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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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ファルトの問い

 宿舎に入ると、セイルが食堂の扉の前に立っているのが見えた。


「セイル」


 声を掛けると、セイルは俺に顔を向けて。


「おせぇぞマルス――って、ファルト先輩と一緒だったのか?」

「ああ……。というかセイル。

 別に先に食事をしていてくれても良かったんだぞ?」

「オレが待ってたみたいに言うんじゃねえよ。

 そろそろ飯にしようと思った時に、たまたまお前と会っただけだっての」


 明らかに待っていたように見えたが。

 鋭い目付きで俺を睨む狼人は、かたくなに猛反発した。

 口ではなんといっても、なんだかんだで律儀な狼人ヤツだ。


「待たせちまったみたいだしさっさと飯にするか」

「ふぁ、ファルト先輩……だから、オレは別に……」


 ファルトにまで言われ、意気消沈したようにセイルは耳と尻尾を下げ。

 俺達が食堂に足を進めるとセイルもそれに従った。

 カウンターの前に着くと。


「皆さん、お疲れ様です!」


 ネルファが一日の疲れが吹き飛ぶほどの笑顔を俺達に向けた。

 明朗快活なメイドがオススメしてくれた料理を受け取り、俺達は三人で食事を済ませた。


 それから食堂を出て。


「それじゃ行くか」


 軽快な微笑を浮かべるファルトが、早速玄関へと足を向ける。

 セイルはファルトの言葉に疑問を感じたようで。


「どこに行くんだ?」

「ダンジョンを探索してくる」

「ダンジョン? ファルト先輩と二人でか?」


 セイルは、その碧眼で俺とファルトを交互に見た。

 外は随分と暗くなってはいるが、それほどおかしなことでもないはずだ。


「なんだセイル? おれとマルスが仲良くしちゃマズいのか?」

「い、いや……そういうわけじゃないんですが……」


 ファルトが苦笑すると、セイルは困り顔で言葉を詰まらせた。


「セイルも一緒に来るか?」

「……オレも……?」


 俺が誘うと。


「……いや、やめとくわ。

 今のオレじゃ二人の足手まといになっちまうからな」


 逡巡の後、そう答えた。

 苛立たしさを隠し切れぬその表情は、自分の力のなさを嘆いているようにも見える。


「悪いなセイル。

 今日はマルスを貸してもらうぞ」

「……オレに断ることじゃねえっすよ」


 全くその通りだと思いながら、俺は首肯したのだった。




             *




 宿舎から学院の校舎裏の先にある下り坂。

 その坂を下りると、迷宮ダンジョンに繋がる洞穴はあった。

 学院の迷宮に来るのは今回で二度目だ。

 一度目は魔族の(トラップ)で飛ばされた苦い思い出として記憶に新しいが。


「行くか?」

「だな」


 ファルトに誘われ、洞穴の中へと足を進めた。

 人の手が入っていない迷宮(ダンジョン)であれば、深淵に浸るような感覚に陥るほど深い闇が広がっているものだが、この迷宮の中は所々に松明が灯っている為、薄暗くはあるが通路の先まで視覚的で確認することができる。

 迷宮(ダンジョン)という割に、緊張感の欠片もないのが虚しいところではあるが。


「おっ、早速出たか」


 入り組んだ迷宮を進んでいくと、松明の火にぼんやりと照らし出された不気味な影が顔を覗かせた。

 醜悪な姿のゴブリンの集団だ。

 数は六匹。


「一階に出現する魔物(モンスター)は雑魚ばっかなんだよな」


 確かにゴブリンは一匹一匹は脆弱な生物といえるが、これだけの数が集まれば、この学院の生徒レベルでは命の危険を伴う可能性も十分にある。

 だが。


「――まあ、準備運動くらいにはなるがな」


 俺の隣にいたファルトの姿が消えたかと思えば、一瞬でゴブリンの背後を取っていた。


「……っ?」


 目の前にいたファルトの姿が消えたことに戸惑い、一匹のゴブリンが後ろを振り返ろうとした瞬間。

 ゴブリンの胸から刃が飛び出した。

 人でいう心臓の辺りを貫かれたゴブリンは驚愕に目を見開き、自らの胸元を見下ろそうとしたのかガクガク首が揺れ。

 ファルトが刃を引き抜くと同時に、そのゴブリンは力なく倒れ伏した。

 数瞬の出来事に、ゴブリンたちは本能的な恐怖を覚えたのか、それとも何が起こったのか理解できない戸惑いからか、微動だにせずその場に固まっていた。

 当然、その隙をファルトが見逃すわけもなく。

 残り五匹の魔物は一瞬で絶命するのだった。


「……準備運動にもならなかったな」


 見事な手際で魔物を駆逐したファルトに。


「流石、学院最強だな」

「お前がそれを言うなよ」


 素直に褒めたつもりだが、軽く流されてしまった。

 それからファルトは、剣――というには不思議な形をした武器を一振りし、サッと血を払った。


「その武器は剣なんだよな?」

「うん? これか……?

 太刀という武器なんだが、聞いた事はないか?」


(……太刀?)


 聞き覚えのない武器だ。

 その形状は三日月のように反っており、見たところやいばが片方にしか付いていない。

 俺の大剣やエリーの片手剣は両刃で、基本的に俺の知る剣の片刃の物しかなかった。


「こんな武器もあるんだな」

「ああ。

 この学院じゃ、使ってるのはオレくらいだな」


 そう言って、ファルトは持っていた太刀を魔石に戻すと。


「さて、先に進むか」

「ああ」


 再び歩き迷宮の中を進んでいく。

 ファルトはこの迷宮の通路を完全に把握しているのか、迷いなく進んでいく。

 左右正面と三方向に分かれた道を左に進んだところで、地下に下りる階段を見つけた。

 その階段を守るように、スライムやインプがうろうろと巡回している。


「さて、さっさと倒して地下に――」


 早速、ファルトが敵を倒す為に動こうとしたのだが。


「今度は俺にやらせろよ」


 ファルトが動き出す前に、俺は動いた。

 ポケットから魔石を取り出し大剣を形成。

 敵の目前まで疾走し大剣を振った。

 その場にいた数匹の魔物はまとめて真っ二つに切断される。


 まるで相手にならない。

 戦いにすらならない一方的な戦いだった。

 ファルトの言う通り、準備運動にもなっていないかもしれない。


「……へぇ……。

 それがお前の武器か?」

「ああ」

「随分と、禍々しい大剣だな。

 まるで悪魔の武器――いや、魔族が持っていても違和感がないな」


 闇よりもさらに暗い漆黒の剣。

 確かに俺の形成している大剣は、見る者が見れば禍々しいという印象を受けるかもしれない。


「おいおい、そりゃいい過ぎだとは思うぞ」

「ははっ、わりぃな。

 率直な感想が口から出ちまった」


 俺の肩をポンポンと叩くファルト。


「別に気にしたわけじゃないが。

 やはりファルト先輩も、魔族のことは気になってるのか?」

「ああ、一応は生徒会のメンバーだからな。

 おれなんかより、アリシアのほうはもっと気にしてそうだが」


 アリシアのほうが。と言ったファルトの言葉で、俺はアリシアとの会話を思い出した。

 最低限の秩序という割りに、必要以上に生徒を守ることに拘っているアリシア。

 その理由を、ファルトは知っているのだろうか?


「……なあファルト先輩。

 アリシア先輩は、どうして生徒を守ることに拘るんだ?」


 直接アリシアに聞いた時は、口を閉ざされてしまった。

 だがファルトなら、その理由を知っているのではないだろうか?


「アリシアからは、何も聞いてないのか?」

「……ああ。

 機会があれば話してくれると言っていたが」

「……なら、まだ話せないってことなんだろうな」


 そう口にした後ファルトは。


「おれは、お前の質問には答えられない。

 それはアリシア自身が話すべきことだし、アリシアが話したくないことをおれが話すのは裏切りだ。

 俺は友達を――仲間を裏切るようなことはできない」


 勿論、俺も無理に聞くつもりはない。

 話の流れでなんとなく口に出してしまったことだったのだが。


「それは裏切りというほど大きな問題なのか?」


 そんな言葉が口から零れた。


「……それが問題かどうかは、個人の主観にもよるんだろうが」


 そう口にしたファルトは一度言葉を止めて、俺を見据え。


「なあマルス。

 一つ聞かせてくれ。

 アリシアの事情を聞いてきたが、お前はそれを聞いてどうするつもりなんだ?」


 ファルトの質問は思いもよらぬものだった。


「どうするって?

 俺が力になれることなら、力になろうと思った。

 それだけだが?」

「力にか……」


 ファルトは逡巡し。


「なんで力になりたいんだ?」

「なんでって、アリシアは俺の――俺の……?」


 アリシアは別に俺の友達ではない。

 なのに、どうして俺はアリシアの力になりたいと思ったのだろうか?


「お前は誰にでも手を差し伸べるのか?」


 いや、そんな者がいればそれは偽善者だ。

 誰にも、全ての者を救うことなんてできない。


「おれはそうじゃない。

 本当に大切な者だけを守れればいい。

 他の何を切り捨ててだってな」


 大切な者?

 それはアリシアやネネア、生徒会の面々のことだろうか?


「おれにとっての友達は、仲間ってのはそういう存在なんだ。

 なあ、マルス、お前はどうだ?」


 ファルトは問う。


「お前にとっての友達ってのは、なんなんだ?」

「俺にとっての友達は……」


 友達という存在は悪いものではないと思ってる。

 でも、ファルトのように明確な答えを、確固とした意志が俺の中にはなくて。

 だから俺は、その問い対する答えを返すことはできなかった。

 ただできたのは沈黙することのみで。


「……いつかその答えを聞かせてくれよ」


 ファルトがそう口にして、ようやく俺は首肯を返すことができたのだった。


           


             *




 その後、迷宮から戻り宿舎に戻った後も、ファルトの言葉が頭の中に巡っていたのだけど。


(俺にとっての友達は……)


 答えを得ることができないまま、次第に意識が落ちていった。

昨日は更新できず申し訳ありません。

本日中にもう一話投稿します。

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