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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
125/201

生徒会へ向かう途中で

「んじゃ、今日は解散していいわよ。

 試合当日まではずっと死旗デスフラッグの訓練を続けるから、そのつもりでいなさい」


 教官の言葉に、生徒たちは散り散りに去っていった。

 多くの生徒が帰る中で。


「ふははははっ! 見たか貴様ら! これが僕の実力だ!」

「私たちもフラッグを一本も取れてないんだから、勝ち誇ることじゃないよ……」


 俺たち代表選手レギュラーメンバーに、ツェルミンがバッと指先を向けた。

 だが、ノノノの言う通り勝敗は付かなかったので、そんな堂々と言い放つことでもないだろうに。


「あれだけの数がいて引き分けなのですから、それを恥じるべきでは?」


 ムッとした面持ちで、ラフィが言い返した。


「ぐっ――つ、次は勝つ! 何にしても、貴様らは選手としての自覚が足りんのだ!

 旗の防御にマルスがいなければ、一瞬でやられているではないか!」

「そ、それはツェルミンに言われなくてもわかってるよ。

 次の訓練では、必ず勝ってみせるし、マルスの負担も減らしてみせるよ」


 ツェルミンの言葉に苛立ちを覚えたのは、エリーも同様のようだ。

 不平を隠さぬその表情は、この結果に満足していないことを物語っていた。


「とにかく! その程度であれば、代表レギュラーから下りてもらうからな!」

「ご、ごめんねみんな……。

 ツェルミン、あんな言い方ダメじゃない」


 自らの傲慢さを隠そうともせず早足で去っていくオールバックの男を、小人族の女が一生懸命に追いかけていく様はどこか微笑ましくもあったのだが。


「次は絶対負けない……!」

「……実力以上に傲慢なのが腹立たしいです」

「クソが、あのデコ野郎調子に乗りやがって……」


 三人はそんな二人の様子を気にする余裕などなかったようだ。

 だが、ツェルミンが発破を掛けたことで、三人に気合が入ったようだ。


「ま、言われっぱなしが悔しいなら結果を出しなさい。

 あんたたちも今日は解散でいいわよ。

 あまりにも結果が出ないようなら、放課後も訓練させるから覚悟しときなさいね」


 ひらひらと手を振って、ラーニアも学院に戻っていった。


「マルスさん、この後のご予定は?

 何もないようなら、ラフィと一緒に医務室に行きませんか?

 ラフィ、少し疲れてしまったのでお休みしたいです」


 放課後の予定を聞いてきたのはラフィだ。

 今日は身体を動かす訓練が続いた為、疲労しているのは本当だろう。

 だが。


「悪いな、これから生徒会に行ってくる。

 伝えていなかったが、アリシアに、委員会コミュニティの設立に協力してもらえることになったんだ」

「なっ!? ――あの会長が協力!? イヤな予感がしてなりません!

 マルスさん! 色仕掛けとかされませんでしたか?」


 色仕掛け?

 なぜラフィがそんな発想になったのかわからないが。


「あの生真面目な森人エルフが、そんなことすると思うか?」

「見た目に騙されないでください!

 あの女は、きっと手練手管何をしたって、マルスさんを自分の物にするつもりです!」


 ググッと俺に身を寄せてくるラフィ。

 この兎人はアリシアをどんな目で見てるんだ。

 あの生真面目なアリシアが色仕掛けで男に迫る様など、とてもじゃないが俺には想像できない。


「でも、アリシア会長が協力してくれるなら心強いよね。

 ラフィさんだって、マルスが委員会を設立するのは賛成してたんだから、喜んでもいいんじゃない?」


 荒ぶるラフィをエリーは諭した。

 その口振りからは、アリシアに対する信頼のようなものを感じた。

 エリーは生徒会に所属してこともあるので、俺たちよりはアリシアのことを知っているのだろう。


「それはそうですが……。

 あの会長さんはかなり美人なので心配なのです。

 エリシャさんは心配じゃないんですか?

 マルスさんと会長が番いになってもいいのですか!」

「ぇ、え!? な、なんでそういう話になるの?」

「ラフィは最初からそういう話をしているんです!」


 校庭の中心で、姦しく騒ぐ二人。


「ったく、女ってのは飽きずに良く騒げるもんだな。

 マルス、オレはもう行くぜ。

 今から戦闘バトル委員会コミュニティに顔を出してくる」

「わかった。

 じゃあ夜に宿舎でな。

 タイミングが合えば、夕食は一緒に食おう」

「おう」


 尻尾を一度大きく振って。

 騒ぐ二人を尻目に、セイルは訓練をする為に学院に向かった。


(……さて、俺もそろそろ行くかな。

 だが、その前に……)


 エリーとラフィに声を掛けてから行くべきか。と考えていると。

 噴水の前にポツンと立っている、ルーシィとルーフィの姿が目に入った。

 その表情は一見、いつもと同じ無表情に見えるが――良く見るとしょんぼりと気落ちしているのがわかった。


「ルーシィ、ルーフィ、どうかしたのか?」

「……ご主人様」

「……勝てなかった」


 言葉足らずな双子だが、試合に勝てなかったことを悔やんでいるようだ。

 どう声を掛けたものだろうか?

 二人が勝てなかった理由は、俺がフラッグを守っていたせいなので、下手に慰めることはできない。


「「ナデナデしてもらえない」」


 負けたのを悔やんだのではなくて、負けて撫でてもらえないことを悲しんでいるようだった。

 二人の言葉は、今直ぐ頭を撫でろと訴えているように感じて。

 俺は黙って二人の頭を撫でた。


「「ん……」」


 心地良さそうに目を細め、時折耳がピクピクとしている。

 そんな二人の様子は、小動物のように可愛らしい。


「ナデナデは好き」

「不思議な気持ちになる」


 そう言って、双子は微笑を浮かべた。

 そろそろいいかな? と思って手を離すと。


「ぁ……」

「終わり?」


 再びしゅんと表情を暗くする二人。

 だが、あまりゆっくりしている時間もない。


「また、機会があったらな」

「……うん」

「……わかった」


 だが、俺が微笑み掛けると。

 特に文句を言うことはなく納得してくれたようだった。


「私たち行く」

「特訓する。もっと強くなる」


 俺に向かって小さく手を振った双子は、この場から去っていった。

 さて。


「エリー、ラフィ、俺は生徒会に行くからな。

 また明日、学院でな」


 二人で盛り上がって? いるので口を挟むのも悪いかと思ったが、一応去り際に声を掛けると。


「うん。

 また明日ね、マルス」

「え、ま、マルスさん、待ってください。

 ラフィも一緒に――」

「ラフィさんには、これから私と作戦を考えてもらうよ」

「は? ど、どうしてラフィがそんな」

「三年生との試合で、負けてもいいの?

 私たちが足を引っ張ったせいで、マルスが負けたらイヤでしょ?」

「そ、それは……」


 どうやらエリーが上手くラフィを説得したようだった。

 そして俺は学院校舎に戻った。

 そこで。


「あ、あれ、マルス先輩?」


 玄関口から階段に向かおうとしたところで、気が弱そうな声音で俺を呼んだのは。


「コゼット、今から帰りか?」


 半森人ハーフエルフの一年生、コゼット・サルアだった。

 気弱な少女の肩には、相変わらず相棒のハムスターであるプルが乗っている。

 プルはその小さな頭をちょんと俺に下げていた。


「こ、こんばんはです。今から学院長先生のところに行こうと思っていたんです」

「学院長のとこに?」

「はい。ウィンに会いに行くところで」

「ウィン?」


 初めて聞く名前だったが。


「あ――森で助けていただいた風龍ウィンドドラゴンの子供の名前です。

 ウィンドドラゴンだから、わ、わたしが勝手にウィンという名前を付けただけなのですけど……」


 そうか。

 あの子龍は、学院長室で飼われているんだったな。

 数日前に救助してから、まだ一度も会いに行っていなかったが。


「あの子龍は元気にしてるのか?」

「は、はい! もう学院長室を飛び回っていて、元気が有り余っちゃってるみたいです」

 俺があの子龍の様子を聞くと、コゼットはその気弱な表情を満面の笑みに変えた。


「マルス先輩に『ありがとう』と言ってました。

 あの……時間があれば、後で会いに来てあげてくれませんか?」


 ありがとうか。本来語り合うことの出来ない動物や魔物と会話をする技能スキルを持つ彼女がそう言うのなら、本当に感謝されているのかもしれない。


「わかった。

 今日はもう予定があるから無理だが、近いうち会いに行ってみるよ」

「は、はい! ありがとうございます。ウィンも喜ぶと思います。

 あ、あの、ご予定があるのに、お邪魔してしまいすみませんでした」


 申し訳なさそうに頭を下げたコゼットに。


「少し話しただけだろ? 謝る必要なんてないぞ。

 今から生徒会――アリシアのところに行ってちょっと話すだけだからな」

「アリシア会長ですか……?」

「ああ、ちょっと相談があってな」

「……」


 俺がアリシアに会いに行くと伝えると、顔を伏せてコゼットは黙り込んでしまった。

 何かを考え込むように唸っており、断片的にはではあるが。


「ラ……せんぱ……なに……みはって……たのま……」


 何かブツブツと口にして。


「あ、あの! わたしも付いて行ってもいいでしょうか?」


 伏せていた顔を上げたコゼットの顔は、何故か決意に満ちた表情をしていた。


「だが、ウィンに会いに行くんだろ?」

「そ、その、アリシア先輩に会った後にでも行けるので」


 確かに、そこまで長い話にはならないと思うが。


(……コゼットも、何かアリシアに用事があるのかもしれない)


「わかった。

 なら、生徒会に行った後に、俺も学院長室に付き合おう。

 ウィンにも会っておきたいしな」

「あ……す、すみません。

 なんだか急かしてしまったみたいで」

「そんなことを思ってないぞ?

 とりあえず、ここでずっと話すのもなんだし、とりあえず生徒会に向かってもいいか?」

「は、はい!」


 首肯するコゼットと、そのコゼットに合わせてプルが小さく敬礼した。

 

(……相変わらず、人間のようなハムスターだ)


 プルの動きに苦笑して。

 俺とコゼットは生徒会に向かって歩き出した。

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