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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
109/201

クラス訓練②

2015/11/24

*大変申し訳ありません。

 前話の最後のラーニアのセリフに文章を追加しました。

 各チームの陣地について書いていなかったので、その描写を追加しています。

「さて皆、作戦会議するぞ」


 高らかに宣言したのはこちらのチームの人間(ヒューマン)の少年だ。

 名前はなんと言ったか覚えていないが、エメラルドの髪をオールバックにしているのが特徴的で記憶に残っていた。


「まず、このチームの指揮官リーダーを決めよう。

 誰がいいと思う。そうか僕か。ならば引き受けよう!」


 どうやらこの男、やる気満々のようだ。

 それほどやる気があるのなら、伺いを立てずに自ら宣言すればいいのに。


「ツェルミン、あなたが指揮官じゃこちらのチームが負けてしまいます」


 しかし、ラフィがそれに苦言を申し立てた。


「敗北など有り得ない!

 それに、この僕以外に誰か指揮官に相応しいものがいるのか?」


 その態度は非常に横柄。

 だが、それだけ自分のリーダーとしての資質に自信があるのかもしれない。


「ツェルミンがやるくらいなら、ラフィちゃんがやったほうがいいだろ」

「クソ生意気などっかの人間ヒューマンよりは遥かにいいな」


 同じチームの生徒達からは、ツェルミンに批判が集中する中で。


「ならば他に誰が指揮官を務めるのだ!

 候補を上げてみろ候補を!」


 ツェルミンは傲岸不遜な態度で言い散らし周囲を見据えた。

 我こそは! と声を上げる者はいなかったのだが。


「そんなもの聞くまでもありません」


 ただ一人、ラフィは迷うことなく口を開いた。

 なんとなくだが、純白の兎がなんと言うのか予想がついてしまった。


「マルスさんがリーダーを務めるべきです!」


(……やはりそう来たか)


 予想通りの結果なので驚きはなかった。


「うん、それは当然」

「実力が桁違い」


 ラフィだけではなく、俺の両隣にいる闇森人ダークエルフの姉妹も頷く。

 すると。


「まぁ……実力的に考えれば……」

「間違いなく彼よね……」

「マルス君が編入してから、武勇伝を聞かない日がないもんなぁ……」


(……武勇伝? なんだそれは?)


 あることないこと噂は耳にしたが、今度は武勇伝か。

 しかし、思いのほか俺がリーダーを務めるということに批判はないようだ。


「待て待て! 彼はまだ定期試験を一度も受けていないではないか!

 試験の成績で言うなら僕は学年二位だぞ!」


 しかし、ツェルミンは反対意見を述べた。

 俺としてはツェルミンが指揮官でも一向に構わないのだが。


「では聞きますがツェルミン、あなたはマルスさんに勝てるのですか?」


 見下すように、ラフィが蔑みの目をツェルミンに向けた。


「ツェルミンじゃ無理」

「デコピンで気絶する」


 ルーシィとルーフィが追い討ちを掛けると、ツェルミンは怒りを堪えるように肩頬をぷるぷると震わせ、拳をぎゅっと握っていた。


「い、いくらなんでもデコピンはありえんだろ!」

「だけどあのマルスだしなぁ……」

「デコピンで死ぬまでありそう」


 他の生徒たちの言葉を侮辱的に感じたのか、ツェルミンの額には血管が浮かび上がっていた。


「な、ならば今から決闘をしてやろうではないか!」


 明らかに怒りに任せての発言だったのだが。


「ツェルミン、俺は別にお前が指揮官でもいいぞ?」


 こんな事で無駄な話をしていてもしょうがない。


「俺は死旗デスフラッグという競技をやったことがないんだ。

 だから、経験者が指揮官になるべきだと思うのだが?」


(……まずは試合を経験してみたいしな)


 そんな考えもあっての提案だった。


「そ、そうか?

 ほら見てみろ! マルスもこう言っているぞ!」


 先ほどまで怒りに震えていたツェルミンだったが、俺の提案に表情を明るくした。

 どこかウキウキとした表情を見せている。


「では、僕が指揮官で問題ないな?」


 ツェルミンがオールバックの髪を撫でそう確認した時だった。


「ラーニア教官、こちらはいつでも始められます」


 相手チームの方から、そんな声が聞こえた。


「早いわね。

 でも、もう少し待ってなさい。

 向こうはまだ指揮官も決まってないみたいだから」


 どうやらこちらの会議の様子は筒抜けのようだ。


「ぬ――と、とにかく、今は作戦会議だ!

 ちゃんと僕の指揮に従ってもらうからな!」


 こうしてようやく、一応の指揮官が決まり。

 こちらのチームの作戦会議が始まった。


「十本の旗のうち死旗は二本だ。

 まずこの死旗の髑髏ドクロを消す」


 旗に触れたツェルミンが、黒い旗に描かれた白い髑髏のマークを消した。

 幻惑系の魔術を使ったのだろう。


「髑髏を消して普通の旗に見せるのか?」


 同じチームの森人エルフの生徒が尋ねた。


「うむ。基本だが間違いのない戦略の一つだろう」


 これで、どれが死旗かわからなくなったわけか。


「死旗には微量な魔力が流れています。

 なので死旗に流れる魔力量に合わせて、

 他の旗にも同程度の魔力を流したほうがフェイクになるでしょう」


 そんなツェルミンに、ラフィがアドバイスをした。

 マークを消しただけでは、どれが死旗なのか直ぐに気付かれてしまうということのようだ。


「ラフィちゃん、それだと旗の位置自体が丸分かりになっちまうんじゃないか?

 微量な魔力だとしても、感知できるヤツはいるしさ」


 そんな疑問を口にしたのは犬人族(ウェアハウンド)の少年だった。


「そうですね。正確な位置まではわからなくとも、おおよその位置を割り出すことは可能だと思います。

 なので死旗を除いた八本の旗のうち、三本の旗に魔力を流しておきましょう。

 これで敵戦力を削れれば儲けものですし、魔力の流れていない通常の旗からも目を遠ざけられると思うんです。

 ツェルミンもそれでいいですか?」

「い、言われずとも、今やろうと思っていたのだ」

「はいはい。じゃあ早速お願いします」


 ラフィの言葉に狼狽するツェルミンだったが、他の旗にもさっと微量の魔力を流していった。

 俺も確認してみたが、旗に流れている魔力の量はどれもほとんど差がない。

 学年二位などと口にするだけあって、魔力の制御は上手いようだ。


「後は旗を回収するチーム分けと、旗を差す位置だな」


 旗の準備を終えたツェルミンが続けて口を開いた。


「これだけ広いフィールドで十本ともなると、全ての旗の回収は難しいでしょう」

「全てを回収するのは諦めた方がいいかもですね」


 ラフィの言葉に同調するように、小人族の少女が口を開いた。

 フェルミンも小人族の少女の意見には賛成のようで、小さく首肯した。


「では、まずは班を分けるとしよう」


 そうして班分けをすることになった。

 旗を奪いにいくチームと旗を守るチームで分けるのが基本らしいのだが。


「これだけフィールドが広いんだ。

 敢えて守備はなしで攻撃に全ての班を分ける!」

「大胆だね……」


 ツェルミンの発言に、小人族の少女は意外そうに声を漏らした。

 だが防備なしということは、好きに奪っていってくれと言わんばかりだ。


「全ての旗の回収は難しいと、話したばかりじゃないですか!

 話の流れ的に防備を増やすところでしょうに!」


 ラフィは賛同しかねる様子だったが、それなら相手の虚をつける気がしなくもない。


「そもそも、各人の能力を活かす編成にすべきじゃないか?」


 生徒とは思えないほどに、髭をもっさりと生やした鍛冶人ドワーフの男が重々しく口を開いた。


「勿論、全ての旗の回収は難しいだろう。

 だがそれは相手も同じだ。

 最悪、両チーム旗が0本なんてことになりかねない。

 僕は勝ちたいんだ! だからこそ攻撃に戦力を注ぎ込む!」


 ツェルミンの意思は固いようで、俺たちが何を言っても考えを変えることはなさそうだった。

 だが、勝ちたいという想いは本気のように思える。


「最初の訓練なんだ。

 とりあえず、ツェルミンの指示通りやってみるのもいいんじゃないか?」


 だから、訓練が許されている今ならば、一度従ってみてもいい。

 俺はそう考えた。


「マルス! 君は中々話のわかる男だな!」

「自信があるんだろ?」

「うむ! 安心しておくといい!」


 俺の肩をパンパンと叩き、ツェルミンは満足そうな笑みを向けた。


「では班分けだが、六人編成の班を四班作ってもらう」


 黒旗チームも白旗チームも二十四人。

 なので、六人編成になると四班できあがる。


「中央に二班。左右に一班ずつ展開。

 中央が二班なのは敵との交戦に備えてだ。

 目立つことで敵を引きつける役目も担う。

 その間に左右の班は旗を探してくれ。

 遮蔽物のある場所などは要注意だぞ」


 そんな指示を出し。


「中央のメンバーは、突破力や探索力、サポートができるもの。

 バランスよく班を編成したい。

 左右のチームは狼人ウェアウルフ犬人ウェアハウンドを主軸に探索力と運動能力の高いメンバーを主軸にする」


 こういった広いフィールドでなら、狼人や犬人の身体能力を大きく活かせるからと、ツェルミンは考えたのかもしれない。

 こうして班が分けられていった。

 そして。


「マルス、君は僕のチームに入るといい。

 僕と共に中央突破と敵を引きつける仕事を頼みたい」

「わかった」


 俺はツェルミンの班に入ることになった。


「ならばラフィもマルスさんと同じチームに入ります」

「ルーシィと」

「ルーフィも」


 続けて三人が揃えて口を開き。


「進んで参加したいというのならいいだろう。

 バランスも悪くなさそうだしな」


 俺と同じチームに参加することになった。


「もう一人は――ノノノも僕のチームに入ってくれないか?」


 ノノノと呼ばれたのは、先程ラフィの言葉に同調していた小人族の少女だった。


「わかった。宜しくね」


 彼女は特に不平はなかったようで、柔和な笑みを浮かべ俺達に会釈をした。

 これで四つのチームが完成した。


「後は旗の位置だな。

 防備がない以上、全ての旗をバラバラに差す。

 遮蔽物で死角になっている場所や、木の上なども有りだな。

 何よりも敵チームの移動距離が長いほうがいい」


 というツェルミンの発案の元、校舎裏から集会場方面など、様々な位置に点々と十本の旗を差し。


「ラーニア教官、こちらも終わりました」


 ようやく準備を終えたことを指揮官ツェルミンが伝えると。


「随分時間が掛かったけど、まずはこんなもんかしらね。

 じゃあ――始めるわよ。

 スタートまでは相手の陣地に入らないこと。

 制限時間はベルがなるまでよ」


 俺達は予定通り、中央の噴水付近に二班。

 中央から離れた左右の位置――男子宿舎と女子宿舎方面に一班ずつチームを配置したのだが。


 ――相手チームはこちらとは全く違った戦法を取っていたのだった。

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