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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
13/201

授業初日② VSセイル

15 8/24 サブタイトルを変更しました。

 教室を出て階段で五階まで上がり、俺たちは右に曲がった。

 それから真っ直ぐ進んでいくと扉があり、その中に入っていく。

 するとそこには、闘技場を連想するような空間が広がっていた。

 室内にもかかわらず砂や土が敷かれしっかりと整備された地面。

 広々とした空間を大理石のようなものが円状に囲っている。

 その円状の外側にはいくつも観戦席のようなものまで用意されていた。


「室内とは思えないな……」

「剣闘士たちが闘う闘技場コロッセウムみたいだよね」

「ああ」

 

 流石に生徒同士で殺し合いをさせるわけではないのだろうが、多くの者がそういう印象を持ちそうだ。


「全員集まってるわね?」


 戦闘教練室に到着したラーニアが、生徒たちを見回した。


「では、ABクラス合同の特別授業を始めます。授業の内容は至極単純――誰かマルスと戦ってみたい者はいるかしら?」


(……は?)


 ラーニアが突拍子もなくそんなことを言った。

 他の生徒にとってもそれは同様だったのか、ラーニアの発言を訝しむように生徒たちがざわつき始めた。


「あら? 誰もいないの? ルールはいつもの戦闘訓練と一緒よ。

 相手を戦闘不能にするか負けを認めさせた方の勝ち。

 魔石による武器の使用も魔術の使用も認めます。

 全員気になってるんでしょ? 噂の編入生の実力が」


 生徒たちの視線が一斉に俺に向けられた。

 が、この場にいる全員が、誰か立候補者はいないのかと周囲の様子を窺うばかりで、我こそはと声を出すものはいない。


「で……でも、いきなり実戦なんて……」


 誰かがそんなことを言うと、


「あら? いついかなる時でも戦えるようにしておくのが冒険者ってものよ? ここにいる者は装備が整ってないと戦えないのかしら?」


 ラーニアの言葉に反論するものはいない。


「誰も立候補はいないの? ……う~ん、これじゃ授業にならないわね。

 歓迎会も兼ねてのつもりだったのけど……」


 困ったように唸るラーニア。

 確かにこのまま終わってしまっては俺自身もつまらない。


 なら、


「一対一じゃなくてもいいぜ?

 俺と戦いたいヤツがいるなら、全員まとめて相手をしてやるよ」


 この場にいる全員を俺は挑発した。


「こう言ってるけどあなたたちはどうするの?」


 明らかな挑発に、生徒たちの俺を見る目は戸惑いから怒りに変わり、周囲の空気が重くなっていく。

 だが、ここまで言われても行動を起こすものはいない。


「睨んでるだけか?

 ここは本気で冒険者を目指してるヤツらの集まりなんだろ?

 折角力を競い合える場があるのに、なぜその機会を無駄にするんだ?

 負けるのが怖いのか?

 それでこれから先、この学院で生き残っていけるのか?

 冒険者としてやっていけるのか?

 俺にビビってるようじゃ、モンスターと戦うことすらできないぜ?

 それとも、ここには本当に腰抜けしかいないのか?」


 ここに編入してきたばかりの俺に、ここまで言われても誰も奮い立てないようなら、この学院の生徒全員、とてもじゃないが冒険者になんてなれっこな――


「――なら、ボクが戦うよ」


 直ぐ傍から、その声が聞こえた。

 戦う宣言したのは、俺の隣にいたエリシアだった。

 周囲からは「なんでエリシアが?」とか「あの落ちこぼれが?」とか「恥をかくだけだぞ」と誹謗するような言葉が漏れている。


「そこまで言われたら、ボクだって引けないから」


 淡々とした言葉の中に、確固とした決意を感じた。

 エリシアの実力はまだわからないが、少なくともここにいる者の中では、気持ちの上で一番本気なのはエリシアのようだ。


「いいぜ。他にはいないのか?」


 確認を取ると、


「おい落ちこぼれ、お前じゃ戦うだけ無駄だ! オレがやるから引っ込んでろ!」


 昨日、食堂で一悶着あった狼人ウェアウルフが声をあげた。


「……確かに今のボクは落ちこぼれかもしれないけど――」

「いいからどいてろ!」


 エリシアの反論も、セイルは全く聞く耳持たず、


「俺は、二人まとめてでも構わないが?」


 俺がそう伝えた瞬間――セイルの持っていたいた魔石が光を放ち、いつの間にか手の甲に鉄の爪のような武器が装着され、制服も軽装備に変化していた。

 動きやすさを重視しているのだろう。

 鎧は全身を覆ってはおらず最低限の急所を防ぐ為の物のようだ。


(へぇ……これが魔石の力……さっきエリシアには聞いていたが、便利なもんだな……)


「強がってんじゃねえぞ! 昨日は油断したがな、テメーなんざぁ――オレ一人で十分なんだよ!」


 ――疾風のような速さで俺との距離を詰め、セイルは鋭利な刃物のような爪で俺の喉元を狙った。

 が、俺は半身をずらすことでその攻撃を避けた。


「――っち! うおおおおおおおおおおっ!」


 目、額、喉――急所ばかりを狙った突きをひたすら避けていく。

 人間よりも身体能力の高い狼人ウェアウルフの能力を活かした猛攻。

 それは思っていた以上に速く、一撃一撃も人間なら喰らえば重傷というものだった。

 

 しかしそれは、攻撃が当たればだ。


「くそっ! くそっ! くそっ! なんで当たらねえんだ!」


 セイルの攻撃を俺は淡々とかわしていく。


「身体能力は大したもんだ。だが、その能力に頼り過ぎてる」

「っ――」


 攻撃を避けながら、


「戦闘において、急所を狙うのは悪いことじゃない。

 だが、急所ばかりを狙っているからお前の攻撃は単調なんだ。

 これなら正直、目を瞑っていても避けられるぞ?」


 欠点を一つ一つ説明していく。


「クソが――バカにしやがってええええええええええええ!」

「感情的になるな。ただでさえ単調な攻撃がさらに単調になるぞ。

 冷静になれ。どんな時でも思考しろ。フェイントを混ぜて、どうすれば攻撃が当たるのか考えろ」

「うおおおおおおおおおおおっ!」

「一点を見るな。周囲を観察しろ。足を使え、その身体能力を活かせ。スピードで相手を撹乱しろ」


 が、どれだけ言っても、セイルの熱くなった頭には俺の声は届いていないようだった。


(さて……どうしたものか……)


 と、俺が考えたところで、セイルの動きが突然止まった。


「なめやがって……なら――これでどうだよ!」


 刹那――セイルは地面を蹴った。

 先ほどまでと比較にならないほどの速度で俺に向かって突撃してくる。

 喰らえば必殺の一撃――だが、


(何度も言ってるが直線的過ぎる。そんな単純で力任せな攻撃じゃ、せめて目に見えないくらいの速さにならなくちゃ当たらないぜ……)


 攻撃の軌道を読み、半身ずらし突撃を避けると、俺はセイルの頚椎に手刀を振り下ろした。


「がっ――」


 そのままセイルの身体は地面に倒れ伏した。

 纏っていた装備も消え、セイルの手から魔石が転がり、


「……ま、こんなとこか」


 静寂――。


(あれ? 何かマズいことでもしただろうか?)


 そう思ってしまうくらいの静寂だった。


(もしかして、セイルが死んでしまったと勘違いしているんじゃないよな……?)


 セイルは気絶しているだけで、俺が過剰な攻撃をしたわけではない。

 にもかかわらず、この静寂はなんなのだろう。


「凄い……」


 と、エリシアだろうか? 声を漏らした。


 瞬間――


「「「わああああああああああああああああああああっ!」」」


 大歓声が上がった。

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