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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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クラス訓練⑦

 全員が駆け出す中、俺は一人陣地の隅に立っていた。

 俺の後ろには黒旗が十本。

 これを守りきれば負けはない。


 まだ敵が攻め込んでくるまで多少かかりそうだが。


(……さて、誰が最初にくるかな)


 そんなことを考えていると。


「?」


 気配を感じ、振り返った。

 すると――。


「早いな」


 俺の背後で丸い影が動いていた。

 声を掛けると、その影の動きが止まり。

 漆黒に染まった穴の中から、二人は顔を覗かせた。

 俺と目が合い、瞳をパチパチとさせた後。


「ばれた」

「一時退却」


 闇の中に頭を引っ込めると、丸い影がゆらゆらと影から影を渡るように移動していった。


(……意外と慎重だな)


 攻撃してくるかと思ったのに。


(……指揮官に敵情視察でも命じられていたのだろうか?)


 だとしたら、今ので全てのフラッグのありかがバレたわけだ。

 いや、そもそも俺がここに立っている以上、旗はここにありますよ。と宣言しているようなものか。

 白旗あいてチームは総力を結集して旗を奪いにくるだろう。


(……さて、どんな戦術でくるかな)


 俺は高揚感を覚えた。

 戦いの高揚感とは違う不思議な感覚だ。

 チーム戦ならではといってもいいかもしれない。


(……こういう感覚をなんと言うのだろうか?)


 試合中にこんなことを考えているなんて、我ながら緊張感がないと思うが。

 周囲に敵の気配はない。

 だが、少しして。


「来たか」


 前方から狼人ウェアウルフたちが突っ込んでくるのが見えた。

 数は五人。

 狼人族と犬人族が二人と、猫人族が一人だ。

 全員で一斉に攻めてくるかと思ったが。


(……何か作戦があるのかもしれない)


 俺は向かってくる相手を見据えた。

 すると、五人のうち三人が急激に加速しこちらに迫ってきた。

 当然、俺はこの場を動くことはない。


「いいかお前ら! 相手は一人だが人間だと思うな。

 ラーニア教官級の化物を相手にしていると思え!」


 化物呼ばわりされるなんて、流石ラーニアだな。

 だが、妙齢の女を化物と例えるのは流石に酷いだろう。

 容姿自体はかなり整っているから、せめて内面が化物のように恐ろしいと言うべきだな。


「後は作戦通りだ」

「わかった」

「一気に行こう!」


 数メートル付近まで相手が迫ってきた。


(……さて)


 ここまで死旗の訓練に参加してみてわかったことは、危険行為なしに相手を無力化する面倒臭さだ。

 危険行為が失格になる以上、致死性の攻撃を加えることができない。

 せいぜい許されるのは軽い怪我といったところなのだが。

 一対一ならともかく、数人の生徒が一斉に掛かってくると手加減するのが非常に面倒なのだ。


 どう対処するか考えていると。

 高身長の犬人と狼人が一人ずつ俺に向かってきた。

 二人の獣人は加速したまま俺を取り押さえるように突っ込んできた。


(……まずは二人)


 犬人が俺を捕縛するつもりか腕を大きく広げていた。

 だが。


「腹部がガラ空きだ」


 軽く掌を当てるように腕を突き出すと、腹部に掌がめり込んだ。

 自ら加速してきた足を止めずに、この犬人はわざわざ突っ込んできたのだ。


「おえええええ……」


 膝を突き腹部を抑える犬人。

 そんな犬人の様子を気にすることなく、狼人が俺の頬を狙い拳を突き出していた。

 だが、その拳が迫ってくるのが俺には確かに見えていた。

 視認できるほど遅い拳を身を引くだけでかわし、その腕を取り背負い地面に叩きつけた。

 正確には地面ではなく、蹲る犬人の上に。


「ぐあっ!?」

「わふんっ!?」


 重なるように倒れた狼と犬。

 だが直ぐにもう一匹の狼人が迫ってきていた。


「ただ向かってくるだけじゃ、旗はやれないぞ?」

「ああ、ただ向かっていくだけで、旗を取れるとは思ってねえさ」


 狼人の一人が、俺の言葉に意味深なセリフを返したかと思うと。


「飛べ!!」

「にゃにゃ!!」


 俺の前方一メートル程の位置で膝を落とした狼人を踏み台に、猫人の少女が高く跳躍した。

 四方八方でダメなら上空からと考えたようだが。

 背後に回らせるつもりはない。


 猫人を捕らえる為に跳躍しようと軽く膝を落とすと。


「行かせねえ!!」


 膝を突いていた狼人が、その場から飛びかかってきた。

 俺に飛びかかる狼人と、俺を飛び越えようとする猫人だが。


「その程度じゃ、旗はやれないな」


 跳躍と同時に右足を振り上げた。

 飛びかかってきた狼人の顔面が俺の靴の裏に吸収され。

 右手を伸ばし猫人の服を掴むと、そのまま地面に叩き落とした。


「にゃ、にゃああああああああ!!」


 すると、顔に靴跡がついた狼人の腹部に猫人が頭を突っ込んで。


「おごあっ!?」

「にゃっふん!?」


 軽い悲鳴を上げると、気絶したようだった。


「で、お前はどうする?」


 倒れ伏す味方を呆然と見つめ、佇む犬人の少年が。


「ち、ちっきしょーーー!!」


 一人撤退する為に踵を返した。

 だが。


「敵に背中を向けるなって」


 俺は可能な限り威力を抑え、火の魔術――炎弾(ファイアーバレット)を行使した。

 鋭く尖った小さな魔弾が逃げる犬人の背中に突き刺さり。


「ぎゃうん!?」


 ガクッと膝を落としたゆっくりと犬人の身体が地に倒れ伏せた。

 これで先行してきた五人を倒したが。


(……こういう戦いも訓練にはなるな)


 それに、ある程度制限のある戦いのほうが面白い。

 この競技をしていると、そんなことを感じた。


「さて、次のヤツらはいつくるかな?」


 感覚を研ぎ澄ます。

 まだ周囲に敵はいないようだが――近付いてくる敵影が一人。

 物凄い速度スピードで迫ってきていた。


「お、やっときたか」


 俺目掛けて真っ直ぐに疾駆するのは蒼い人狼――セイルは速度を緩める事なく、いや、それどころか直線距離を一気に駆け抜けて最高速度まで加速する。

 どうやら、このまま俺に突撃するつもりかもしれない。

 普段なら、半身ずらすだけでかわすことのできる単調な一撃なのだが。


(……後ろには旗がある)


 下手にかわせば一瞬でフラッグを引き抜かれる可能性があるのだ。

 狼人の鋭利な爪と合わせて、あれだけ加速した一撃を受ければ普通の人間なら間違いなく致命傷だ。

 その辺りも考えた上での行動なのだろうか?

 それとも、俺が普通とは思われていないのか。


 どちらにしても――動きを止めればいいだけの話だ。


 俺は地に手を突いた。

 利用するのは土。

 想像イメージするのは全てを閉ざす大地の防壁。


「足を止めた方がいいぞ」


 その声はセイルに届くはずもないが。

 次の瞬間――地面が盛り上がり巨大な土壁がセイルの進路を妨害した。


「っ――!?」


 遠目からでもわかるくらいに、セイルが驚愕したのがわかった。

 壁の向こう側にいるセイルは間違いなく足を止める。


(……いや、壁に激突しているかもしれないな)


 そう思っていたのだけど――突如、土の防壁に黒い大穴が開いた。

 そして、その大穴から壁を抜けて、減速することなくセイルが駆け抜けてきたのだ。


(……闇魔術か? ……ルーシィとルーフィの仕業だな……)


 あの闇森人ダークエルフの双子がセイルを補佐したのだろう。

 あの双子が自ら周囲と協力してこのフラッグを狙っているということは、相当本気になっているのだろう。


 そんな思考を巡らせていると。

 気付けば周囲に敵の気配が増えていた。

 相手チームは、ここが勝負所だと考えているのかもしれない。

 だがまずは――。


(……制限を気にして、手加減が過ぎたな)


 前方のセイルを『確実』に止めるとしよう。

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