表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
102/201

夜のコミュニケーション①

長くなってしまったので分割しています。


「じゃあ、座る」

「ベッドでいい?」


 俺に寄り添う双子の姉妹に聞かれると。


「待ちなさい。

 マルスさんの隣は譲りませんよ」


 ラフィが双子に反論するように口を開いた。


「……ここで話すのは確定なんだね」


 そんな三人の様子を見て、エリーだけが苦笑していると。


「エリシャさん! なぜ一人だけ余裕ぶってるんですか!

 自分だけがマルスさんの特別だとでも思ってるんですか!」

「――な、なんでそういう話になるの!

 みんなが友達だって、マルスに言われたばかりでしょ」


 何か言われる度に、エリーは頬を赤くして言い返している。

 そんなエリーに目を向けると、すぐさま目を逸らされてしまった。


「と、とにかく、あまり騒いでいても迷惑になるから、

 今日はもう帰ろう。ルーシィとルーフィもだよ」

「ご主人様、ルーシィたちがここに居るのは迷惑?」

「一緒にいるのはダメ?」


 ギュッと寄せられた身体は少し震えていた。

 ルーシィとルーフィの目は不安に染まり、気持ちが落ち込みを表現するみたいに長い耳が下がり気味になっていた。


「ダメではないが、流石に四人を泊めることはできないぞ?」


 ベッドは二つしかない。

 最悪、上下のベッドに二人ずつ寝てもらってもいいが。


「私たち、今日は傷心」

「ご主人様に慰めて欲しい」


 誰か頼れる者と一緒にいたいのかもしれない。


「慰めて欲しいなら、ラフィとエリシャさんで慰めてあげます!」

「遠慮する」

「マルスがいい」


 折角の申し出に対して二人は即答していた。


「ぐぬぬ~! あなた方は慰めて欲しいんじゃなくて、

 ただマルスさんと一緒にいたいだけじゃないですか!」

「「そうとも言う」」


 苛立たしそうなラフィとは正反対に、冷静に淡々と言葉を返す姉妹。

 そんな三人を見て。


「三人とも、いい加減にしなって!

 もう夜も更けてくる頃なんだよ。

 このままずっと騒いで、マルスに迷惑をかけてもいいの?」


 エリーにしては珍しくその語調を強めた。


「話すなら話すでもいいけど、もう寝てる人だっているかもしれないんだから、

 あまりうるさくしちゃダメだよ。

 自分勝手な人は、マルスにだって嫌われるよ」

「俺はみんなを嫌いになったり――」

「そうだよねマルス!」


 有無を言わさぬ物言いだった。

 そのエリーの視線は、自分の言葉を否定するなと言わんばかりだ。


「……そうだな。

 あまり他人に迷惑を掛けるのは良くはないと思うぞ」


 今はそう言っておくことにしよう。

 昔と違い今は隣室に住民がいるという環境なのだ。

 あまり騒ぎ過ぎては睡眠妨害になってしまうからな。


「むぅ……マルスさんがそうおっしゃるなら」

「仕方ないの」

「静かにする」


 俺の言葉にしゅんと気を落とす三人。

 すると――。


 ――コンコン。


 扉がノックされた。


「マルス、ちょっといいか?」


 セイルの声だ。


「ああ、入ってくれ」

「ちょっと話が……って、テメェーらのせいかっ!!」


 扉を開いて早々、部屋を見たセイルが激しい反応をした。


「テメェーなんて言葉を女性に向けるなんて、狼男は本当に品がありませんね」

「今忙しい」

「さっさと帰る」


 三人からの酷い言われように、思わず顔を歪めるセイル。


「どうしたんだ?」


 と、俺が尋ねると。


「隣りの部屋がうるせーってんで、オレのとこに苦情がきたんだ」


(なぜセイルのところに……?)


 だが、エリーの言っていた通り騒ぎ過ぎていたようだ。


「やっぱり……。

 マルス、ごめんね。私たちのせいで」


 エリーが申し訳なさそうに頭を下げた。


「ぅ……す、すみません。マルスさん」

「「……ごめんなさい」」


 そんなエリーの姿を見て、三人も気まずそうに顔を伏せた。


「……そもそも、なんでテメェーらがマルスの部屋にいんだよ」

「そんなこと言えない」

「狼男はエッチ」

「なっ――て、テメーら、くだらねえこと言ってねえでさっさと帰れ!」

「全く、狼男は欲求不満のようですね」

「ぐっ――テメェーら、マジで八つ裂きにするぞ!」

「……セイルまで一緒に騒いでどうするのさ」

「うぐっ……」


 エリーに言われ、セイルは言葉を呑んだ。

 耳が垂れているところをみると、反省しているのが伺える。


「とにかく、これ以上騒ぐなら帰るよ」


 銀の双眸がラフィ、ルーシィ、ルーフィと順番に向けられた。


「わ、わかりました」

「静かにする」

「迷惑は掛けない」


 三人も渋々といった様子だったが了承した。


「じゃあご主人様、座る」

「そう座る」


 俺は双子に促されベッドに座った。

 ルーシィとルーフィは小柄だが、流石に三人並んで座るとベッドは狭く、二人に身を寄せられる。

 そして、二人のルビーのように赤い瞳がじ~っと俺を凝視していた。


「俺の顔を見ていても面白くないだろ?」

「面白くはない」

「でも、ドキドキする」


(……ドキドキするのか?)


 二人の頬はほんの少しだけ熱っぽい。

 動悸がするということは、熱でもあるのだろうか?

 あまり体調が良くないようなら、帰って休むべきだと思うのだが。


 そんな心配をしていると。


「……マルスさん、失礼します」


 少し拗ねたようにムスっとしたラフィが、俺に一声掛けて腰を下ろした。


「なぁラフィ、なぜ俺の膝の上に座る?」

「双子がマルスさんの隣がいいと言うので、今後ラフィの定位置はここになりました」

「……そうか」


 まあ、他に座れそうな場所は椅子が二つくらいだから、致し方ないのかもしれないが

 それにしても、こうやって体重を預けられているというのにラフィは随分と軽いな。


「兎、重いからどく」

「ご主人様が潰れる」

「……好き勝手言ってくれますね……」

「いや、重くはないぞ。

 寧ろ軽くて驚いたくらいだ」

「マルスさん!」


 ラフィはキラキラと眩しいくらいの笑顔を俺に向けた。


「聞きましたか闇森人ダークエルフ

 ラフィは軽いそうですよ!」

「私たちの方が軽い」

「そう、間違いなく」

「それはそうでしょう。

 お二人は大変貧相なものをお持ちですから。

 ラフィは豊かなので肩が凝って困ります」


 そう言って、ラフィはなぜか胸を張った。

 すると双子の姉妹はラフィの胸部と自分の胸部を交互に見比べ、不服そうに眉を下げ。

「……そんなのただの贅肉」

「……いつか垂れる」


 不満そうに口にした。


「持たざる者の戯言だと思うと、痛くも痒くもないです」


 勝ち誇るようにさらに胸を張るラフィだった。

 エリーとセイルは立ったまま、こんなやり取りをしているラフィたちを見ていた。


「――ったく、オレはもう行くから、騒ぎ過ぎるんじゃねえぞ」

「なんだ? 行ってしまうのか?

 折角の機会なんだ、セイルも一緒に話さないか?」

「……オレも?」


 部屋を出ようとしたセイルを引きとめると、意外そうな顔で俺を見た。


「ああ、ダメか?」

「いや……ダメじゃねえが……」

「なら、そこの椅子にでも座ってくれよ。

 エリーも座ってくれ」

「うん、じゃあ私はその椅子に」


 そう言って、エリーは元自分の椅子に座った。

 続いてセイルも椅子に腰を下ろし。

 取りあえず、全員が腰を落ち着ける形になった。

宜しければ続けてもう一話、お楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ