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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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三年生との決闘⑤

「っ――」


 アリシア会長を中心に、かまいたちのように鋭い風が発生している。

 それはセイルが行使する風の魔術よりも、さらに激しく強烈で。


「別の精霊ですか……」

「クソが、面倒でしょうがねえな」


 後ろから追いついてきたラフィさんとセイルは、表情を強張らせた。


(……どうする?)


 旗を奪い取るにはシルフを倒すしかない……。

 でもあの強風の中を突き進めば、ただじゃ済まないのは明白だ。


「エリシャ、さっきの魔術、もう一発使えねえか?」

「……魔力的には、もう一発くらいなら。

 でも、あの強風じゃ近付くことすらできない……」

「……遠距離攻撃、しかも精霊を消滅させるほどの強力な魔術となると……」


 ラフィさんが何かを悩むように口にした時――シルフが発生させた強烈な風圧に、身体が飛ばされそうになった。


「作戦会議もいいですが、エリシャさん。

 一つ忠告しておきます。

 さっきの魔術は多用しないことです。

 先程の攻撃も、たまたま制御できただけに過ぎなのでは?」


 何かを見透かすように、アリシア会長が口にした。

 それは挑発なのだろうか?


「そんなことを言って、また精霊がやられるのを恐れてるんじゃないですか?」

「そう思うのは勝手です。

 ですが、仮にシルフがやられたところで私の手札は残っています」


 その言葉に嘘があるようには思えない。

 でも。


「私たちは――みんなで勝つって約束してますから」

「そうですか」


 その言葉を最後にアリシア会長は口を閉じ。

 再びシルフが風圧を放った。


「ちっ――とにかく、あのシルフをどうにかするぞ!」

「……会長さんのあの澄ました顔。

 ラフィが歪めて差し上げます」


 ラフィさんがニヤッと怪しげに微笑むと。


「セイル――!!」

「そんなでけー声で呼ばなくても聞こえ――」

「心奪う、恋は盲目――」


 セイルの目を真っ直ぐに見つめ。


「二人を妨げる者から、愛する者を騎士へと」


 ラフィさんが、何かの魔術を行使した。 


「さあ、目覚めなさい」

「はっ――お、オレは?」

「セイル、私たちの敵はあの精霊です!」

「精霊――そうか、あいつか!

 ラフィ、見ていてくれ! 必ずキミを守ってみせる!」

「せ、セイル? どうしたの?」


 セイルが信じられないくらい熱血漢になっていた。

 普段言わないような発言を、平然と恥ずかしげもなく口にしている。


「ラフィとセイルで時間を稼ぎます。

 ――エリシャさん、みんなで勝ちましょう!」

「……うん!」


 みんなが頑張ってくれている。

 だから、私も――。

 魔術を行使する為に集中する。


(……さっきの魔術じゃ、シルフには届かない)


 炎の魔術は森の妖精であるドライアドと相性が良かった。

 だから一発で消滅させることができたのだ。


(……もっと、もっと強力な魔術を行使したい)


 右手に魔力を集中させ、元素を集めていく。

 一度成功させたことで気持ちの上で楽になっていた。

 今なら先程よりも簡単に魔術の行使ができそうだ。


 今なら、もっとシルフを倒す為の強力な魔術が行使できるんじゃないか?

 自分でも不思議なほど頭の中はクリアになっていく。

 前方では、セイルとシルフが互角の戦いをしている。

 風の精霊と風の魔術で張り合っているセイル。

 いつもよりも遥かに戦闘力が向上しているようだった。

 二人だけじゃない。

 後方では、今もマルスが旗を守ってくれている。

 私たちが旗を奪取することを信じて。


 なら――応えたい。

 その想いに――。


 できるかはわからないけど。

 私は右手の魔力と火の元素を維持した状態で――。

 左手に魔力を流し光の元素を集めていく。


(……この合成魔術なら)


 合成魔術は右手と左手に同一量の魔力と元素を集めて合成し、オリジナルの魔術を作り出すものだ。

 緻密な魔術制御が必要なので本来は戦闘中に行使できるようなものではないのだが。

 仲間が時間を稼いでくれている今なら――。


 両掌に集めた魔力と元素を私は重ね合わせた。

 すると――。


(……ぐっうううう)


 両腕に強烈な痛みが走った。


(……な、なにっ!?)


 今にも腕が張り裂けてしまうような痛みに集中力が途切れかける。


(……落ち着け、落ち着け!)


 思考を落ち着けようとした。

 でも――一瞬、たった一瞬、頭の中に脳裏に過ぎった。

 魔力暴走――全身が焼け爛れる生徒の姿。

 それだけのことで――身体が震えた。


 どうして? どうしてどうして? なんで今なの?


「あ……あああああああああああ――」

「エリシャさん――!? いけない! あなたたち私の後ろに来なさい!」


 魔力の制御が利かない。

 この感覚は――学院対抗戦の時、あの時と同じで。


 私の限界を超えて、私の意志は関係なく、身体から魔力が放出していった。




 * マルス視点 *




「なんだ?」


 異常な魔力の波動。 

 制御を離れた暴力的な魔力の渦。

 その渦中にいるのはエリーで。


「――エリシャのヤツまさか!?」

「これ、魔力暴走にゃ!?」


 ファルトとネネアの発言は、俺の予想を確信に変えた。


「ファルト――!!」


 俺はファルトに手を伸ばした。


「マルス、お前……」


 ファルトの戸惑いは一瞬のみで。

 伸ばされた手に触れ、ファルトは俺を転移させた。

 転移の先は、魔力暴走を起こしかけているエリーの傍。


「エリー!!」

「ま、マルス……だ、ダメ!! こないでっ!!!!!」


 その顔色は蒼白で。

 俺を見るその瞳は、絶望を映しているようで。


「大丈夫だ」


 俺はエリーの手を掴み微笑んだ。

 エリーの両手に俺の両手を重ねる。


「だ、ダメだよ! 離れて!

 このままじゃマルスまで、あの時みたいに――!?」

「大丈夫だ。

 このくらいで慌てるなよ」


 手に焼けるような痛みが走る。

 でも、こんな痛みなんでもない。

 こんな痛みよりも、今にも泣きそうな顔をしているエリーの顔を見るほうが、俺にはよっぽど辛いから。


「エリーならきっと制御できる。

 俺も手伝うから」

「マル……ス」


 エリーの瞳に、確かに俺が映った。


「できるな?」


 言葉はない。

 ただエリーは首肯し。


「なら、集中して魔力を抑え込め」


 落ち着きを取り戻していったエリーが、放出していく魔力を少しずつ抑え込んでいく。

 異常な魔力の波動は次第に消えて。

 エリーは魔力暴走を起こすことなく、集まっていた魔力も凝縮されていた元素も、魔術が形成される前に霧散し消えていった。


「な、大丈夫だっただろ?」


 再び俺が微笑むと。

 エリシャの瞳から涙が流れた。

 そして、エリーは自分の手を包み込んでいた俺の両手を掴み。


「……私の、せいで……」

「このくらい、治癒魔術で直ぐに治るよ」


 掌は軽く焼け爛れている。

 でも、こんなのは本当に大したことじゃない。


「エリーが無事で本当に良かった」

「っ……」


 涙に濡れた顔を俺の胸に埋めるエリー。

 胸の中に感じるその温もりは、確かにこの場に彼女がいることを、エリーが無事だということを証明していた。


「テメェら見ろにゃ! うちらの勝利にゃ!!」


 背後から、ネネアの勝利の咆哮が響いた。

 俺たちの陣地の白い旗を奪い高々と掲げていて。


「しょ、勝者、三年生チーム!!」


 審判であるロニファスが、三年生チームの勝利を宣言するのだった。

猫がワザとらしい勝利宣言をしているのは事情があるので、

あまりイジメないで上げてください(汗)

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