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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
104/201

夜のコミュニケーション③

委員会コミュニティって……突然どうしたの?」

「好きな時に集まれる場所があれば、

 今よりももっとみんなと仲良くなれるかと思ったんだ」


 エリーの疑問に、俺は素直な想いを伝えた。


「ラフィは賛成です! 大賛成です!

 委員会部屋コミュニティルームがあれば、

 マルスさんと年中無休で逢引が出来るじゃないですか!

 正に愛の巣です!」


 声を弾ませ俺に擦りより、熱烈歓迎な様子のラフィ。


「ご主人様とずっと一緒」

「それは素晴らしい」


 ルーフィとルーシィは、何かを想像したようにぽーっとした顔をした後、満足そうに頷いた。


「セイルはどうだ?」

「……いいんじゃねえか?

 そうすりゃ、いつでもマルスと訓練できそうだしな」


 俺が尋ねると、セイルも賛成の意を示してくれた。


「エリー、委員会コミュニティ、作っちゃダメかな?」

「だ、ダメじゃないよ。

 マルスが作りたいなら、私も協力したい。

 でも、私には生徒会もあるから……所属はできないと思う……」


 そうか。

 エリーは定期試験の成績次第では、生徒会に戻るんだったか。


「でも、できる範囲内であれば私も協力するね」


 そう言って頬を緩めるエリー。

 俺が委員会コミュニティを作ること自体は賛成してくれた。


委員会コミュニティの掛け持ちはダメなのか?」

「ダメじゃないよ。

 でも、生徒会は他の委員会コミュニティと比べて仕事も多いから……」


 実質掛け持ちは難しいというわけか。

 人数も少ないせいか、アリシア辺りは忙しなく生徒会の活動をしているイメージがあるもんな。

 早朝から学院内の見回りもかかしてないみたいだし。


 なんとかエリーとも一緒に活動できるような委員会コミュニティにしたい。

 そうなると、活動内容をどうするかか。

 ただ思い付きで口にしてしまったが、考えなければならないことは多そうだ。


「とにかく、私のことは気にしないで。

 委員会コミュニティの設立でわからないことがあれば、相談に乗るけど?」


 気を取り直したように明るい調子に変わるエリー。


「活動内容はラフィとマルスさんがラブラブすることでいいでしょうか?」

「それで認可されるなら、学院内が委員会コミュニティだらけになってるよ……」


 ラフィの提案に、エリーは呆れた様子で頭を抱えた。


「じゃあ、ルーシィとルーフィとご主人様が」

「一緒にお話したりラブラブする」

「だからそれじゃ認可されないよ!」


 続けて口を開いた双子の姉妹に、エリーは少し強い語調で突っ込んだ。


「なら、強くなる為にマルスと訓練をするってのはどうだ?」

「だからそういうのは――って、ごめん。それは立派な活動目的だった」


 エリーは流れのままに口を開いたが、直ぐにセイルに謝罪し、これにはセイルも苦笑していた。


「でも、訓練系だと既に戦闘バトル委員会コミュニティがあるから、

 正式な認可は難しいと思う」


 それから冷静にセイルの意見に返答をした。


「……正式に認可されなければ委員会部屋コミュニティルームは手に入らないんだよな?」

「うん。

 認可には、学院の利益に繋がるような活動目的がないと難しいと思う」

「部屋なんていくらでも余ってそうなのに、随分とケチなんですね」

「それには兎に同意」

「初めて気があった」


 三人は珍しく同意見のようだ。


「あはは……。

 でも、いい加減な活動で認可すると示しがつかないからね」

「委員会の申請は学院長にすればいいのか?」

委員会コミュニティの認可は、学院長個人で決めるわけじゃないんだ。

 勿論大きな権限はあるだろうけど、教官方の誰か一人でも協力が得られるなら、

 認可への大きな一歩だと思う」

「教官の協力? どういうことだ?」

「例えば、鍛冶の委員会コミュニティなら、

 鍛冶人ドワーフのドドルカ教官が時間外活動という形で教授してくれてる。

 クラスと違って委員会コミュニティには担当者がいるわけではないんだ。

 だから、各教官は生徒達の為に慈善活動をしているみたいなものだね。

 授業外で一流の鍛冶師であるドドルカ教官の技術を教授してもらえるわけだから、

 学院側としては優秀な鍛冶師の育成ができるわけで、委員会コミュニティの認可を断る理由はないってわけ」


 鍛冶師として優秀な生徒を世に輩出できれば、学院の名声にも繋がり国の発展にも繋がるというわけか。


「何かメリットを考えなくちゃならないな。

 その上でラーニア辺りに協力が得られればいいんだが……」

「リスティーに頼む」

「うん、お願いする」


 ルーシィとルーフィはあの闇森人ダークエルフの教官と親しいんだったか。

 だとしたら、俺達が頼れるとすればラーニアかリスティーのどちらか。


「何にしたって、まずは活動内容だろ?

 直ぐに決められることじゃねえだろうし、これからゆっくり考えてみるってことでいいんじゃねえか?」


 確かにセイルの意見は最もだ。

 思いつきの提案なので、学院の利益に繋がるようなと言われると難しい。


「俺としては、みんなと仲良くなることを目的とした委員会コミュニティで申請したいんだが……」

「……う~ん。応援したくなるような活動目的ではあるけど、

 それは個人の利益にしかならないから認可は難しいと思う」


 やはりダメか。


「ラフィとマルスさんが仲良くなることは、学院の利益どころかいては世界の為になることだというのに!」

「どういうことだ?」


 ラフィの突拍子もない発言は、何か考えがあってのことなのだろうか?

 そう思い俺が尋ねると。


「マルスさんの子供であれば、きっと英雄の資質を持っているに違いありませんから」

「?」


 俺は思わず首を傾げたが、ラフィはにっこりと満面の笑みを浮かべていた。

 それは質問の答えになっていないように思うが。

 エリーの方を見ると、視線が重なった。

 そして――なぜかエリーの頬にぽっと紅が差した。かと思えば直ぐに目を逸らされて。

「そ、そんなことを言ったら、絶対に認可なんてしてもらえないよ!」

「そうでしょうか?」

「兎にしてはいいアイディア」

「それをルーフィとルーシィがこなせば完璧」

「ど、同意するの!?

 な、なんだか私が間違ってるみたいじゃない!」


 部屋の中が再び騒がしくなってきた。


「取りあえず、少し考えてみるよ。

 寝る前に何か思い浮かぶかもしれないし」

「ご主人様、もう寝る?」

「だったら一緒に――」

「それはラフィの役目です!」

「……お前ら、あんま騒ぐな。

 また苦情がオレのとこにくんだろうが!」

「はぁ……もう……」


 姦しくなる室内で、エリーは一人溜息を吐いて。


「これ以上うるさくなるのは、流石に迷惑だよ」

「そう、兎は帰る」

「早く行く」

「だからそれは――」

「ラフィさんもルーシィもルーフィも!」


 エリーが一喝した。

 だが、流石にそろそろいい頃合か。


「……まぁ、今日はそろそろ解散にするか」

「ほら、マルスもこう言ってるよ。

 取りあえず、今日は帰ろう。

 みんな、それでいいよね?」


 一人一人の顔を見回し、エリーが確認を取ると。


「……マルスさんが、そう言うなら」

「……わかった」

「……仕方ない」


 三人は渋々頷いた。


「マルス、隣室の人には私たちが謝っておくから」

「いや、俺も行こう」


 流石にそこまで任せられない。

 俺たちが隣室に向かおうと部屋を出ようとすると。


「謝罪なんていらねえよ。

 そもそも騒がれるのがイヤなら実力行使すりゃいいだけの話だ。

 それができねえヤツに、謝る必要なんてねえ」


 セイルがそんなことを言った。


「そうなのか?

 だが、だとするとセイルはなぜ俺の部屋にきた?」

「ぁ……いや、一応頼まれたからな」


 だとしたら、余計な手間を掛けさせてしまった。


「わざわざ悪かったな」

「いや、オレは別にいいんだけどよ」

「狼男はご主人様のこと好き?」

「なんだかデレてる」

「っ――て、テメーら何を言ってやがる!

 マジで今から八つ裂きにしてやろうかっ!」


 焦りか戸惑いか? 何らかの激情にセイルは顔を赤くした。


「ムキになるところが怪しいです。

 ラフィに粉掛けてきた発情狼はどこにいったんですか?」


 そんなセイルの様子を心配そうに窺うラフィ。


「な、なんでマジに心配してんだクソ兎!」


 さらに激を飛ばすセイルに。


「違うよみんな。

 セイルは、ただ強い人が好きなだけなんだよ」


 エリーは大真面目な顔で言っていた。


「ぐっ――もういい! 俺は帰るからな。

 テメーらもこれ以上騒ぐようなら他所でやれ!」


 バッ――と勢いよく扉を開いて、セイル部屋を出て行ってしまった。


「何を怒ってるんだろう?」

「エリシャさんに図星を突かれたからじゃないですか?」

「? 私、何か変なことを言ったかな?」


 俺の方を見て首を傾げるエリー。

 特に問題がある発言があったとは思えなかったので、俺も首を傾げておいた。


「ま、男女問わず強い者に引かれるというのは当然の本能でしょう。

 この学院のように強さを求める者達なら尚のこと」


 ラフィの言葉に、エリーとルーシィとルーフィが頷いた。

 珍しく全員の意見があったようだ。


「それはそうと、戻ると決めたのですから

 いつまでもマルスさんに抱きついていないで下さい!」


 気を取り直したようにラフィが言って、俺の腕を抱く双子を引き離した。


「あう~」

「ご主人様~」


 名残惜しそうな声を上げる二人。


「さっさと行きますよ」

「ご主人様、いつか聞かせて」

「ご主人様のこと、もっと知りたい」

「こ、コラ! 最後の最後までマルスさんの気を引こうとするなんて!

 マルスさん、ラフィもマルスさんの全部を知りたいです!」


 最後の最後まで争いながら、ラフィは二人を連れ出した。

 それからエリーも部屋を出て。


「あの三人、仲いいよね」

「そうだな」


 苦笑するエリーに俺も同意し苦笑を返した。


「まだ上のベッドを使ってるんだね。

 てっきり下のベッドを使ってるのかと思ったんだけど」

「俺にとっては、そこはエリーの場所だからな」

「マルス……」


 この場所はエリーの場所。

 なんだかそんな風に思ってしまって。


「でも、来年にはここに新入生が入ってくるかもしれないから。

 だからその時は、ちゃんと使ってもらってね」

「ああ……そうだな」


 エリーの言葉に首肯する。


「じゃあ、また明日ね。マルス。

 委員会コミュニティのことなら、いつでも相談にのるから。

 それと、もっと詳しい話が聞きたいなら、ラーニア教官やアリシア会長に相談してみるといいと思うよ」


 ラーニアやアリシアか……。


「わかった。

 機会があれば、相談してみるよ」

「うん。じゃあまた明日学院でね」


 エリーが部屋を出て行くと、室内に静寂が訪れた。

 先程まで騒がしかったのが嘘のようで。

 なんだか急激に眠気が襲ってくる。


「……寝るか」


 出しておいた光玉ライトを消して、ベッドに上がった。

 目を瞑る。


(どうにかして……委員会コミュニティを設立できないだろうか?)


 それと、アリシアにもちゃんと伝えておかないとな。

 やっぱり生徒会には入れないって。


 伝えに行くついでに、委員会コミュニティのことも相談してみるか。

 すんなり協力してくれるかはわからないが……。


(――いや、待てよ)


 一つ思い出したことがあった。

 そういえば、俺は一つアリシアに貸しがあったのだ。


 あの時の――学院の迷宮ダンジョンでアリシアが仕掛けた魔封じの部屋に閉じ込められたことへの貸しが。


(あの時の貸しを返してもらおう)


 これでアリシアの協力は得られそうだ。

 明日早速、生徒会に行ってみよう。


 こうして明日の行動予定を決めた後。

 俺は意識を深いところに落としていくのだった。

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