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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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三年生との決闘③

「助けに行ったほうがいいんじゃないか?」

「無駄だよファルト先輩。

 そんな揺さぶりで、俺があいつらを助けに行くと思うか?」

「なんだ残念だな。

 楽に旗を奪えると思ったのに」


 そもそもここを離れれば、俺たちの負けは確定だ。

 旗を狙っているのはファルトだけじゃない。

 未だ姿が見えない二人の生徒も、間違いなく旗を狙っているのだから。


(……それにエリーたちは、諦めちゃいない)


 確かにピンチではあるが。

 必死に抗うその姿に勝負を捨てた様子はない。

 あいつらが諦めていないなら――。


「俺のやることは、旗を守ることだ」

「ま、助けに行こうと行くまいと結果は変わらない」


 刹那――手を伸ばせば届くほどの近距離で、そう口にしたファルト。

 太刀を振るうのかと思いきや、右手は動かさぬままファルトはただ左手を伸ばしてきた。

 今までのパターンなら、太刀による斬撃がくるはずなのだが――。


(……そうか)


 ファルトもやっと本気になったってとこか。

 今までの太刀による斬撃は、俺の気を引きつけようとしていただけ。

 試合に勝つだけでいいなら、ファルトは相手に触れてフィールドの外に転移させるだけで終わりなのだ。

 胸の辺りを触れられる直前、俺はファルトの掌には触れずファルトの腕を拳の甲で弾くように殴りつけた。

 が、やはり攻撃が当たる前にファルトの姿は消えた。


 その時だった――。

 確かな気配と共に、目視はできないが左方向からドスドスと足音が聞こえる。

 姿は消えていても、その重量感のある足音を奏でる者が鍛冶人ドワーフであることは、容易に気付くことができた。


「バレバレだぞ」


 というか、全く隠す様子がないようでドスドスバタバタと足音が激しくなった。

 一気に距離を詰めようということだろうが。

 俺は無詠唱で炎球ファイアーボールを投げた。

 小さな炎球なので、当たっても重症になることはない――のだが。


「ぬおっ!?」


 野太い悲鳴の後、何もないはずの宙に火がボボボと広がっていき。


「あつつつつつつ!!!」


 透明状態だった鍛冶人ドワーフが、声を荒げて姿を現した。

 しかも、鍛冶人ドワーフの特徴でもあるその立派な髭に火が燃え移っていたのだ。

 だが足を止めることなく、その巨体ドワーフは俺に向かって突っ込んできた。


「お~悪いな。

 消化してやろう」


 俺は水の魔術を行使しようとしたのだが。


「マルス、おれを忘れるなよ」


 背後から聞こえたその声に、俺は振り返らず。


「忘れてないさ」


 伸ばしたファルトの手が俺に触れ――。


「終わりだな」

「何がだ?」


 が、ファルトの手は空を切っていた。

 触れたのはただの残像。

 俺はファルトの背後を取り。


「っ――!?」


 ファルトの頚椎に手刀を振った。

 が、直ぐにファルトの姿は消え、俺の手刀が空を切った。


(……もう少し、早く動かないとダメだな)


 ファルトが消え視界が広がると、迫ってくる鍛冶人ドワーフが見える。

 髭に燃え移っていた火は消化されていた。


「このまま吹き飛ばしてやろう!」


 宣言のまま肩口を突き出し鍛冶人ドワーフは、突撃体制を取った。

 俺は両手で大剣を構えると、その剣を首に回すように振り上げて腰を回し、鍛冶人ドワーフに向かい遠心力を付けて振った。


「ぐおっ!?」


 肩口を突き出していた鍛冶人ドワーフが怯んだような声を上げ足を止めると、拳の甲で顔を防御した。

 が、俺はそのまま鍛冶人ドワーフの手の甲に向かい、大剣の平を叩き付け。


「吹き飛べ――!!」


 両手に重く圧し掛かる重量感を無視し、振り切った。

 鍛冶人ドワーフの巨体が浮き、


「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 勢いのままに打ち上げる。

 高く高く思いのほか高く飛んでいき、このまま闘技場コロッセウムの観戦席まで吹き飛ぼうかという所で。


「よっ――」


 ファルトが、吹き飛ぶ鍛冶人ドワーフの元に転移し、その身体に触れた。


「ダルダン、どこまで飛んでいく気だ?」

「す、すまんファルト」


 一瞬で地上に戻ってくる二人。

 俺はそれと同時に、エリーたちの様子を視界に入れた。

 セイルが風の魔術を行使し、下級精霊が伸ばしてくる蔦をバラバラに切り裂いていた。

 そのまま下級精霊を無視すると、セイルは疾風となりフラッグ目掛けて駆け抜けようと疾駆する。

 その後ろを、エリーとラフィが続いていく。


 そこまで確認したところで、ファルトたちにも動きが合った。

 何やら言葉を交わすと、ファルトがダルダンに触れた。

 途端にその巨体は姿を消し――。


(……そうきたか)


 ファルトの転移により、ダルダンが俺の真上から落下してきた。

 ダルダンは、俺を刺し貫くように槍斧ハルバートを向けている。

 だが狙いは俺ではなく、俺をこの場からどかすことだろう。


「さて、どうするマルス」


 正面に現われたファルトが、俺に左手を向けていた。

 俺は返事はせず、薙ぐように大剣を振る。

 

 その一撃は空を切り、再びファルトの姿は消えた。

 が――消えたファルトのその後ろには、確かな気配があった。

 目に映っているわけではないが。


(……ネネアだ)


 ネネアが左に回った。

 そこから背後の旗を狙おうというのだろう。

 左手を伸ばすと、運がいいことに指の先が引っかかった。


「にゃ――にゃんでわかった!?」


 すると――透明だったネネアの姿が見えた。

 どうやら技能スキルが解除されたようだ。

 指先に引っかかったのネネアのシャツの襟で。

 俺はぎゅっと襟を掴み――上から落ちてくる巨体に目掛けて、ネネアを投げた。


「なっ――ね、ネネア、このバ――!?」

「にゃにゃ~~~!?」


 慌てて槍斧ハルバートを投げ捨てるダルダン。

 それはネネアに怪我をさせないようにという配慮だろう。

 両手の空いたダルダンは、しっかりとネネアを受け止め。


「今度は二人か――」


 俺は上空を見据え――大剣を両手で持つと下から上に振り上げた。


「ぬおっ――」

「にゃ――」


 ネネアを抱きかかえたダルダンが、猫人ウェアカッツェの少女を守るように背中を向けた。

 その背中に向け大剣の平を衝突させ、落下してくる二人を打ち上げた。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「にゃあああああああああああああああああっ!!!」


 弧を描くように闘技場の観戦席に飛んでいく鍛冶人ドワーフ猫人ウェアカッツェを。


「よっ――」


 再びファルトが助けた。


「……あいつ、やっぱとんでもないにゃ」

「……平然とした顔でオレを吹っ飛ばしやがった」


 ハーフラインの中心から、再び俺を見下ろす三人。


(……今度はこっちから攻撃してみるか)


 と、魔術を行使しようとした時だった。


(……なんだ?)


 莫大な魔力の波動を感じた。

 その魔力はアリシアと交戦中のエリーのもので。

 当然、莫大な魔力を感じたのは俺だけではなく、俺と交戦中の三人――ファルト、ネネア、ダルダンもその魔力に気を取られるように目を向けた。


「余所見するなって――お前らの相手はこっちだろ?」


 俺は三人に向け、炎弾を撃った。

 ファルトはネネアとダルダンに触れると、直ぐに転移した。


「少しくらいは余所見させろよ?」

「ダメだ」


 転移先に何発も炎弾を撃ち込み続けた。

 エリーが何をしようとしているのか俺には直ぐにわかった。

 昨日の訓練では、一度も成功させられなかった魔術を、エリーは行使しようとしている。


(……エリーならきっと)


 必ず使いこなせるはず。

 だから今は、あいつの邪魔はさせない。


「ま――アリシアならどうにかするか」


 俺と対峙するように、目前に現われたファルトが太刀を振り。


「こっちはこっちで続けるか」


 太刀風纏わせるその一刀を大剣で防ぎ――剣戟が響いた。

 その直後――。


「行きます、アリシア会長!!」


 高らかに闘技場に響く声と共に――莫大な魔力を凝縮させ、エリーは駆けた。

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