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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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夜のコミュニケーション②

「それで、何を話そうか?」


 口にしたのはエリーだ。

 これといって何を話すかは決めていない。


「「ご主人様のこと、聞きたい」」


 ルーシィとルーフィが同時に口を開いた。


「俺のこと? 何が聞きたいんだ?」

「好みの女性を教えてください」


 そんな質問をぶつけてきたのはラフィだ。


「……好み?」


 唐突にそんなことを聞かれてもな。

 だが、その場にいる全員が興味津々な様子で俺を凝視していた。


「なぜセイルまでそんな興味深そうなんだ?」

「あ――いや、深い意味はねえんだが……マルスほどの男がどんな女を好きなのかと思ってよ」


 ぶっきらぼうな口調でそう言って、セイルは俺から目を逸らした。


「そういうのは考えたことがないな」

「強いて言うならでいいんです。

 髪は長いほうがいいとか、胸は大きいほうがいいとか」


 ラフィはくるりと俺に向き直り、膝の上に跨るように座ると、俺の胸に胸部を押し付けてきた。


闇森人ダークエルフが好きとか」

「ルーフィとルーシィが好きとか」

「それは完全に二人のことじゃない!」

「そうです! 今はマルスさんの好みを聞いているのですよ!」


 双子の発言に、エリーとラフィが喰い付いた。

 ちなみに、ちゃんと声量を絞っている辺り、隣室の住民に気を遣っているようだ。


「好みというわけではないかもしれないが……」


 そんなエリーたちに。


「男女に限らないが、強い者は好きだ」


 これも好みの一つということでいいのだろうか?


「強い……?

 で、では、ラフィのような弱い雌はマルスさんの好みではないのですね……」


 ガーン! と強い衝撃を受けたみたいに身体をフラフラと揺らし、肩落とし項垂れるラフィ。

 なんとはなしに言っただけの発言で、ここまでヘコまれても困るのだが。


「強い人……」

「がんばらなくちゃ」


 ルーシィとルーフィはお互いの目を見つめ、何やら頷きあっていた。


「マルスから見て、強いって思えるような人がどれだけいるの?」


 純粋な質問をしてきたのはエリーだ。

 その瞳には興味の色が宿っていた。


「……そうだな。

 少なくとも、俺の師匠は強かったよ。

 心技体全てにおいて強さって何かを知っているような人だった」


 師匠アイネは、自分で自分のことを最強と言ってのけるくらい、自分の強さに自信を持っていた。

 例えばの話だが、学院長と師匠が戦ったとしたら確実にアイネが勝つ。

 そう断言できるくらい、アイネの実力は圧倒的だったのだ。

 彼女が死んでしまった今では、そんな仮定は意味のない話ではあるが。


「何度か話には聞いているけど、

 マルスが強いって言うんだから、よっぽどなんだろうね」

「そのアイネさんという方は、どういう方なんですか?」


 ラフィは首を傾げた。


「無茶苦茶な人だったな。

 例えば、ガキだった俺を迷宮ダンジョンの中に一人置き去りにしたりな」

「それはお前を殺すきだったんじゃねえか?」


 セイルがそう思うのは当然だ。

 あの時は確かに死に掛けた。

 だが、死にはしなかった。

 それは、アイネが俺の実力を理解した上で取った行動だったからだろう。


「俺を殺すつもりなら、わざわざそんな面倒なことはしないだろ。

 ただ、死んだらそれまでくらいには思っていたかもしれないがな」


 俺がそう言うと、みんなの表情が暗く厳しい面持ちに変わった。


「ご主人様の師匠は鬼」

「ご主人様をイジメた」


 もしかしたら、俺のことを不憫に思っているのかもしれない。


「厳しいところも多かったが、根は優しい人だったよ。

 実際、俺が生きてこられたのはあの人のお蔭だしな」


 俺がどんな敵を相手にしても生き残れるだけの力を得られたのは、師匠が育ててくれたからだと思っている。


「何か、マルスを強くしなければならない理由でもあったのかな?」

「好みの男に育てようとしたのではないでしょうか!」


 肩を落としていたラフィが顔を上げてそんな冗談――いや、煌くその瞳は本気のように見えなくもない。


「好みの男にってのはどうかわからないが、

 俺を強くしたい理由はあったかもしれないな」


 その理由を知る前に、彼女は死んでしまったわけだが。


「……今となっては考えるだけ無駄な話ではあるがな」

「無駄?」

「どうして?」


 双子の姉妹は俺を見つめ。


「二人にはまだ話してなかったな。

 師匠は一年前に死んでるんだ」


 淡々と事実だけを伝えると。


「「……ごめんなさい」」


 二人は申し訳なさそうに顔を伏せた。

 俺の腕を抱いていた力が弱まる。


「気にする必要ない。

 師匠は最後の最後まで満足そうだったからな」


 言って二人の頭を撫でると、二人は耳をピクッと振るわせ気持ちよさそうに目を細めた

 彼女の死は、非業の死だったのかもしれないが、それでも本人は最後まで笑っていた。 だからきっと、彼女の死は不幸なことではない。

 その笑顔は是非もなく俺に伝えていたのだから。


「……ま、俺の話はここまでにしとくか。

 良かったら、みんなのことを聞かせてくれよ」


 話を変える為に、俺はそんな提案をした。

 俺自身の話は、あまり面白いものではないだろう。

 場の空気を徐々に重くするだけだろうからな。


「……みんなは、何か目標ってある?」


 俺の提案に、最初に話題を提供してくれたのはエリーだった。


「そりゃ、冒険者になることだろうが?

 この学院にいるヤツらは大抵がそうだろ?」

「ラフィはマルスさんと番いになることです」


 セイルの言葉に全く違う意見を言うラフィ。

 そんなラフィの発言に、セイルは口をへの字に変えた。


「テメェーはマジで自主退学しろ!」

「なぜあなたにそんなことを言われなければいけないのですか!」

「仕方ない、この兎は発情中」

「そう、万年淫乱」

「それはマルスさんにだけですから」


 顔を上げ、その瞳を俺に真っ直ぐに向けてくる。

 口振りはふざけているが、その眼差しは本気だ。

 ラフィの瞳には常に本気の想いが宿っている。


「だったら私たちは」

「卒業したらご主人様と暮らすのが目標」


 ルーシィとルーフィは思いついたようにそんなことを言った。


「つまり、将来的にはラフィの召使ということですか」

「「は?」」


 双子の心底嫌そうな声が重なった。


「あはは……。

 まあ、ここに入った理由はそれぞれあるよね」


 乾いた笑い声を漏らすエリーに。


「そういうテメーはなんでこの学院に入った?」


 セイルがエリーに尋ねた。


「私の目標は騎士になること。

 みんなを守れる騎士に」

「騎士? ならどうして冒険者育成機関に来た?

 騎士学校にでも行けばよかったじゃねえか」

「騎士になるだけならそうかもしれない。

 でも、私は強くなりたかった。

 きっと、私が欲しい強さは騎士学校じゃ手に入らない。

 だからここに来たんだ」


 興味なさそうに「そうかよ」とだけ答えるセイル。

 セイルは、エリーが騎士になるという目標を持ってここに来たことは知らなかったようだ。


「そういうセイルは、どうしてここに?」


 今度はエリーが聞き返した。


「冒険者になる為だ。

 だがそれだけじゃねえ。

 誰よりも強くなりてえ、だから強くなる為にここに来た」

「そっか。

 真っ直ぐで、セイルらしいね」


 微笑むエリーを見て、セイルは再び顔を逸らしむくれっ面を見せた。

 強くなりたいという欲求は、ここにいる多くの者が持っている純粋な想いだろう。


「ルーシィとルーフィは?」


 二人に尋ねると。


「私たちも強くなる為」

「自分の身は自分で守れないとダメ」


 闇森人ダークエルフである二人は、生まれながらにして厳しい環境下で生きていくことを強制されていたのかもしれない。


「でも、リスティーに拾われたのが一番の理由」

「リスティーがここに通って強くなれと言った」

「リスティーって、リスティー教官のこと?」


 エリーが聞くと、双子の姉妹は同時に首肯した。


「どういう関係なんだ?」

「通りすがりのリスティーを私たちが襲った」

「それで負けた」

「ボロボロに負けた」

「でも、同族のよしみだとそのまま拾われた」

「そして、学院の試験を受けることになった」


 交互に口を開き説明をする二人だが、あまりにも話が淡々とし過ぎていた。


「……教官を襲ったのが理由でこの学院に入ることになったの?」

「そう。食べ物にも困らないと言われた」

「信じられなかったけど、本当だった」


 淡々と質問に答え続ける二人に、エリーは複雑な表情を見せた。


「それに、ご主人様に会えた」

「だから、リスティーに感謝」


 二人は俺を見上げ、本当に僅かながら微笑してみせた。

 普段無表情な二人だからこそ、その僅かな表情の変化が大きなものに感じられる。


「言っておきますが、マルスさんの正妻の座は譲りませんよ」

「ご主人様は兎に興味ない」

「私たちがいるからそれで十分」


 睨み合う三人が、またいがみ合いを始めそうになる中。


「あまり、騒がないようにね」


 エリーは苦笑し、冷静に注意を促し。


「こうやってみんなで集まって話すなら、

 ちょっと騒いでも問題ない部屋があればいいんだけどね」


 そんなことを言った。


(みんなで集まれる部屋か……)


 時間や場所を気にせず騒げる環境があるというのは、確かにいいかもしれない。

 そうすれば、今よりももっと色々な交流を持てるようになる。


「そんな場所があっても、マルスがこいつらの相手で疲れるだけじゃねえか?」


 そんなエリーの言葉に否定的な意見を返すセイル。


「マルスさんとラフィの愛の巣は欲しいですね!」

「愛の巣……」

「欲しいかも」


 セイルの意見を無視し、三人は夢想するような幸せそうな表情を浮かべていた。

 だが、愛の巣はともかく。


「そういう場所があってもいいよな。

 友達みんなで自由に集まれるような――」


 俺は考える。

 例えば生徒会だ。

 アリシアたち生徒会のように、仲間が一つの部屋に集まれるような場所があれば――。


「……そうか。生徒会か」

「? 生徒会がどうかしたの?」


 俺の突然の呟きに、エリーは不思議そうな目を向けた。

 そんなエリーに俺は微笑んだ。

 その笑みは、一つのアイディアが思い浮かんだことへの喜びだ。

 みんなで集まれる場所が欲しいなら。


「なあみんな、委員会コミュニティを作らないか?」


 その為の場所を、みんなで作ってしまえばいい。

 そんな唐突な思いつきに、俺はみんなを誘うのだった。

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