、ボクには消えたように見えた。

 彼から目を離していたわけじゃない。


(どこ――)


 マルスの姿を探そうとしたその刹那――ガクッ――と、視界が揺らいだ。


(ああ……)


 意識が暗闇に落ちていく中で、


(ボクは、弱いなぁ……)


 自分の弱さが、どうしようもないほど悔しかった。




* マルス視点 *




 倒れ伏すエリシアの身体を、俺はしっかりと支えた。

 決着は一瞬だった。

 セイルと戦った時のような戦闘指南など一切せず、ただ相手を倒す為だけに最低限の行動のみで戦闘を終わらせた。

 こちらの取った行動は接近して手刀を叩き込んだだけなのだが、それだけのことで周囲は唖然としていた。


「ま、こんなところかしらね」


 呟くように言ったラーニアの声が聞こえた。


「じゃあ、特別授業はこれで終わりよ。残りの時間は自習。後は各自で教室に戻り次の授業に備えなさい」


 授業の終了を伝えたラーニアは、未だに倒れ伏しているセイルの傍に寄って、


「う~ん、そろそろ起きてもいい頃だと思うのだけど……」


 セイルの身体をガクガクと揺さぶった。

 とてもこの学院の教官の行動とは思えない適当な処置だ。

 しかし、そのお陰で、


「――っ!?」


 セイルは飛び跳ねるように上半身を起こした。

 状況が理解できていないのか、右往左往と首を振り周囲の様子を確かめている。


「お、オレは……」


 戸惑いの声を上げるセイルに、


「特別授業は終わりよ。次の授業までは各自自習。気分が悪いようなら、医務室で休んできなさい」


 ラーニアは既に授業が終わったことを伝えた。


「マルス、あんたはエリシアを医務室まで運んであげなさい」

「場所は?」

「宜しければ、ラフィがご案内しましょうか?」


 兎人ラビットの少女が申し出てくれたので、


「なら、頼む」


 俺はありがたくその申し出を受けることにした。


「はい、では行きましょうか」


 そうして俺達は、戦闘教練室を後にした。

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