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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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最強が終わらす実力主義

「アリシアはエリーを頼む。

 ファルト、俺を戦闘教練室に転移させてくれ。

 できるだけ戦闘場バトルフィールドの中心に頼む」

「中心? ……いいのか?

 戦闘狂の二人が殺り合ってるんだぞ?」


 意外にも、ファルトは戸惑うように言葉を濁らせたが。


「ああ、構わないから頼む」


 俺が言うと、ファルトが微笑を向け俺に触れた。

 アリシアは何かを言おうとしたが、次の瞬間には――俺は戦闘教練室の中心に転移していた。


 瞬間――俺の視界には地獄を連想させるような業火が広がった。

 まともに呑み込まれれば、一瞬で灰燼かいじんに帰す。

 強制的にそれを理解させられるほどの死が刻一刻と近付いてくる。


 にも関わらず、世界がゆっくりと動いているように感じた。


 戦闘上バトルフィールドに突然登場した第三者に、観戦席の生徒たちは目を丸めているのが見えた。

 魔術を放ったラーニアも、口を大きく開き何か叫び声を上げるように驚愕している。


 いい感じに、周囲の目が俺に向いていた。

 視線が集まってくれているのは俺にとっては好都合だ。

 元々、ラーニアとリフレの戦いを止めて、ここに集まっている全員の目を集めようとしていたのだから。


(……まずは迫ってくるこの魔術をどうにかしなくちゃな)


 魔術や魔法、技能スキルを使ってこの業火を消火してもいいのだが。

 もっとシンプルに、わかりやすく、派手な演出で、観戦席の生徒の目を引くとしよう。

 俺は魔石に魔力を流し両手で大剣を持つと――身体を回転させ力任せに大剣を振りまわし、俺を呑み込もうと襲い来る業火を切り裂き――消し飛ばす。

 全てを消し去るであろう炎獄を、最後には欠片の魔力も残すことなく消滅させた。

 魔術すら使うことなく、たった一本の大剣で。


 ――静寂。


 闘技場コロッセウムの空気が驚愕に満たされているのがわかった。

 周囲の者たちの唖然とした視線が、俺に突き刺さる。


 今のはただの力技。

 ただ、だからこそ派手さがあり、大衆を引き付ける演出として効果的だった。


「ま、マルス、あんた大丈夫なの?」

「ま、マルス君、怪我は?」


 ラーニアとリフレが俺に駆け寄ってきたが、俺は駆け寄る二人を無視し。


「みんな、聞いてくれ!」


 観戦席にいる生徒たちに向かって叫んだ。


「俺は委員会コミュニティを設立する。

 委員会の名前は『交流』だ」


 唖然としていた生徒たちが、俺の言葉を受けてザワつき始めた。

 構わず俺は言葉を続ける。


「活動目的は二つ。

 一つはこの委員会に所属してくれるメンバーと交流を深めたい」


 あまりにも利己的な活動目的に、生徒たちは訝しむような目を向けたが。


「もう一つは、生徒会の手伝いだ。

 学院の秩序を維持ってヤツだな。

 ……でも、正直そんなのは面倒だ」


 そもそも、全ての生徒に常に目を光らせるなんて無理な話だ。


「だから、俺はその秩序をぶっ壊そうと思う」


 実力主義も秩序の維持も、まとめて変えてやろう。


「ここにいる生徒で、今から俺に勝つ自信のあるヤツはいるか?」


 観戦席を見回す。

 ザワザワと生徒たちの戸惑いの声が闘技場コロッセウムを満たしていく。


「いないのか?」


 念を押してもう一度確認するが、挙手する者は誰一人いない。

 当然だろう。

 この場にいる者たちはさっきの演出――俺がラーニアの魔術を切り裂く瞬間を目にしているのだから。

 学院最強どころではなく、現役のトップクラスの冒険者の魔術を剣一本で防いだ者に、喧嘩を売る生徒がいるわけがないのだ。


「じゃあ、この学院のトップは今日から俺だ。

 実力主義なら――俺が何をやっても文句はないよな?」


 誰一人、声を上げる者はいない。


「それじゃあ俺から、お前らに命令だ」


 静寂と不穏に包まれていた空間で。


「今後、生徒間の暴力を伴う争いは、生徒会の立会いの下で、規定ルールを定めた決闘を行ってもらう」


 俺の発言を聞いた生徒達から、驚愕の声が漏れた。

 定めるのは、実力主義の学院で実力主義をぶっ壊す為の規定ルールだ。


「もし立会いのないまま暴力沙汰を起こし場合、それなりの罰を受けてもらう」


 その時は……――学院の掃除でもさせるとしよう。

 勿論、この場では罰がなんなのかは口にしないでおくが。


「これが俺からの命令。

 そして、この学院の新しい規定ルールだ」


 これで釘はさした。

 だが、これだけ言っても目が届かないかもしれない。

 だから念のため。


「もし不正を報告してくれたら、アリシア会長がご褒美をくれるって言ってたぞ」


 これくらいは、アリシアにも協力してもらうとしよう。

 後は、俺達が卒業した後もこのルールを根付かせればいい。


「アリシア会長が? ご褒美?」

「罵ってくれるんじゃないか?」

「踏んでもらったりも……?」


 特殊な性的思考を持った者達の声がはっきりと聞こえていた。


(……ちょっと、マズいことを言ってしまっただろうか?)


 まあ、文句を言われるかもしれないが、大目に見てくれるだろう。


「とにかく!

 今、俺が言った規定ルール、ちゃんと守ってくれよな!」


 これで宣言は終了だ。

 ついでに委員会設立の宣伝にもなった。 


「ってことで、ラーニア、リフレ。

 まずは教官二人が、生徒達にお手本を見せてやってくれ」


 間の抜けた顔で俺を見ていた二人に言うと。


「手本って?」

「何をすればいいのぉ?」


 二人は首を傾げて俺に疑問を向けた。


「教官が殺し合いなんてしてるんじゃ、示しが付かんだろ?」


 二人を交互に見ると。


「生徒会の立会いの下なら決闘はしてもいいんだよね?」


 リフレが確かめるようにニヤッと片頬を吊り上げた。

 どうやら、白黒付けないと気が済まないらしい。


「そうか」


 俺は周囲を見回す。

 するとそこには、猫人――ネネアの姿を発見した。


「ネネア先輩、立ち会ってやってくれ」

「にゃ!? うちにゃ!?」


 面倒臭そうに顔を歪めていたが。


「今ここにいる生徒会の三年がネネア先輩しかいないんだ」


 お願いすると。


「まぁ……仕方ねえにゃ……」


 渋々頷いてくれた。


「じゃあ、決闘のルールは魔術なしの殴り合いでどうだ?」


 二人に伝える。

 血の気が多い二人は、少し血を抜いた方がいいだろう。


「それじゃちょっと、あたしが有利過ぎる気がするけど」

「へぇ……言ってくれるねぇ~ラーニアちゃん」


 怪しく不気味に笑い合う二人の笑みに、観戦席の生徒たちが背筋をぶるぶる振るわせた。


「じゃあ、好きに始めてくれ」


 こうして。

 燃えるような赤髪をなびかせた紅の死神と、可愛らしい子悪魔の皮を被った正真正銘の悪魔の血みどろの殴り合いが始まった。


 この決闘の後――顔を真っ赤に腫らしながら肩を組み合い笑い合う二人の姿は、生徒たちの胸に熱い何かと、くだらないことで争うことの愚かさを刻んだらしいのだが。


「……なるほど。

 これも友情か」


 俺はなんとなく、そんなことを思ったのだった。

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