クラス訓練①
2015/11/24 最後のラーニアのセリフに陣地の説明を追加しました。
玄関口を出て校庭に並んでいる俺たちだったが。
ここに来るように指示を出したラーニア自身がまだやってこなかった。
「教官、来ないね……」
俺の隣に立つエリーがぽつりと呟いた。
「もしかしたら、リフレ教官と揉めてるんじゃないですか?」
「流石にそれはないと思うが……」
だが今朝の二人の様子を見ていると、顔を合わせた瞬間に戦いが始まりかねない気もする。
「教官、来ない?」
「なら、遊ぶ?」
ルーシィとルーフィは首を傾げならがらも、期待に目を輝かせていたのだけど。
「待たせたわね。準備に手間取ったわ」
玄関口から長髪を靡かせた紅の教官がスタスタと歩いてきた。
懐には何かを抱えている。
「取り合えず、半々に分かれてチームを作りなさい」
やってきて早々、指示を出すラーニア。
ルーシィとルーフィは、遊べなくなったことを残念に思ったのか、つまらなそうに唇を尖らせていた。
出された指示通り、適当に分かれてチームを作っていく。
俺、ルーシィ、ルーフィ、ラフィは同じチームになっていた。
というか、傍にいたから強制的に同じチーム扱いになったようだった。
エリーも同じチームになるかと思ったのだけど。
「私はマルスと戦いたいから。
胸を貸してね、マルス」
と、別のチームになることを選んだ。
ちなみにセイルもエリーと同じチームに入っていた。
「じゃあ、今から死旗の訓練をするわよ。
ルールを忘れている者もいるでしょうから、一応説明をしておくわ」
それからラーニアは死旗のルール説明をしてくれた。
基本的なルールはアリシアに聞いたものと同じだ。
しかし、明らかに違う点は。
「特別ルールとして、クラス全員で合計十本の旗を取ったチームの勝ちよ。
十本のうち、二本が外れになってるから気をつけなさい」
そう言って、懐に抱えていた物を地面に落とした。
バタバタと落としたそれは白色と黒色の旗だった。
死旗は四本の旗を取るゲームだったはずなのだが。
「四人で四本なんてやってたら、訓練効率が悪過ぎるわ。
ちなみに今日の訓練で見込みのある者を、三年との決闘の代表選手にするから」
実力のある者を見極める為の訓練というわけか。
だが、わざと手を抜く者もいるのではないだろうか?
実際、ラーニアの私事に巻き込まれ面倒そうな顔をしている者もいる。
だが。
「三年との決闘に勝ったら、学院対抗戦の際にあたしのギルドのマスターを紹介してあげるわ」
まるで俺の疑問に答えるように、ラーニアは続けて口を開いた。
すると。
「ラーニア教官のギルドって、ケラウノスよね?」
「ケラウノス!? 最大手ギルドじゃねえか!?」
どうやら有名なギルドらしい。
「しかもギルドマスターって、雷帝!?」
「大陸最高の冒険者の一人、雷帝――ヨーウェよね!!」
「去年の学院対抗戦には来てなかったけど、今年は来るのか!?」
物凄い盛り上がりようだった。
「雷帝ヨーウェとお近づきになるチャンスだと思えば、
あんたらにとっても悪い話じゃないでしょ?」
ラーニアは口角を吊り上げた。
それはまるで悪魔のようも下卑た笑みだ。
(……これでは、悪魔に取引を持ちかけられた生徒達の図のようではないか)
「あたし、本気で頑張ろうかな!」
「ヨーウェに会えるなら、オレも本気出す!」
「寧ろラーニア教官と付き合えるなら俺は本気出す!」
「お前……ドMだな……」
なんだか余計な発言も聞こえて。
「ドMってのはどう意味かしら?
それと、あたしが好きになるのは自分よりも強い男だけよ」
「「「絶対無理だな」」」
男子生徒達の声が重なった。
「あんたら、ちょっとは向上心ってものを……」
そんな光景に声を荒げるラーニア。
しかし。
「ラーニア教官って、Aランクの冒険者だろ?
そんなのに勝てる男の方が少ないだろ」
「冒険者全体でもAランク冒険者なんてそんないないよな?」
他の生徒もうんうん頷いている。
生徒たちの目には、ラーニアの強さが化物のように映っているのかもしれない。
「と、とにかく!」
男子生徒たちの揃いも揃った一言に思わずドモるラーニアだったが。
「あんたたちは三年に勝つつもりで努力を――いえ、必ず勝つこと!
いいわね!」
クラス全員を鼓舞するように声を張ると。
まるで軍隊が鬨の声を上げるように、おおおおおーーー!!! と、クラス一同が団結していた。
全員の表情が、今までにないくらいやる気に満ちている。
ラーニアの餌に生徒たちが食いついた証拠だった。
「じゃあ、少しの間各チームで作戦会議。
旗を差す場所も相談して決めなさい。
校庭全体をフィールドとするけど、外には出るんじゃないわよ!
各チームの陣地は中央の噴水で区切るわ。
黒旗チームは噴水から学院の校舎裏まで。
白旗チームは噴水から学院の正門までよ。
後、建物の中に旗を差すのは禁止」
簡単な注意事項を告げられ、各チームが十本ずつ旗を回収。
こうして、各チーム同士で別れ作戦会議をすることになった。