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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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訓練の成果

 午後の授業も死旗デスフラッグの訓練は続いた。

 試合中に目覚ましい結果はなかったものの。


「午前中よりはマシになったじゃない!」


 ラーニアは、嬉しそうに声を弾ませた。

 授業終了直前の試合で、数十人の生徒を相手に、俺たちのチームはフラッグを一本奪うことに成功したからだ。

 一人一人の能力が大きく伸びたわけではないが、午前中よりも間違いなく、エリー、セイル、ラフィ、三人のコンビネーションが良くなっていたことが、結果に繋がったようだ。

 見てわかるくらいの大きな変化だったので、俺も感心していた。


「でも、まだまだ満足するんじゃないわよ。

 リフレのバカをギャフンと言わせてやる為にも、試合当日までに全てのフラッグを奪えるくらいにはなること!」


 言って、ラーニアは微笑した。

 利己的な発言も混じっていたが、これでも生徒の成長を喜んでいるようだ。

 言いたい放題告げた後、ラーニアは学院校舎に戻っていた。


「みんな、昼休みにも伝えたけど、このまま訓練を続けても大丈夫?」


 銀の双眸が、ラフィとセイルに向くと。


「仕方ありません」

「おう」


 その二人の言葉に続くように。


「貴様ら、僕も訓練に付き合ってやる!」

「良ければ、私たちにも手伝わせてくれないかな?」


 腕組をしたまま上から目線で発言するツェルミンと、それをフォローするように穏やかな笑みで協力を申し出るノノノ。

 人間と小人の凹凸コンビのありがたい申し出に。


「ありがとう、二人とも」


 エリーは嬉しそうな笑みを浮かべた。


「代表を交代しろ! とか喚いていたのにどんな心変わりですか?」

「……僕はただ、負けるのがイヤなだけだ。

 貴様らが三年生に惨敗なんてことになれば、僕の評価まで落ちるからな」

「これは『頑張ってるみんなに協力したい』って意味だから、悪く捉えないでね」

「っ――の、ノノノ、勝手に人の発言を変えるんじゃない!」


 目をひん剥いて言葉尻を強めるツェルミンに、ノノノはただ笑顔を浮かべるのみだった。

 そんな二人の様子に、俺たちは苦笑した。

 それからさらに。


「私たちも」

「お手伝いする?」


 俺の手を軽く引いた双子に、そんなことを尋ねられた。

 だが、それは。


「ルーシィとルーフィ、それはわざわざ尋ねるようなことじゃないぞ?

 二人が、どうしたいかだ」


 二人の質問にそれだけ返すと、双子は顔を見合わせて。


「……じゃあ」

「手伝う」


 自分の意志で、決定した。


「宜しく頼むな」


 そうして、俺は二人の頭を順番に撫でた。

 ここにいるみんなの意志は一つのようだ


 だからーー俺はみんなの顔を見回し。


「みんなで協力して勝とうぜ」


 そう伝えた俺に、仲間たちから視線が集中した。

 俺を見る瞳には、それぞれ驚愕や意外の念が含まれているように感じて。


「なんだ?」

「ご、ごめん。

 マルスが協力って言う言葉を口にしたのが意外だったから」


 俺の疑問に答えたのはエリーで、彼女は意外と口にしつつも嬉しそうに頬を緩めた。


「俺一人じゃ、この競技に勝てないって言ったのはエリーだろ?」


 聞き返すと、エリーは目を丸くし。

 でも、直ぐに満面の笑みで頷いて。


「……そうだよね。

 みんなで勝とう!」


 その真摯な眼差しに向けて、俺たちは頷き返したのだった。



 

           *



 それから俺たちは校舎に戻り、戦闘教練室で訓練を続けた。

 最初は俺を除いた、代表選手三人だけで訓練をするはずが、いつの間にか大所帯になっていたが。

 その分、いい訓練ができているように思えた。


「あんたら、そろそろ帰んなさい」


 訓練は、見回りに来たラーニアに止められるまで続いて。

 戦闘教練室を出る頃には、校舎の中は薄暗くなっていた。


「マルスさ~ん。

 ラフィ、疲れちゃいました。

 抱っこしてくれませんか?」


 ふらふらっと、肩を寄せてきたラフィ。

 これだけ長時間訓練すれば、小柄な彼女の身体には堪えたのだろう。


「そのくらいならいいぞ?」

「ふぇーー?」


 不意を突かれたみたいの、ラフィは抜けた声を漏らしたが。


「よっと」


 構わず俺はラフィを抱きかかえた。


「へーーあ、あの、ま、マルスさん!?」


 ラフィは戸惑いの声を上げた。

 恥ずかしがるみたいに、頬を紅色に染めている。


「どうかしたのか?」

「ど、どうかって、あ、あれ?

 そ、そうですよ! い、いいんですよねこれで!

 珍しくマルスさんが積極的に行動してくれたので、戸惑ってしまいました」


 ぼ~っと蕩けるような顔をしているラフィ。


(……なぜだ?)


 俺はただ、頼まれたことをしただけなのだが。


「運動したから、汗臭い」

「今、ご主人様にくんくんされたら……」


 唐突な双子の言葉に、ラフィの長い耳がピクピク揺れた。


「っ――お、下ろしてください!」


 突然、ラフィは暴れ出し、俺の腕から無理矢理逃れた。

 床に足を着けると、大慌てで俺から距離を取った。


「急にどうしたんだ?」

「ど、どうもしません!

 ら、ラフィは先に戻りますので」


 足早に去っていくラフィ。

 それから。


「? どうしたんだエリー?」


 エリーも俺から距離を取っていた。


「わ、私も今日は先に戻ろうかな」

「どうかしたのか?」

「え、いや、どうかしたとかじゃなくて……」


 俺が近付くと、エリーはその分離れていく。


「なんだ? 問題があるなら言ってくれ?」

「も、問題はマルスにあるんじゃなくて、私たちにあるだけで……。

 と、とにかく! 私も行くから!」


 ラフィを追い掛けるみたいに、エリーは長い銀髪を揺らしながらバタバタと階段を下りていった。


「ご主人様、私たちも行く」

「帰ってお風呂に入る」


 ルーシィとルーフィも背中を向けて、テクテクと歩いて。

 その場に残された、俺とセイルとツェルミンとノノノは。


「マルス君、みんな女の子なんだから。

 それはちゃんとわかってあげてね」

「うん? それはわかってるぞ?

 取りあえず、直ぐにみんなを追いか――」

「わかってるなら、追いかけるのは禁止です」


 ノノノの困り顔の理由が、俺にはわからなかった。




          *




 次の日も、また次の日も訓練は続き。


「……うん。

 まあまあ、いい感じになったんじゃない?」


 週末――ついに結果は出た。

 俺たちレギュラーチームは、数十人の生徒を相手に、四本の(フラッグを全てを奪うことに成功したのだった。


「それじゃ、休み明けに本番だから。

 休日くらはゆっくり休んどきなさいよ」


 最初のほうはその赤髪を振り乱しながら俺たちに克を入れていたラーニアだが、訓練を続けるうちにその指導も減っていった。

 ラーニアの目から見ても、俺たちは成長したということなのだろう。


 それから、放課後も周囲が暗くなるまで自主的に訓練を続けた。

 帰り際、戦闘教練室を出る際に。


「マルス、その……約束、覚えてくれてる?」


 エリーはそんなことを言った。


(……約束?)


 言われて思考して。

 俺は直ぐに思い出した。

 今週の始まり――早朝の噴水の前で、俺とエリーは一つ約束をしていたのだ。


「休日に二人で訓練をしようって約束だったよな」

「うん! 予定は大丈夫?

 ずっと、激しい訓練続きだったから、明日くらいは休む?」

「いや、大丈夫だ。

 寧ろ、もっと身体を動かしたいくらいだからな」


 学院に来てからの俺は、寧ろ身体を動かす時間が減ったくらいだからな。


「じゃあ、明日は朝食の後に、噴水の近くで待ち合わせでいいかな?」

「おう!」


 明日の約束を確認しあった俺たちだが。

 そんな俺たちの会話に兎人(ラビット)闇森人(ダークエルフ)の双子が耳をすませていた事を、この時は知る由もなかった。

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