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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
116/201

午前の授業終了、そして食堂へ。

「マルスさん、残りの時間はラフィと勝利の余韻に酔いしれましょう。

 さあ、ギュッ! とラフィをギュッとしてください」


 ラフィがギュッと俺に抱きついてきた。

 ワザとなのか、これでもかというくらい胸部を摺り寄せてくる。


「だらしない身体を寄せられて」

「ご主人様も迷惑」


 そんなラフィの耳を、双子が引っ張った。

 ちょんと引っ張った程度のようだったが。


「うひゃ!? な、何をするんですぅっ!」


 ビクッと震えたラフィは、涙目になりながら怒りの激情を露にした。


「……い、痛かった?」

「……ご、ごめんなさい」


 その逆鱗は双子の予想以上だったようで、二人はほんの少しだけ表情をしゅんとさせ、素直に謝罪していた。


「むぅ……珍しく素直ですね。

 いいですか、兎人は耳が弱いですから急に触れたりしないでください。

 あ、マルスさんは好きに触ってくれていいですからね」


 殊勝な様子の双子が意外だったのか、ラフィはそれ以上怒らず二人の謝罪を受け入れた。


「「つまり弱点?」」

「ぐっ……じゃ、弱点というわけでは……」


 双子の質問に言葉を濁しつつ、再び俺の方に振り向き。


「まあ、その話はいいのです。

 さあマルスさん。

 ラフィの頭を撫でてください。

 勝ったラフィにご褒美を!」


 ラフィは爛々と瞳を輝やかせ、期待に満ちたワクワクとした表情で俺を見つめ。


(……ラフィも頑張ってくれたしな)


 俺は優しく、ラフィの頭を撫でた。


「ぁ……」


 すると、ぱっちりとした目が少し垂れて、とろんとした表情に変わった。

 サラリとした真っ白な髪を撫でると、それに合わせて兎耳がペタンと垂れている兎耳がパタパタと揺れた。

 とても気持ちよさそうにしているので、どのタイミングで撫でるのをやめればいいかわからなかったのだが。


「マルスさん、ラフィの耳も撫でてください」

「大丈夫なのか?」

「はい。でも、できれば優しくお願いします」


 言われて俺は、頭を撫でていた手を白い耳に動かそうとした。

 その時。


「ご主人様、ルーシィと」

「ルーフィにも」


 とことこと近づいてきた双子が、そんなことをねだってきた。


「あなたがたは敗北者なのですから、ご褒美はなしです!

 ふふふっ、ラフィとマルスさんの仲睦まじい様子をそこでじっと見ていなさい」


 完全に勝ち誇り上から目線でものを言うラフィに。


「そんな意地悪言うなら」

「また耳を引っ張る」


 ルーシィとルーフィは、ラフィに手を向けるとわしわしと指先を動かした。


「だ、ダメです!」


 長い耳を守るように、ラフィは頭を抱えた。


「「隙あり」」


 ラフィが俺から離れた瞬間、飛び付くようの双子に引っ付かれた。


「ご主人様」

「なでなで」


 二人は俺にわかるくらいの小さな微笑を浮かべた。

 だが、その双眸は期待に満ち満ちている。

 獣人のように尻尾があれば、感情豊かにふりふりと動いていたことだろう。


「ま、マルスさん。

 あまり双子を甘やかさないでください。

 ここで甘やかすと二人は甘えん坊ダークエルフになってしまいます!」


 甘えん坊ダークエルフ?

 なんだそれは?

 ダークエルフの新種だろうか?


「ほら、二人とも離れなさい」


 俺が疑問を感じている間に、ラフィが二人を引き剥がしにかかった。

 だが、絶対に離れないぞ。という意志を感じるほどに、双子にぎゅーと抱きしめられている。


「ご主人様に負けたけど」

「私たち頑張った」


 拗ねたような声音で言われる。

 確かに二人は頑張っていた。

 ルーシィとルーフィ、この二人が居なければもっと楽に守れていたのは間違いなくて。


「じゃあ、少しだけな」


 ぽん。と二人の頭に手をのせて、数回撫でる。

 二人ははっきりとわかるくらいに柔和な笑みを浮かべ目を細めた。

 そして手を離すと。


「おわり?」

「もっと」


 甘えるように言われたが。


「ダメです! これ以上甘えることはラフィが許しません!」


 ラフィが力の抜けていた双子を俺から引き剥がした。


「いいですか双子。

 今回、マルスさんに撫でてもらうというのはラフィが勝負に勝ったご褒美に……」


 まるで説教するようにガミガミと話し出すラフィに。

 双子は耳を塞いだ。


「仲いいよね、あの三人」


 俺の隣に立ったエリーが、微笑ましそうに三人の様子を見ていた。


「ちょっと、羨ましいな……」


 羨ましい。そう言ったエリーの表情はどこか寂しそうで。


「なら、その輪に入ってくればいい」

「え? あっーー」


 俺はエリーの背を軽く押した。

 俺に押され、足を数歩踏み出したエリーを見た三人は。


「え、エリシャさんも撫で撫で順を争いに来たのですか!」

「なら絶対に」

「譲らない」


 まるで敵が出現するかのように敵意を露わにし。


「撫で撫でって、私はそんなつもり」


 苦笑し、エリシャが誤解を解こうとすると、すかさずラフィは口を開き。


「ラフィはちゃんと見ていたんですからね!

 エリシャさんが、撫でられる私たちを羨ましそうに見ていたのを!

 あの顔は物欲しそうに発情している顔でした!」

「は、発じょ……!? そ、そんな顔してないよ!

 確かに撫でてもらってるのは少しだけ羨ましかーーって、そうじゃなくて!?」


 顔全体を朱色に染めたエリーが高らかな叫び声を上がり。

 その叫び声に呼応するように、授業終了の鐘の音が響く。


 そんな鐘の音など聞こえていないように、姦しく論争をするエリーたち。


「あいつら、いつまでやってんだ」


 近付いてきたセイルが、呆れ顔を向けた。

 みんなが仲良くしてくれているのはいいことだが、話が終わる気配はない。


(……昼食はさっさと済ませて、生徒会に行こうと思っていたんだが)


 エリーたちが女同士で親睦を深めているところに、口を挟むのも悪い。

 それに、たまには俺も。


「セイル、これから一緒に食堂に行かないか?」

「かまわねえが、あいつらはどうするんだ?」

「今日は、男同士親睦を深めようぜ」


 俺はセイルの肩に腕を回し。


「うおっ――……ったく、しょうがねえな。

 付き合ってやるよ」


 そして俺たちは二人は食堂に向かった。

 歩きながら、セイルの尻尾が俺の身体にぴしゃぴしゃと当たっていた。


(……昼食が終わったら、生徒会に行ってみるか)


 それから俺たちが、学院の玄関口に入る辺りで。


「あ、あれ!? マルスさん? あっ!? ま、マルスさん!! 待ってくださ~い!」


 背中越しにラフィの叫び声が聞こえた。

 どうやら俺たちが先に歩いていたことに気付いたようで。

 エリー、ラフィ、ルーシィ、ルーフィの四人が走って俺達に向かってきて。

 結局俺たちは、六人で食堂に向かうことになるのだった。

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