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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
118/201

委員会設立の相談①

 部屋の中を見回したのだが、アリシアの姿はない。


「アリシア先輩はいないのか?」


 ネネアを弄ぶファルトに俺が尋ねると。


「ああ、少し前に飯に行ったんだ。

 そろそろ戻って来る頃だと思うぞ」


 手に持った雑草を右に左に動かしながら、ファルトは俺の質問に答えてくれた。


「くっ……や、やめられにゃいにゃ! にゃ! にゃ!」


 鳴き声を上げながら一生懸命に雑草の動きを追うネネア。

 猫人族の本能なのだろうか?

 恥ずかしそうに顔を赤くしているのに、右に左に手を動かし、一生懸命に獲物ざっそうを捕らえようと奮闘している。


「ま、マルス……ダメだ。

 オレはもう堪えられねえ!

 部屋の外にいるから、話が済んだら出てきてくれ」


 苦悶の表情を浮かべたセイルが部屋から出ようとした時だった。


「……またやっているのですか?」


 開いたままだった扉から、アリシアが入ってきた。

 訝しむようにじと~っとファルトとネネアを見ている。


「おう、アリシア。戻ってきたか」


 アリシアの声に、ファルトが振り向いた。

 その隙にネネアが。


「隙ありにゃ!」


 ファルトが手に持つ雑草を奪おうと飛び掛かったのだけど。


「甘い」


 ネネアの突進をかわし、ファルトは腕を振り上げた。

 だが――。


「あ……」


 勢い余ったようで、手に持っていた雑草がファルトの手から離れ。


「にゃああああああ!」


 ここぞとばかりにネネアは跳びはねた。

 雑草は弧を描きながら、セイルの顔の辺りにまで飛んでいって。


「うおっ!?」

「にゃうん!?」


 セイルとネネアが激突し、床に倒れ伏せた。

 しかし、そこまでして雑草を追いかけた成果は出たようで、ネネアの手にはしっかりと雑草が握られていた。


「よっしゃあああ! やったにゃ! やっと奪ってやったにゃ! うにゃああああ!!」


 尋常じゃないくらい喜んで、ガッツポーズまでするネネアが勝利の咆哮を上げた。

 そんなネネアに押し倒されたセイルは、銅像にでもなったのではというくらいに固まっていた。

 無我の境地とでもいえばいいだろうか?

 一切動かず余計なことは何も考えずただ無表情だ。

 ふと、ガッツポーズしていたネネアと、無表情のセイルの視線が交差した。

 すると、ネネアの身体はプルプルと震えだし。


「っ!? ――て、テメー、セイル! よ、良くもあたしのあられもない姿を見やがったにゃ!?」

「み、見てないっす。

 ネネア先輩が獣人の本能に負けてにゃんにゃん言ってたところな――」

「見てんじゃにゃいか!!」

「うぼっ!?」


 セイルの頭頂部にネネアの猫パンチがヒット。

 ガクンと身体をふらつかせたセイルは、そのまま床にバタンと倒れた。


「ふぅ……乙女の秘密を堂々と見るにゃんて、この後輩は獣人の風上にもおけんにゃ」


 一見、理不尽な暴力を奮われたような気がしなくもないが、獣人たちには獣人たちの価値観があるのかもしれない。


「ひどいなネネア。

 後輩を苛めるなよ」

「それはうちのセリフにゃ!

 ファルト、テンメーいつもいつも、うちで遊びやがって!

 もう許せないにゃ! 許してやんにゃいにゃ!」

「なんだ? 怒ってるのか?」

「怒ってんにきまってんだ――にゃ!?」


 驚愕の声を上げたネネア。

 それがなぜかと言うと。


「ほら、これが何かわかるよなネネア?」

「にゃ……にゃあ……!」


 いつの間にか、ファルトの手にはもう一本。

 犬の尻尾を模したようなあの雑草が握られていたのだ。


「う、嘘だろ? 嘘だと言ってくれにゃ……」

「ほらほら」


 ファルトがその場にしゃがみ、再び雑草をペシペシ振ると。


「にゃ!」


 先程の再現が始まった。

 パシ! パシ! パシン!

 ペシ! ペシ! ペシン!


「うにゃ~、ダメにゃ、この誘惑には勝てないにゃ……!」

「ふっ、猫人破れたりだな……」


 じゃれつくネネアと、それをからかうファルト。


(……仲がいいな)


 二人の様子を見ていて、そんなことを思っていると。


「ところでマルス君、何か用ですか?」


 二人を特に止めようともしないアリシアが、俺に声を掛けてきた。


「ああ、報告と、ちょっとした相談があってな」

「報告と相談?」


 眼鏡の奥の瞳が細められた。

 訝しむようにじと~っと俺に目を向けるアリシアに。


「その前に、あいつらを止めなくていいのか?」

「ファルトとネネアはいつもあの調子だから、気にしないでください」


 なるほど。

 いつもあの調子なら、確かに止める必要はないだろう。


「それで、まず報告から聞かせてもらっても?」


 その言葉に俺は首肯した。


「報告は二つ。

 まず一つだが、やはり俺は生徒会には入れない」

「……理由は?」

「それは報告の二つ目に関係することなんだが。

 俺は、自分で委員会コミュニティを作りたいと思ってる」


 自分の中での決定事項をアリシアに伝えた。

 すると。


委員会コミュニティを? それは何の為に?」


 アリシアの瞳が鈍く光った。

 それは明らかな疑いの眼差しだ。

 何をするつもりだ? と問いたいのだろう。


「友達と一緒にいられる場所が欲しいんだ」

「え……?」


 俺の言葉が意外だったのか、アリシアはきょとんとした顔を見せた。


「おかしいか?」

「……い、いえ。

 おかしいというわけではありません。

 そうでしたね……。あなたは、友達を作る為にこの学院に入ると言っていましたっけ」


 どうやらアリシアは、前に生徒会室でした話を覚えていてくれたようだ。


「ああ。

 少しずつだけど、俺にも友達が増えてきた。

 そいつらと一緒に、もっと色々なことをしたい。

 もっと仲良くなりたい。

 その為に、委員会コミュニティを作りたい。

 こんな動機じゃ、委員会の設立は認められないか?」


 どうしたら委員会の設立を認めてもらえるのか。

 その辺りの相談もしたいのだが


「……なるほど。

 委員会の設立の為の相談をしにきたというわけですか」

「……ダメか?」


 アリシアに相談を受けてもらえないなら、ラーニア辺りに相談するしかないが。


(……今はリフレの件で機嫌も悪そうだしなぁ)


 ガミガミと関係ないことで説教されかねない。

 だからこそ、今はアリシアに頼りたいのだが。


「そんなことはありません。

 生徒たちの相談を受けることは、生徒会会長として当然のことです」


 アリシアは当然のように、相談を受けることを当然だと言ってくれた。

 なんて頼りになるのだろうか。

 他者の為に当然のように何かできるというのは、それだけで凄いことではないだろうか?

 生真面目過ぎるだとか、頭が固いところがあるだとか思ったこともあったが。

 頼ってみれば、これほど心強い生徒はいない。

 

「アリシア先輩、ありがとな!」


 俺は彼女の手を握り、ぶんぶんと振った。

 するとアリシアの頬に紅が差し。


「じょ、女性の手を、き、気軽に触ってはいけません」

「そうなのか?」

「そうなのです!」


 強い語調で断言された。

 どうやら不機嫌にさせてしまったようだ。


「それは、すまなかった」

「ぁ……い、いえ、こちらこそすみません。

 その……親しくなるまでは、あまりそういうことはしないほうが宜しいかと」

「な、なるほど」


(……そういうものなのか?)


 アリシアに注意され、俺は人間関係を構築していくことの難しさを改めて知るのだった。

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