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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
117/201

食堂での一幕と、見てはいけない生徒会の一幕。

 食堂に入る。

 いつものように満員の食堂で雑談しながら食事を楽しんでいた生徒たちだったが。


「お、おい、マルス先輩だぞ」

「最近、ハーレムを作ろうとしてるって聞いたけど本当かな?」

「すげー! 男の夢だな」

「いやいや、ハーレムとかないでしょ? ただの噂じゃねえの?」

「あそこにいる狼人の先輩も、ハーレムの一員なのかしら?」

「いや、あの人は男だろ!」

「でも、あの二人って仲いいらしいぞ。

 二年の先輩が、セイルさんのことマルス係とか言ってたし」


 どうしてか、いつも人目を集めてしまう。

 そして様々な話題が錯綜していくのだ。


 カウンターで食事を受け取って、席を探していると。

 突然、生徒たちがそそくさと立ち上がった。


「ど、どうぞ」

「マルス先輩、座ってください」


 そそくさと生徒が立ち上がり、席を譲ってくれた。

 だが、食べかけの食事が見えて。


「食べ終わってからでいいぞ?」

「え……!?」


 ギョッとし意外なものを見るように目を見開いた後輩たち。

 何をそんなに驚いているのだろうか?


「で、でも、マルス先輩をお待たせさせるわけには……」


 後輩たちが戸惑いながらお互いの顔を見合わせている。


「そんなこと気にする必要ないだろ?

 先に席を取っていたのはお前らなんだからな」

「……」


 だが、俺が言っても、後輩たちは気まずそうに俺から目を逸らすだけだった。


「マルス、席が空いたよ」


 エリーに呼ばれ。


「邪魔したみたいで悪かったな。

 じゃあ、向こうで席が空いたみたいだ」


 俺はエリーたちの待つ端の席に歩いていった。

 その後ろで。


「……マルス先輩って、いい人なのかもな」

「……うん。実は結構優しいのかも」


 そんな声が聞こえたのだけど。

 そもそもどうして、俺は自分が怖がられているのかわからなかった。


「さあマルスさん! ラフィの隣に!」

「ご主人様、ルーシィと」

「ルーフィの隣に座る」


 そんなことを言われた。

 ラフィと双子は、バチバチと雷光が散るかの如く睨み合っている。

 ちなみに、エリーは困った顔で苦笑し。

 セイルはどうにかしろ。と視線を投げかけてきた。


「エリーは、ルーシィとルーフィの隣に座ってくれ」

「う、うん」


 睨み合っていた三人だったが、俺の言葉に明暗がわかれたように顔色を変えた。

 ラフィは煌めくような笑みを浮かべ、双子は悲哀に満ちた表情で固まっている。


「マルスさん! ラフィを選んでくれると信じてました」


 だが。


「ラフィの隣にはセイルが座ってくれ。

 セイルの隣に俺が座る」


 口にした瞬間、ラフィは絶望の淵に落とされたように椅子からすてんと転び落ちた。


「兎がショックで倒れた」

「気持ちはわかる」


 うんうん。と頷く闇森人(ダークエルフ)の姉妹と。


「だ、大丈夫、ラフィさん」

「なにやってんだこいつは……?」


 心配そうなエリーに、呆れ口調のセイル。


「だ、大丈夫か?」


 それから俺が声を掛けると、ラフィは直ぐにぴょんと立ち上がった。


「ま、マルスさん!」


 不満そうに頬を膨らませ、抗議の意を露わにした。

 そんなラフィに。


「さ、食べようぜ。席はこれで決定だ」


 席に着き、「頼むよラフィ」と言って微笑みを向けた。

 すると。


「……もう」


 ふくれっ面を引っ込めて、ラフィも渋々席に着いた。


「じゃあ、食べようか」


 全員が席に着いたのを確認して、エリーが口を開き。

 騒がしくも楽しい食事が始まった。


 あーん。と食べさせて欲しいと小さな口を開く双子を、ラフィが怒涛のラッシュで妨害する。

 さらにはラフィが俺に「マルスさん、あーん」とセイルを挟んでやってきた。

 セイルは非常に迷惑顔で悪い目つきをさらに凶悪に変化させ。

 そんな俺たちの様子を、エリーは微笑ましそうに見守っていた。


 賑やかな食堂で一際賑やかな俺たちの食事が終わり。


「俺は今から生徒会室に行ってくるから、

 みんなは先に教室に戻っててくれ」


 食堂を出て直ぐに、俺はそう伝えた。

 昼休みが終わる前に、一度アリシアに委員会(コミュニティ)を作りたいという話を通しておきたかったのだ。


「ではラフィも」

「ルーシィと」

「ルーフィも」


 絶対に一緒に行くと、その視線が語りかけてくる。


「流石に、みんなで行くと迷惑になるんじゃないかな?

 マルス、委員会コミュニティの相談に行くんだよね?」

「ああ」


 エリーの言葉に俺は首肯した。

 アリシアは迷惑だとは言わないと思うが、確かに大人数で押しかける必要もないだろう。


「悪いけど、今回は俺だけで行くよ。

 直ぐに戻るからさ」


 三人同時にしゅんと表情を沈めた。

 三人の耳まで力なく下がっている。


「そんな落ち込まないの。

 マルスはいつも私たちの我儘を聞いてくれてるでしょ?

 なら、私たちもマルスの頼みはちゃんと聞かないと」


(……今まで、エリーに我儘など言われたことはないのだが)


 三人はエリーの言葉に渋々頷いた。

 そして、ラフィは赤い瞳を真っ直ぐに向け、真剣な面持ちで俺を見つめ。


「マルスさん、ですがラフィは心配です。

 あの会長のことですから、マルスさんに媚を――いえ、陥れるようなことをしてくるかもしれません。

 なので、この狼男を護衛に連れていってください」

「何言ってんだクソ兎? マルスに護衛なんて要らねえだ――」

「いいですか狼男! ちゃんと見張っておくんですよ!」

「……は?」


 激しく念を押され、セイルは訝しむようにセイルは首を捻った。


(……まあ、全員で行くよりは落ち着いて話もできるだろう)


 それに、どうやら俺一人でアリシアに会いに行くことがラフィは不満のようだし。

 この小柄な白兎の憂いを断つ為にも。


「セイル。

 悪いが一緒に来てもらってもいいか?」

「……まあ、いいけどよ」


 その頼みに、セイルは小さく頷いた。

 ようやくラフィも安堵したようで。

 俺とセイルは、生徒会の委員会部屋コミュニティルームに向かうのだった。




 階段を上り八階に到着し生徒会の扉の前に着いた。

 しかし、なぜかその扉は開いている。

 誰かが出て行った時に、閉め忘れたのだろうか?

 そう思い俺が手を掛けると。


「にゃ……ふぁ、ファルト~、や、やめるにゃ~」

「ははっ、これでどうだ?」

「ぁ……だ、ダメにゃ、こ、これ以上はやめるにゃ~」

「ほらほら、どうした?」

「ぁ……にゃ、にゃ~」


 この学院の当代最強と言われる男――ファルトの声と、生徒会所属の猫人族ウェアカッツェの女――ネネアの声が聞こえた。


「……おい、マルス。

 戻ったほうがいいんじゃねえか?」

「なぜだ?」

「なぜって、そりゃお前……今の声、聞こえたろ?」


 聞こえた。

 だが、それがどうかしたのだろうか?


「このまま扉の前に立っていても仕方ないだろ?」

「お、おい待てってのマルス!」


 何を焦っているのか、セイルが俺の肩に手を掛けた。

 だが、既に俺は扉を開いていた。


「入るぞ」


 そして委員会部屋コミュニティールームに足を踏み入れると。


「にゃ……にゃ!?」

「おう、マルス。

 珍しいな、どうかしたのか?」


 犬の尻尾にも似た緑色の雑草のようなものを、ファルトがペシペシと振り回していた。

 そして、ファルトの振る雑草に反応し、ネネアがパンパンと床を叩く。


「ほら、こっちだぞネネア」

「や、やめろにゃ、こ、後輩たちの前で、こんにゃ……あぁ~ダメにゃ!」


 パン! パン! ぺシン! と雑草を捉える為にネネアがもの凄い勢いで床を叩く。


「ほらほら! とってみせろ!」

「にゃにゃにゃ~、この誘惑には勝てないにゃ~!」


 ぺシ! ペシ! ペシン!

 リズム良く、そして小気味よく響くその音は耳に心地良くもあったのだが。


「ネネア先輩……」


 そんなネネアの様子に、セイルが目を覆った。


「どうしたんだセイル?」

「こ、こんなネネア先輩見たくねえんだ……」


 獣人にも、色々あるのかもしれない。

 そんなことを俺は思うのだった。

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