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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
10/201

ユーピテル学院の宿舎⑤ エリシアの隠し事

15 8/24 サブタイトルを変更しました。

* マルス視点 *




(いやぁ……かなりでかい浴場だったなぁ……)


 ここにいる生徒が全員利用しているだけのことはある。

 数十人はまとめて利用できるほど浴場は広かった。



 ここに来てから、俺は驚いてばかりだ。

 食事はうまいし、学院は城みたいだし、龍とも戦うことになるし、何よりいきなり友達ができてしまった。


(エリシア、どうしてるかな?)


 そんなことを思いながら部屋に戻ると、室内にはエリシアの姿はなかった。

 すれ違いで風呂に向かったのだろうか?


(……まぁ、そのうち戻ってくるか)


 俺は、ベッドに寝転がった。

 すると案の定、直ぐに眠気は襲ってきて。

 これは、エリシアが戻るまでもちそうにない。


 俺は襲い掛かる欲求を受け入れ、深い眠りに落ちていく。




        *




 ガチャ――。


(……うん?)


 ガサガサ――。


 扉の取っ手が回る音と、何かをまさぐるような音で、意識が呼び起こされた。

 エリシアが戻ってきたのだろうか?


 辺りは薄暗い。

 蝋燭の明かりはいつ落とされたのだろうか? 


 身体を起こし、ベッドの上から視線を下に向けると、風呂から戻ってきたばかりなのか着替え中のエリシアがいた。

 背を向けているが上半身は何も身につけていないようだ。

 纏めていた髪を解いているので身体を動かす度に、濡れた銀色の髪がサラサラ揺れる。

 カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされた美しい髪は、まるで宝石のようにキラキラと煌いているように見えた。


「エリシア」


 ベッドの上から声を掛けると、


「っ――ま、マルス!?」


 ビクッと身体がはねたかと思えば、声まで上擦らせていた。

 驚かせてしまっただろうか?


「もう寝てるのかと思ってた……」

「ちょうど今目が覚めた」

「ごめん。……起こしちゃったかな?」


 顔をこちらに向けず、エリシアは後ろ向きのまま話している。

 着替え中だった手も止めて、一切身動きを取らない。

 まるで、極寒の地で身体が氷漬けになってしまい動けなくなってしまったみたいにピクりともしないのだ。


「いや、エリシアが戻ってきたら起きようと思ってたし、丁度良かった」

「そ、そう。でも……マルス疲れてるんじゃない? 今日はこのまま寝ちゃった方がいいよ。ボクも、着替えたら直ぐに寝るからさ」


 確かに少しばかり疲れている。

 何より、このベッドが心地良すぎるのだ。

 以前俺が使っていたベッドなんて、固過ぎて身体が痛くなるくらいだったからな。

 そもそも雨風さえ凌げればなんでも良かったのだ。


「……なら、今日はこのまま寝ちまうかな」

「明日は転入初日だしね」

「そうだな……」


 起こした身体を、ベッドにうずめる。

 フワッとした感触が俺の身体を包んだ。


「おやすみ、マルス……」


 おやすみと言われるのは、随分久しぶりだ。

 寝る時に、誰かと一緒にいるのも、随分久しぶりだ。

 共同生活も、随分久しぶりだった。

 師匠アイネが死んでから、ずっと一人で生活していた。

 一人でいることには随分慣れていたけど、寝る前にこうやって声を掛けてくれる人がいるというのは、決して悪くない。


「おやすみ、エリシア」


 久しぶりに感じた不思議な感情を抱きながら、俺は再び眠りに落ちるのだった。




* エリシア視点 *



 ドクドクと、胸の鼓動が強く鳴っていた。

 動揺を見せないようにしたつもりだけど、内心冷や汗をかいてしまった。

 眠ったのは確認していた。

 大きな物音も立てていない。

 なのにマルスはボクが戻ってきたのに気付いた。

 気配や物音に、敏感なのだろうか……?


 そんなことを思いながら、着替えを済ませていく。


(み……見られてないよね……)


 着替えながら、ボクは状況の確認をしていた。

 室内は暗い上に、見られていたとしても背中だけだ。

 髪を解いていたの、肌はほとんど見えてはいないだろう。


(部屋に入って直ぐ、明かりを消しておいて良かった……)


 今回ばかりは、自分の用意周到さを褒めてやりたい。


(ボクの秘密は、知られるわけにはいないもん……)


 着替えを終えて、ベッドに入る。


(念の為、明日は早く起きよう……)


 全身を覆うようにタオルケットを掛けた。

 そしてゆっくりと気持ちを落ち着けて、ボクは意識を沈めていった。

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