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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
132/201

三年生との決闘①

 本来は一時間目の授業が始まる時間なのだが。

 現在、特別授業と称して学院の全生徒が五階の戦闘教練室に集められていた。

 理由は一つ。

 今から俺たち二年の代表チームと、三年の代表チームの競技形式の決闘が始まるからだ。

 闘技場コロッセウムにも似たこの場所には、観戦席も用意されており多くの観客を収容できるように設計されており、生徒たちのほとんどはその観戦席に腰を落としていた。

 集まった生徒かんきゃくはザワザワと――賑やかを通り越し騒々しい。


 戦闘場バトルフィールドから周囲を見回すと、生徒たちは軽く興奮した様子で、観戦席から今か今か競技と始まりを待っている。

 闘技場の中心にいる俺たちに、熱気の篭った視線を向けられているのがわかった。


「貴様ら! 負けるんじゃないぞ!」

「みんな~! がんばって~!」


 背後の観戦席から、ツェルミンとノノノの声援が聞こえた。

 振り返り目を向けると、ノノノの隣にルーシィとルーフィが並んで座っているのが目に入った。

 双子はそれに気付くと、応援しているのか小さく手を振ってくれた。


「アリシア会長~! 頑張ってください~!」

「ファルト、二年のヤツらに格の違いを見せてやれよ!」


 アリシアたちを鼓舞するような声援も多い。

 生徒たちの間には険悪な様子はなく、観客たちは今の状況を楽しんでいるようだった

 娯楽の少ないこの学院に通う生徒たちにとっては、ちょっとしたイベント扱いなのかもしれない。


「さぁ~ラーニアちゃん覚悟はいい?」

「あんたこそ、泣いて謝る準備はできてるんでしょうね?」


 戦闘場バトルフィールドの中心で、横並びで対峙する俺たち代表選手と、教官二人――ラーニアとリフレは不気味に微笑み合っていた。


「……キミたちも災難だな。

 この二人の争いに付き合わされるなんて」


 そんな二人の様子に溜息を吐き、同情するように口を開いたのは、学院の教官の一人であるロニファスだった。

 今回の試合、このロニファスが審判を務めるそうだ。


「ロニ君! 二年生が可哀想だからって、贔屓ひいきとかしちゃダメだからね!」

「わかってますよ。

 当然ですが、個々人を贔屓するよなことはしません。

 決められた規定のもと、厳正に判断させていただきます。

 キミたちも、そのつもりでいてくれ」


 言われて俺たちは首肯した。

 如何にも好青年風な容姿のロニファスは、その人柄からして誰に対しても公正な人物なのかもしれない。


「聞いたラーニアちゃん?

 そのたわわに実った巨峰でロニ君を誘惑したって無駄なんだからね!」

「ええそうね。ロニファス教官がロリコンだったらどうしようかと思ってたから、安心したわよ」


 再びバチバチと視線を交差させる二人を見て。


「……審判なんて引き受けるんじゃなかった」


 ロニファスは心底後悔しているように肩を落とすのだった。

 だが、こんな二人のバトルに慣れているのか、直ぐに気を取り直したようで。


「最初は学院長に頼もうとしたんだけど、今は忙しいみたい。

 他の冒険者育成機関の学院長同士で、緻密に連絡を取り合ってるみたいよぉ~。

 もしかしたら、そろそろ本格的に魔族狩りが始まったりしてねぇ」


 リフレは心底楽しそうだった。

 ストレス発散を魔族でやってやるくらいに思っているのかもしれない。

 魔族を恐れている様子がないのは、流石この学院の教官といったところだろう。


「はぁ……仕方ありませんね。

 ですが試合を始める前に、ラーニア教官とリフレ教官は退場をお願いします。

 観戦席で大人しく座っていてください。

 二人がいては、いつまでも試合が始められませんから」


 二人は渋々従い。


「あんたたち、絶対勝ちなさい!」

「みんなが勝つってわたし、信じてるよ!」


 それぞれ鼓舞するような発言を残した後、観戦席に向かった。

 ロニファスは二人が観戦席に着席したのを確認して。


「では、早速試合を始めましょう。

 一同――礼」


 礼と言われ、対峙する生徒たちはそれぞれ頭を下げた。

 少し遅れて、俺も頭を下げる。

 直ぐに顔を上げて。


「エリシャさん、手加減はしませんよ」


 アリシアは対面するエリシャに向かい手を伸ばした。

 エリーはその手を取り。


「はい。

 ですが、私たちが勝ちます」


 エリーの言葉にアリシアは意外そうに目を丸め。


「いい試合にしましょう」


 だがそれも一瞬で、直ぐに微笑を浮かべた。


「チームリーダーはフラッグを受け取ってくれ」


 審判の指示に従い、エリーとアリシアがそれぞれ旗を受け取った。

 旗の数は四本。

 俺たちは白旗だった。


「各チームの陣地はハーフラインで区切られます。

 最初の待機位置は、絶対にそのラインを越えないこと。

 違反をした選手は失格とします。

 両チームの旗の位置が決まるまで、相手陣地の物体を目視できないように魔術をかけさせてもらいます」


 そんな説明をされた直後――三年生チームは全員消えてしまった。

 視界の先に広がる光景はゆらゆらと揺れる。

 まるで空間が歪んでしまったようだった。

 ハーフラインを越えるなというのは、ここから先に行くなということか。


「軽い作戦会議の後、直ぐに旗を設置しよう」


 俺たちは、円状になっている戦闘場バトルフィールドの壁際まで移動し、作戦会議を開始した。


「私たちは旗は密集させて壁際に設置。

 旗はマルスに防衛してもらう。

 マルスの仕事は、その旗を試合が終わるまで防衛することだよ」

「ああ、わかってる」


 先週、何度も訓練でこなしたことだ。

 設置した旗を奪われないように防衛する。


「旗を回収するのが私たち。

 左の壁際が私たちの配置――前方が私とセイル。

 その後ろから、離れすぎないようにラフィさんは付いてきて。

 独断専行は禁止だよ。

 アリシア先輩から旗を奪うには、絶対に連携が必要だから」

「はい、了解です」

「おう」


 ラフィとセイルは頷き返した。

 この三人も、訓練の成果かかなりコンビネーションが良くなっている。

 その連携が上手く決まれば、旗を奪うことは十分に可能のはずだ。


「エリシャさん、旗自体に魔術は掛けますか?

 マルスさんがガードしてくださるので、余計な小細工はいらない気もしますが?」

「……アリシア会長たちには、小細工は通用しない。

 だから、試合が始まるまで少しでも魔力を節約しよう」


 確かにその通りだ。

 その決定に従い、俺たちはなんの小細工もなしにただ旗を中央の壁際に設置した。

 元々、一本も旗を奪わせるつもりはないのだから小細工など必要ない。

 エリーはそんな俺の考えを理解しているのか。


「一本でも旗を奪えば私たちの勝ち。

 みんなで協力してなんとか旗を奪って見せよう!」


 力強く微笑み拳を突き出した。

 そんなエリーの行動に、ラフィは微笑している。


「一見、クールに見えるのに、エリシャさんは熱いですねぇ~」

「暑い?」


 エリーは拳を突き出しながら首を傾げたが。


「いいな、こういうの」

「ああ、悪かねえ」


 なんだか、チームが一丸になる感じがする。

 迷わず、俺とセイルも拳を突き出した。

 ラフィも俺たちに倣い、拳を向ける。

 コン――と軽くブツかり合う四人の拳。


「勝とう!」


 チームリーダーの熱い想いが打ち付け合った拳から伝わってくるようだった。


「時間だ。

 全員、待機位置へ」


 審判であるロニファスの声が響き、同時にゆらゆらと揺れていた空間が元に戻ってい

 視界にはそれぞれ待機位置へ向かう三年生チームの面々が確認できた。

 俺たちも配置に付く。


 ファルトは中央のハーフラインギリギリに立っている。

 俺から見て左側にネネア、右側に名前の知らない鍛冶人ドワーフの生徒が立っていた。

 話に聞いていた通り、旗のガードはアリシアが一人で担当するようだ。


「準備はいいですね?」


 異議を唱える者はいない。

 闘技場コロッセウムの中が静寂に満たされた。

 今だけは観戦席にいる生徒すらも固唾を呑んで見守っている。


「では――試合開始!」


 その宣言の直後――ファルトが視界から消え。


「よう、マルス」


 目前に現われた。

 ファルトの手には既に太刀が握られている。

 そして、最初からそのつもりだったのだろう。


「答えは見つかったか?」


 あの時の答えを、今求めてきた。

 もしかしたら、動揺を誘うつもりだったのかもしれない。

 だが、もう戸惑いはない。


「ああ――俺なりの答えだがな」

「そうか。

 なら、戦いながらでいい。

 聞かせてくれよ、お前の答えを――」


 戦いながらで――なんて、随分と余裕の発言ではあるが。

 物騒な発言そのままに、ファルトは俺に向かって高速の太刀を振る。

 首筋を狙った一刀を俺は大剣で防ぎ――その剣と刀の衝撃音が俺たちの戦いの合図となるのだった。

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