表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
101/201

夜の闖入者たち

諸事情により更新速度が落ちておりますが、更新を停止するわけではありませんので、更新速度が戻るまでもう暫くお待ちいただけば幸いです。

* マルス視点 *




 女子宿舎にみんなを送り、俺とセイルは男子宿舎に戻ってきた。

 直ぐに浴場に向かい汗を流し食事を済ませた。

 部屋に戻った頃には、薄い月明かりが部屋を照らす時間に変わっていた。


 俺は部屋の明かりも付けないままベッドに寝転んだ。

 眠いわけではないが、そのまま目を瞑った。

 真っ暗闇の中、最初に考えたのは。


(……ルーシィとルーフィ、二人は大丈夫だろうか?)


 双子の姉妹のことだ。

 女子宿舎にはエリーやラフィもいるので、あれほどのトラブルが起こることはないと思うが。

 それでも少しだけ心配だった。

 こんなことを思うのは、二人が俺の友達になったからだろうか?


(……友達になれたんだよな?)



 友達でご主人様とか言っていたけど、一応は友達になれたって認識でいいはずだ。


 この学院に来て、少しずつ友達ができて。

 俺自身、友達ってどういうものなのかっていうのはまだわからないけど。

 それでも、みんなと一緒にいると楽しいという気持ちを感じているのは間違いなくて。 あのまま一人で生活していたら、こんな感情すら知らずに一生を終えていたのだろうか?

 だとしたら、それは寂しいことのように思えた。


(……この学院に来て良かった)


 本当にそう思える。

 だからこそ。


(……失くしたくない)


 俺は、友達を失くしたくない。

 近しい者が増える度に、その気持ちは強くなっていた。


(……どうしたら、失くさずにすむのだろう?)


 永遠になくならないものなんてない。

 それはわかってる。

 俺がこの世界で最強だと思っていた師匠アイネだって死んだ。

 人なんて簡単に死ぬのだ。

 それが戦いによる者であれば、俺の手が届く限り守ることはできる。

 でも、常に俺が友達みんなの傍にいるわけじゃない。


(……もしもの時、助け合える環境があるといいかもしれない)


 勿論、常に他人の力を頼るような甘い考えは持つべきでない。

 どんな状況でも最後に頼れるのは自分だけ。

 だが、それは自分の命を守る為の話だ。

 守る者が増えるほど、一人ではどうしようもない状況があるのは事実で。

 例えば今日、俺がルーフィ達を救助に行った時、エリシャ達がサポートしてくれたように。

 助け合える仲間がいるというのは心強い。

 この学院は実力主義を掲げてはいるが、仲間を持つなとか一人で戦えとかそういった条件は何一つ定めていないしな。

 要するに、数の暴力も実力だと認めているのだろう。

 余程実力に開きがなければ、大抵は数の暴力に屈する。


 実力主義のこの学院では、基本的に生徒間のトラブルに教官は手を出そうとはしない。 今日だってそうだ。

 ルーシィとルーフィが襲われた時。

 魔族だと疑いを掛けられた二人を助けようとした者はいなかった。

 いや、生徒会に所属するアリシアなら最低限の介入はしただろう。

 最低限の秩序の維持は、生徒会の活動の一環だと聞いている。


(……助け合える環境って意味じゃ、生徒会に所属するのは一つの選択肢かもしれない)


 生徒会は最低限の秩序を維持することも活動の一つだと言っていた。

 実力主義を定めるこの学院において、矛盾した存在のような気もするが、今回の闇森人(ダークエルフ)への襲撃を考えると、最低限の秩序というものは必要なのかもしれない。 何も秩序というのは、力だけで守られるものではないのだ。

 発言力があるということは、秩序を維持する上で重要なことのはずで。

 アリシアの言葉一つで、闇森人ダークエルフが魔族であるという偽りが流布されることはなくなった。

 それは、今の俺にはできないことだ。


(……俺が友達を守る為に出来る、もっとも効率的な方法はなんだろうか?)


 そんなことを考えていると――。


(……うん?)


 扉の向こうから気配を感じた。

 感じたというか、相手は隠すつもりもないようで。


「……で……く」

「わ……た」


 話し声が聞こえてくる。


(……誰だろうか?)


 俺はベッドから下りて、光球ライトを行使することで明かりを灯し。


「誰かいるんだろ? 入ってこいよ」


 先に声を掛けると、返事の代わりに扉が開かれた。


「ご主人様」

「来ちゃったの」


 部屋に入ってきたのは、ルーフィとルーシィの姉妹だった。


「……来ちゃったって、急にどうしたんだ?」

「ご主人様と一緒に寝る」

「添い寝する」


 そんなことを言って、二人は俺に抱き付いてくる。

 右と左から挟み込まれてしまった。


(……なんだか、前にラフィが忍び込んできた時のことを思い出すな)


「管理人や他の生徒に見られなかったのか?」

「夜なら闇がいっぱい」

「直ぐに隠れられる」


 なるほど。

 夜なら闇の魔術で自分達の姿を隠伏できると言いたいようだ。


(……この学院はもう、男女で宿舎を分けておく必要がないのではないだろうか?)


 ラフィの時もあっさり侵入されていたもんな。

 学院の方針としては、こういったことも含めて事態に対処を対処しろということなんだろうけど。


「ご主人様、寝る」

「そう、一緒に」


 そう言って、二人は俺の手を引いた。

 本当に俺と一緒に寝るつもりらしい。

 もしかしたら、女子宿舎むこうに居たくない理由があるのだろうか?


「向こうの宿舎では、何事もなかったか?」

「平気」

「問題ない」


 二人は首肯した。

 その様子からして特に問題はなかったようだ。

 だとしたら、本当に俺と一緒に寝る為だけに来たようだ。


「まだ眠くない?」

「なら、遊ぶ?」

「まあ、まだ眠くはないが……遊ぶといっても、何かしたいことはあるのか?」


 俺が聞くと。


「なら、ご主人様とお話する」

「ご主人様のこと、教えて」


 さらに身体を寄せ付けてくる二人に。


「取りあえず、座るか?」


 そう口にした時だった。

 バタバタバタバタバタ――と廊下から誰かが走ってくるような音が聞こえた。


「なんだ?」


 俺が疑問を口にすると、ルーシィとルーフィも首を傾げた。

 直後――バン! と突風に吹かれたように唐突に扉が開いた。


「ま、マルスさん、ご無事ですか!?」

「……ちょ、ちょっとラフィさん。ノックもなしに入っちゃダメだよ」


 金切り声と共に、血相変えてドタバタと部屋に突入してきたのはラフィだった。

 その隣には困り顔のエリーがいる。


「二人とも、どうした――」

「や、やっぱりここにいましたか!」


 甲高い声を上げるラフィ。

 その赤い双眸が直視していたのは、双子の闇森人ダークエルフだった。


「……兎がきた」

「……なんのよう?」


 淡々と口にするが、その表情は如何にも面倒だと物語っていた。


「何の用じゃありません!

 エリシャさんが、あなた方にマルスさんの部屋の場所を聞かれたと聞いてから、

 まさかとは思っていましたが、ラフィは抜け駆けなんて許しませんよ!」


 ラフィが耳を逆立てた。

 ブンブンと手を振っている様は、激しく抗議しているようだ。


「ら、ラフィさん、ちょっと落ちついて」

「エリシャさん! 向こうは二人なんです!

 だからこそ、こちらも共同戦線を張らなくては!」

「な、なんの話なの!?」


 そのまま服を掴まれ、エリーはゆさゆさと揺さぶられていた。


「ご主人様、二人は放っておく」

「そうする。一緒にお話する」

「ちょっ――さっきからマルスさんにベタベタと!

 そこはラフィの場所なのですよ!」


 くっ付く双子を引き話そうと奮闘するラフィ。

 だが、二人は絶対に離れようとせず。


「す、少し落ち着こうよ。

 マルスにも迷惑が掛かるだろうし」

「そんな弱腰でどうするんですか!

 エリシャさんは、二人にマルスさんを取られてもいいんですか!」

「と、とと取られるなんて、マルスは物じゃないんだから!」


 エリーまで、ラフィのペースに飲まれようとしていた。


「ご主人様は私たちのものじゃない」

「そう、私たちがご主人様のもの」


 反論するようにルーフィとルーシィが言葉を返した。


「なっ――!? ぐぬぬ、そういう路線で攻めてくるとは……!

 マルスさん! ラフィもマルスさんのものですから!」


 赤い双眸が俺を見つめられた。

 だが、みんなはどうにも勘違いしている。


「ラフィ、ルーフィ、ルーシィ」

「はい!」

「「なに?」」


 俺は三人に向けて。


「みんなは、別に俺のものじゃないぞ?」

「マルスさんは、ラフィのことがお嫌いですか?」

「……ルーシィはマルスのもの」

「……ルーフィもマルスのもの」


 三人は、それぞれ悲しそうに俺を見ていた。

 そもそも、なぜものなどと言うのか俺にはわからない。


「ここにいるみんなは、俺の友達だ。

 勿論、エリーも。

 だから、ものなんかじゃない」


 エリーに顔を向けると、彼女も優しく笑みを返してくれた。

 そして俺のものだと主張する三人は。


「ま、マルスさん、ラフィたちが言っているのはそういうことじゃなくて」

「ラフィさん、今はいいじゃない。

 マルスは私たちのこと、大切に思ってくれてるよ」


 不満を口にするラフィにエリーが言った。


「ご主人様は、私たちのこと大切?」

「ずっと大切?」


 俺に尋ねたルーシィとルーフィは、どこか不安そうだった。

 だが、その質問に対する答えは決まっている。


「ああ、勿論だ。

 お前らに何かあったら、必ず俺が助ける」


 そう俺がはっきりと伝えると。


「……うん。

 ルーシィも何かあったらご主人様を守る」

「……うん。ルーフィも絶対守る」


 二人は今までに見たことがないような、満面の笑みを俺に向けたのだった。


「でも、やっぱり私たちはご主人様のもの」

「そう、だから一緒に寝る」

「それはラフィが許しません! マルスさん、夜這いするならラフィにしてください!」

「よ、よばっ!? な、何を言ってるんだよラフィさんは!

 周りの迷惑にもなるから、少し落ちついてよ」


 そろそろ夜も更ける頃なのに、今日は全く眠くならなくて。


「……とりあえず、話すなら座らないか?」


 全く終わらなそうなちょっとした騒動の中、俺は今更そんな提案をするのだった。

次もラブコメ回です。

進行遅くてすみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ