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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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身近にあった答え

 本日の授業も、ラーニアの宣言通り死旗デスフラッグの訓練だったのだが。

 全く結果が奮わないまま、午前の授業は終わりを迎えた。


「あんたたち、せめて一本くらいはフラッグを奪ってみせなさいよ……」


 辛辣なラーニアの発言だったが、確かに一本も旗を奪えていないこの状況では、多少の文句はご愛嬌というところかもしれない。

 そんな失望とも言えるラーニアの言葉に、三人は悔しそうに顔を歪めた。


「狼男、どうして一本も旗を取ってこれないのです!」

「簡単に言ってくれるじゃねえか兎女!

 生意気言う割に、テメェも一本も旗が奪えてねえじゃねえか!」

「ラフィは補助(サポート)だからいいんです!

 狼人(ウェアウルフ)の身体能力は飾りですか!」


 がるるる。と獣たちのじゃれ合いが始まり掛けていたのだが。


「言い争いは後にしよう。

 食事の後は反省会をするよ」


 真剣な面持ちのエリーの一言で、二人は「ふん!」と顔を背けた。


「ご飯、行く?」

「お腹空いた」


 ルーシィとルーフィが二人一緒にお腹を押さえて。


「そうだな」


 そんな二人の様子に苦笑して、俺たちは食堂に向かった。




          *




 食事を済ませて教室に戻った俺たちは、訓練の反省会をしていた。

 意見を言うのは主にエリーだ。

 ラフィは問題があった場合に口を出し、セイルは黙って二人の意見を聞いていた。

 双子はお腹が一杯になったからか、今日は大人しく席に戻りお互いに寄り添うように眠っていた。

 席が離れた位置にいるツェルミンは、俺たちの様子が気になるのかちらちらとこちらを気にしている。

 そんな少年を見て、隣の席に座るノノノが苦笑を浮かべていた。


「今日の放課後から、三人で特訓しよう!」


 大真面目な顔で提案したのはエリーだった。

 多くの反省点が出る中で、今のままではどうにもならないと判断したようだ。


「三人? 四人ではなくてですか?」

「ラフィさん、セイル、私の三人だよ」

「マルスさんがいないなら、ラフィはパスしま――」

「やるの! いいラフィさん。

 このままじゃ、マルスに迷惑を掛けるよ?」

「そ、その言い方はズルいです!」


 唇を尖らせるラフィ。

 だがエリーは引かない。


「ラフィさん。

 この競技は、マルスだけじゃ勝てないんだよ。

 私たち三人が力を合わせて旗を奪わなくちゃいけない。

 コンビネーションも揃えなくちゃいけない以上、特訓は必要だよ。

 セイルもいいよね?」

「……おう。

 相手が誰でも、負けたくはねえからな」


 話を振られ、セイルは頷いた。

 チームの指揮官という責任感からか、エリーは色々考えてくれているようだが。


「エリー、あまり気負わないほうがいいんじゃないか?」

「……気負ってるわけじゃないんだよ。

 でも――私はマルスの友達だから。

 頼ってばかりはイヤなんだ」


 俺は、それほど頼られているのだろうか?

 何もしてやれていない気がするのだけど。


「ら、ラフィだって、マルスさんのお役に立ちたいです!」


 ラフィは対抗心からかそんなことを言った。

 でも、役に立ちたいなんて、どうしてそんなことを思うのだろう?


(……友達だからか?)


『お前にとっての友達ってなんなんだ?』


 ふと、ファルトの問いが頭を駆け巡った。

 授業中もそうだった。

 友達が欲しいとこの学院に来たのはいいが、俺はその問いに対する答えを持っていないのだ。

 みんなはどうなのだろうか?

 みんなにとっての友達っていうのは、なんなのだろうか?


「どうかしたの、マルス?」


 考えていると、銀の瞳が心配そうに俺を捉えた。

 エリーはどう考えているのだろうか?

 気になった俺は。


「なぁエリー。

 聞きたいことがあるんだが」

「何かな?」

「エリーは友達(おれ)のことをどう思う?」


 純粋な疑問を向けた。

 だけなのだが。


「ふぇーーま、マルスのことっ!?

 な、にゃんでそんなことを聞くの?」


 言葉を詰まらせ噛んでしまったエリー。

 その顔色に映るのは確かな動揺で、目をぐるぐるさせていた。

 体温も急上昇しているのか、風呂上がりのように頬が染まる。


「ま、マルスさん!

 どういうことですか!

 今から愛の告白でもするつもりですか!

 ラフィには、ラフィには聞いてくれないのですか?」


 向かいの机から身を乗り出たラフィが、興奮した様子で耳を逆立てていた。

 普段は可憐な兎人が、今は獰猛な肉食獣のようだ。


「兎うるさい」

「なに騒いでる?」


 眠っていた双子が目をごしごしと擦って、こちらに近付いてきた。

 丁度いい。


「ラフィにも聞くし、セイルにも聞く。

 それに、ルーシィとルーフィにも」

「オレにも?」

「双子はともかく、セイルにもですか?」


 ラフィとセイルはお互いに顔を見合わせ。


「も……もしかして、また私、勘違いさせられたの?」


 エリーは拗ねたみたいに言って、瞳は少し濡れていて。


「勘違い? 良くわからないが、俺は友達についてどう思うかって聞いただけなんだが?」


 そう伝えると。


「まぎらわしいよ!」

「だったら最初からそうおっしゃってください!」

「あんまり勘違いさせるようなことを言うんじゃねえよ!」


 なぜか一斉に責め苦が飛んできた。

 何を怒ってるんだ?


「ご主人様、イジメられてる?」

「かわいそう」


 なでなでと、双子に頭を撫でられた。

 三人に責められる俺を、ルーシィとルーフィは慰めてくれたようだ。


「はぁ……いつものことだからいいけどさ……」

「ラフィはとても安心しました……」


 お互いの苦労を語り合うみたいに、エリーとラフィが苦笑を交わした後。


「……それでマルス」


 気を取り直したように、エリーは柔和な笑みを俺に向けて。


「どうして友達について何てことを聞いたの?」


 それから俺は、ファルトに問い掛けられたことについて、みんなに話した。


「ファルト先輩がそんなことを?」

「何か意図があるのでしょうか?」


 純粋な疑問から首を傾げた様子のエリーと。

 明らかに訝しんでいるラフィ。


「……迷宮ダンジョンに特訓に行ったのかと思えば、そんなことを聞かれたのかよ?」

「話の流れでな」

「狼男! ちゃんとマルスさんの護衛ガードをしておきなさい!

 なんの為に、あなたは男子宿舎にいるのですか!」

「冒険者になる為だっての!

 マルスの為にオレが男子宿舎にいるみたいに言うんじゃねえ!」


 毛を逆立てる兎と狼。

 そんな二人を尻目に。


「友達について……私にとっての友達か」


 真剣な面持ちで考えてくれた。

 どんな時でも、どんなことでも、エリーは真面目に向き合ってくれる。


「エリーには、その答えはあるのか?」

「う~ん……難しいなぁ。

 私も友達が多いほうではないから」


 だが、エリーも直ぐには答えが出さないようだ。


「「ご主人様」」


 ちょんちょんと腕の裾を引っ張られた。

 それから、双子が上目遣いを向けて。


「ルーシィの友達はルーフィだけ」

「ルーフィの友達もルーシィだけ」


 二人はそう口にした。

 残念なことに、俺は二人の友達ではないようで。


「「ご主人様は、ご主人様」」


 と、いうことらしい。

 だが、闇森人ダークエルフの双子の姉妹も、友達についての答えはもっていないようだ。


「あなたたちは、姉妹だから家族でしょう」


 そんな二人に冷静な突っ込みを入れるラフィ。


「ラフィはどうだ?

 友達って、なんだと思う?」

「恥ずかしながら、ラフィも友達はいないので……。

 マルスさんは友達を超えた愛しい方ですので、とても言葉では言い表せないのですが。 あ、ですが語らせていただけるのであれば、今からいくらでもラフィはマルスさんへの愛を――」

「い、今は遠慮しておこう」

「そうですか……」


 俺が断ると。

 ラフィはキラキラと輝かせていた目を少し伏せて、しゅんと耳を垂れさせた。

 どうやら友達について、ラフィもわからないようだ。


 それから俺はセイルに目を向けた。


「……群の仲間はいるが、あいつらは家族みてえなもんだしな。

 そういう意味じゃ、オレも友達はいね――いや、少ねえからな……」


 少ないとわざわざ言い直したのは、俺を友達だと思ってくれている証かもしれない。


「そうか……」


 ここにいるみんなは、誰も、明確な答えを持ってない。

 ファルトの問いの答え。

 俺にとっての友達――。

 みんなの意見を聞くことで、何か見えてくるかもしれないと思ったのだけど。


「……気付いたんだけどさ」


 ほんの少しの逡巡の後。


「私たちって、みんな友達がいないんだね」


 そう言って、エリーは苦笑した。

 寂しいようにも思える言葉だが、エリーの顔は清々しくて。


「マルスがいたから、いま私たちは一緒にいるんだよね」


 苦笑を微笑に変えて、エリーは俺たち一人一人に目を向ける。


「……言われてみれば」

「仲が良かったわけでもねえのに」

「確かにそう」

「不思議な縁」


 全員の視線が交わって。


「ははっ」


 エリーが笑って。


「ふふっ、本当に不思議なものですね」


 ラフィが苦笑して。


「ふんっ」


 セイルは微笑して。


「「くすっ……」」


 微かに声を漏らし、双子も頬を緩めていた。


(……そうだったのか)


 今まで知らなかった。


「俺はもう、お前らが友達になってると思ってたぞ?」


 当然のように言うと。

 その言葉にみんなは目を丸くして。


「……確かにね」

「狼男と友達なんて言われるのは、少し納得いきませんが」

「そりゃオレのセリフだっての」

「みんな、友達?」

「そうなの?」


 その声音には戸惑いや驚き、意外、色々な感情が錯綜しているようだった。

 みんなの視線が再び交わって。


「こんなこともわかっていなかったんじゃ、

 友達ってなんなのかなんて、答えられるわけなかったね」


 エリーの言葉に、この場にいる全員で苦笑した。

 そうだ。

 最初からわかるわけなかったんだ。

 そもそも俺は、少し前まで友達と呼べる知り合いは一人もいなかった。

 でも、今はみんなと知り合って友達になって。

 答えなんてなくても、確かに俺たちは友達で。

 だから、ファルトの言葉に対する答えなんて簡単なことだったんだ。

 悩んだ末に辿りついたのは、当然の帰結。


 俺の中で――ファルトの言葉に対する答えは得た。


「ありがとうな、みんな」


 これは心の底からの感謝だ。

 次にファルトと対峙した時には、俺の想いを明確に伝えられる。


「どうして感謝されたのかはわからないけど、

 少しでも、マルスの役に立てたなら嬉しいな」

「友達についてではなく、愛についてならいくらでも教えてさしあげるのですけど」

「兎は卑猥」

「万年発情期、その二つ名は伊達じゃない」

「いつそんな不名誉な二つ名が付いたんですか!」


 話が一段落したところで、双子の些細な言葉が切っ掛けとなり。

 昼休みが終わるまで、俺たちは騒がしくも愉快な時間を過ごしたのだった。

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