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それもひとつの愛なんです2

「あ、いや。そう考える人もいるかなぁって! ですよね、セレーンさん」


失言に気づいて慌てて発言を撤回。

今日始めて会った人にフォローを強要するとか我ながら無謀すぎる。と思ったけれど、たおやかな美人はくすくすと笑っていて、つまり許してくれている気配を漂わせていた。


「殿下のおっしゃりようも、歪んだ愛情表現なんですね。この配下の方を、信頼しておられる」

微笑んでそんなこと言われてしまうと、今度はウェラディアのほうが固まってしまった。


「あ、や……だってその、自分の部下だから、当然じゃないですか!」

真っ赤になって叫んでしまう。

ちょっと大人げなかったかも知れないけれど、セレーンはやっぱりくすくすと笑っているだけ。

ロードナイトはといえば、はぁ、とあからさまなため息をついて、客人に向き直り、


「……そういうことにしておきます。では、服のほうは手配しておきますので」

「はい。楽しみにしておきますね」

セレーンの涼しげな美貌がやわらかく綻んぶと、ウェラディアの心もほんのり暖かくなって、満面の笑みを返して部屋を出て行った。


『異国の客が訪れる』――その文章は見方によっては王家に仇なす予告文ととれなくもない。

だからウェラディアは、ロードナイトたちには手紙に興味がある素振りだけ見せていたけれど、本当は少しばかり、現実の危険の可能性も考えていた。


「それがまさか、こんな素敵なお客さまが来るなんて……ね」

「素敵……かどうかはまだ判断するのが早いんじゃないですか。あんな警戒心も露わな男なんて」


「警戒の程度なら、ロードナイトだっていつもあんなものじゃない。要はそうせざるを得ない環境で育った人と言うことでしょう」

廊下を歩きながら、くるりとダンスでヒールターンをするように踵で回ってロードナイトを振り向こうとした途端、足下にスカートとペチコートが妙に絡んだ。


まずい。

と思った瞬間にはなすすべもなく、体が傾く。


「わわっ」

「殿下……お願いですから、ドレスを身につけていらっしゃるときは、もう少しおしとやかにしていただけませんか」

すばやく抱きとめてくれたのはうれしい。

うれしいけど、はぁとわざとらしいため息をつかれるのは内心、心穏やかでいられない。


「何よ、そんないかにもいやそうな顔して……可愛い女の子に触れて役得だとか言ってみたらどうなのよっ」


そう、いまはデュライじゃない。

このところ男装姿がすっかりと板についてしまい、つい身軽な動きをしてしまったけれど、たとえドレス姿で足下が心許なくなるようでも、ウェラディアは王女なのだ。

しかも年頃の。


手を差し出せば誰だって喜んでとらざるを得ないし、転びそうなところを助けるのだって喜んでやってくれる貴族の青年がいくらでもいるに違いない。

もちろん、王女だからに過ぎないにしたって。


あるいはカルセドニーやユーレガーだったら、わざわざこんなことをいわなくても歯の浮くような台詞で、ウェラディアの失敗をなかったことにしてくれるだろう。


そんな考えが顔に透けていたのだろうか。

顔を真っ赤にして上目遣いに睨んでいると、ロードナイトがふっと満面にとびきりのやさしげな笑顔を浮かべた。


「え……」

「もちろん、殿下の手を取らせていただくばかりか、抱きとめさせていただくなんて光栄の至りです。毎日よろけていただいても役得なくらいですよ」


そういって真っ赤に固まったウェラディアの手を取って、甲に口付けを落とす。

瞬間、ウェラディアは手袋をしてないのを後悔した。


生々しい唇の柔らかさに、ざっ、と肌が粟立った。まるで全身でロードナイトの唇の感触を感じとったかのように、肌が鋭敏に感覚を開かれる。

ロードナイトの滅多に見ない笑顔――咲きほころぶ月下美人のような微笑みにも頭の奧が蕩けるように痺れてままならない。

くらり、と眩暈がして、今度は足元が危うくもないのに、体が崩れそうになっていた。


「……っだ、からっ」

「おっと、どうかなさいました、殿下?」

含んだ声音に、頭のどこかが冷静に反論する。

わざとだ。絶対、わざとだ、コレ。

もう一度、ロードナイトの袖に必死に縋りついて、憤りに震える。

なのに、腕の中にぽすんと抱かれて、頭の上でくすくすと笑われた瞬間、何故か怒りが掻き消えてしまった。


からかわれたはずなのに――。

何故、こんないい気分にさせられてしまうの。


そう思って考えを巡らせようとしたところで、


「まるでドレスを久しぶりに着たかのようですよ、ウェラディア王女殿下」

ロードナイトの囁きに背筋に冷水を浴びせかけられたように、ひやりと醒めた。


ドレスを久しぶりに着たかのよう――。

とは、まるでさっきまでデュライとなって男装姿でいたことを揶揄している言葉に聞こえる。


「な、なにを言ってるんだか、わからないんだけど、ロードナイト……」

「そうですか? 殿下も人目につかないところでは、セレーン嬢のようにトラウザーズ姿で身動きされているのかと思っただけなのですが……違いましたか」

体が自立して足っているのを確かめるようにそっと手を離される。

顔の直ぐ上でくすくす笑うのと息遣いが近いのとで、恥ずかしくて顔があげられない。


「そんなわけないじゃない! ただちょっとペチコートが足に纏わりついただけなんだからっ」

「じゃあ、やっぱり足下がみそっかすなんですねぇ……」

くすくす笑われて、歩き出されてしまう。

なんだかやりこめられてしまったようで口惜しい。口惜しいのに――。

まるでデュライにするみたいに感じたのは、気のせいじゃないわよね?

それはちょっとうれしい。

まるで王女ウェラディアに心を開いてくれようで。


「ちょっと、ロードナイト。待ちなさいよ!」

「はいはい。私がすたすた歩いてしまったら、また殿下の足元が危うくなりますからね」

「なんですって!?」

怒りが滲んだ声で睨み返してやったのに、立ち止まって振り向いて待つロードナイトが、あまりにもやわらかく微笑んでいるから、また顔に熱が集まってしまった。


なんなのよ、もう。

自分で自分がどうすることもできないままならなさを誤魔化すように、八つ当たりめいた叫びを突きつける。


「~~そうよっ。ロードナイトはわたしが転ばないようにちゃんと配慮してくれなきゃだめでしょう?」


私の騎士なんだから。

さぁ、手を取りなさいとばかりに手を差し出せば、くすりと笑われて、紳士的に手を取られた。


「もちろん、そうでしょうね」

わかっている。ウェラディアは押さえきれない顔の熱を自覚しながら、手を引かれるに任せた。


ロードナイトにしてみれば、故郷にいるという妹にしている感覚なのかもしれない。

けれども、ウェラディアのほうはどんなに偉そうに言ってみたところで、こんなふうに他人と手を繋いで歩くのは滅多にないことなのだ。しかもこんな微笑みだけで人の心を籠絡してしまうような青年となんて。


顔がにやけないわけがない。

いつもは歩くのが嫌になる城の廊下の長さが、今は少しだけうれしかった。

 

更新できたー。

わ、更新二回目は無理そうと思って

消したと思ったのに残ってた…

次の更新は明日で。

多分、土日は更新できるかと。

21-22時くらいの予定です。

短い話が苦手なので、無駄に長くなってます…(´∀`;)

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