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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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委員会設立の相談②

「とりあえず、話すなら座りませんか?」

「そうだな」


 開いたままだった扉を閉めた後。

 アリシアは部屋の奥の自分の席に、俺は適当な椅子を一つ借り腰を下ろした。


「それで、委員会コミュニティの設立についてですが、

 今のままマルス君の要望を伝えても、委員会の設立は認められないでしょう」

「やはりそうなのか?」


 昨晩、エリーも言っていたけど、『学院の利益に繋がるような活動目的』が委員会の設立を認可させる為には必要だと聞いていたが。


「何か学院側にメリットが伝わるような、明確な活動目的を入れるべきでしょうね。

 友達と仲良くというのは、個人的にはとても微笑ましくはありますが……」

「活動目的……か」


 しかし、学院の利益と言われても直ぐに思いつきそうにない。


「それと、委員会が正式に認可されたとしても、半年間なんの成果も出せなければ、認可が取り消されます。

 折角設立できても、取り潰される可能性は十分あるのです」


 なんだと?

 その話は始めて聞いた。

 つまり、今も現存している委員会は、常に成果を出し続けているというわけか。


(……どうしたものか?)


 と、考えている俺に。


「……そこでマルス君。

 一つ、提案があるのですが……」


 アリシアは悩むように逡巡しながらも口を開いた。


「生徒会の活動に協力していただけませんか?」

「いや、さっきも言ったが、俺は生徒会に所属するつもりはないぞ?」

「はい。それは勿論わかっています。

 そして、あなたに無理強いをするだけの実力が私にはありません。

 だからこれは提案です」

「提案?」


 アリシアは再び逡巡するように間を置いた後。


「……あなたが設立する委員会の活動に、

 生徒会の補佐、協力という活動を内容を加えてもらえないでしょうか?」


 提案の内容を口にした。

 しかし、その表情は芳しくない。

 自分の決断に迷っているようにも見えた。

 どういうつもりでそんな提案をしているのかは図りかねたが。


「それを委員会の活動目的にすれば、設立は認可されるのか?」

「今よりも可能性は高いと思います。

 何よりこれは、私の恣意的なお願いです。

 現在生徒会は、深刻なまでの人材不足なので……」


 現生徒会のメンバーは、三年生がアリシア、ファルト、ネネアの三人。

 一年生がカネドとセリカの二人。

 たった五人しか居ない。


「今はまだ我々がいます。

 ですが、来年我々が卒業してしまえば、生徒会のメンバーは二人。

 これでは学院の秩序の維持など不可能です」


 来年の生徒会は、上級生が一人もいない状況になるわけだな。

 いや、正確にはエリーが生徒会に復帰する可能性は高いだろうけど、それでも決して人数が多いわけではない。


「だから、我々が卒業した後、生徒会のメンバーと協力して、

 学院の秩序の維持をしていただけないでしょうか?」


 必死の表情で説得される。

 だが、話を聞けば聞くほど、疑念が強くなる。

 どうしてアリシアは。


「なあ先輩、どうしてそこまで、この学院の秩序の維持にこだわるんだ?」


 今年、生徒会の活動に協力しろ。ということであれば話もわかる。

 しかし、アリシアが気に掛けているのは来年のことだ。

 彼女は来年この学院にはいない。

 つまり、この学院で起こる出来事など、現生徒会会長のアリシアには関係のない出来事ではないのだろうか?


「学院の秩序を維持することが、生徒たちの生活を維持することに繋がるからです」

「でも、それは先輩のメリットにはならないだろ?」

「いえ、必ずメリットになると私は信じています」


(……信じているか。断言するわけではないんだな)


 だが、アリシアには何か信念のようなものがあるのだろう。

 彼女の揺らぎのない瞳がそう語っていた。


「勿論、常に生徒会の活動を手伝えというわけではないのです。

 生徒会の手に負えない事態が発生した時だけで構いません」

「つまり、基本的には何もしなくてもいいと?」

「はい。勿論、手伝っていただけるなら助かりますが」


 ここまで俺に有利な条件を出されてはな……。


「……わかった。

 生徒会の補佐と協力を活動内容に加える。

 だから、委員会の設立に協力してくれるか?」

「はい、勿論です。

 あなたの協力が得られるなら、手を尽くしましょう」


 そこまで言ってくれるならありがたい。

 なら俺も、協力できることは進んでしていこう。

 どうせ朝は早いんだ。

 明日から見回りくらいは手伝ってもいいかもしれない。


「昼休みもそろそろ終わってしまうので、

 話の続きは、今日の放課後にどうでしょうか?」

「わかった。なら、放課後にまたここに来ればいいか?」

「はい。お待ちしています」


 言ってアリシアは立ち上がり、俺の傍まで寄ってきた。

 そして右手を差し出して。


「なんだ?」

「協力関係を結ぶのですから、握手を」

「だが、手を触ってはダメなのだろ?」


 さっきアリシアに言われたことなのだが。


「あ、揚げ足を取らないでください。

 い、今はいいのです!」


 今はいい?


「つまり、俺たちはもう親しくなったってことなのか?」

「え――!? あ、い、いえ……そ、それは……」


 なぜか頬を赤らめて、行き場を失ったみたいに瞳を彷徨わせたアリシア。

 この様子から察するに、まだ親しくなれたというわけではなさそうだ。


「マルス。

 アリシアはお前と少しでも距離を縮めておきたいんだよ。

 だから、握手してやれって」

「ふぁ、ファルト、何を!?」


 ファルトが横から口を挟んだ。

 顔はこちらに向けているが、まだネネアと遊んでいる。

 中々激しい攻防になっていた。


「まあ、アリシアがいいなら俺は構わないが?」

「も、もういいです!

 マルス君、いいですか? こういうのは時と場合です。

 状況をしっかりと判断して行動しなくてはいけません」

「わ、わかった……」


 人間関係の基礎を、再びアリシアから学んだのだった。

 

 その後直ぐに、昼休み終了を知らせるベルが鳴り、俺は地面に倒れていたセイルを担ぎ、生徒会室を後にした。

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