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マナハルトの魔女

「黒い魔女か……。俺は魔女というと、白い服のイメージだったんだが……」


「白ぉ? それはまた珍しいというかなんというか……なんでだ? ロードナイトが生まれ育った地域には、白い魔女のお伽噺でもあったのか?」


「そう、だな……――」

そういって黙りこんでしまうから、ウェラディアもといデュライはその横顔をじっと見つめるしかない。


ロードナイトの白金色の髪。勿忘草色の瞳。

薄い色彩はマナハルトの北方に住む人々に多い。

ウェラディアはまだ行ったことがないけれど、雪が降る地方になら、白い魔女の話があっても不思議はないような気がする。そう思って問いかけたのに、ロードナイトからは困ったような戸惑い混じりの曖昧な笑みを返された。

どこかしら白い霧にとけてしまいそうな儚さと苦さが入り混じったような笑みにも見える。


な、に?

ウェラディアは自分がなにか変なことを言ってしまったのかと思って、思わずロードナイトの勿忘草色の瞳をじっと見つめてしまった。


蒼穹の瞳で穴が空くほど見つめる先で、うすい青紫色の瞳が、何か言葉にならない言葉を呟くように瞬きする。

ウェラディアが理解できない言葉は、露をはらんだ白金色の髪が揺れるのと同じぐらい儚い美しさを帯びて見える。


そのとき、頭上からボォーッと低い笛のような音が川縁に響いた。

ウェラディアがはっと我に返ると、渡線橋をしまいこんだ真っ白な船が、どうやっているのだろうか――音もなくゆっくりと岸を離れていく。


「船が……帰っていくな」

「うん……」

カルセドニーの呟きに、ウェラディアは端的な言葉を返すことしかできなかった。

祭りが終わり、お客さまが帰ってしまう。

ぽっかりと心のどこかに隙間ができたようなもの悲しさをカルセドニーも感じているに違いない。


そんな沈黙が、桟橋の上にひととき流れる。

ロードナイトがかすかに動いて、デュライの肩から少しずれたケープをほとんど無意識の癖のように片手に直し、また川下に視線をじっと凝らして呟く。


「霧の白が……また濃くなってきたみたいだな」

薄暗闇に遠離っていく霧そのものでできているかのような船。

その巨大な白を、まるで覆い隠すかのように白い霧が渦巻いているのが目に入る。


「本当に、白い……魔法みたいだ」


白い魔女。

白い魔法。

ロードナイトの口から零れる言葉が、まるで物語で読む魔法の呪文の欠片のようにも聞こえる。


魔法という言葉をロードナイトの声で聞かされるたびに、なにかいい知れない――切ない感情が沸き起こって仕方ない。


どうしてなのだろう。

ウェラディアは思わず胸が締めつけられるような息苦しさを覚えて、霧が細かい水滴となってついているロードナイトの前髪に手を伸ばした。

濡れた髪のあいまから見える瞳は、ひどく真摯な想いを訴えているようにも見える。


「白い魔法なんて、子ども向けのお伽噺には、確かに出てきそうだな」

「お伽噺か……そうだな。きっとお伽噺みたいなものなんだろう。本当の話ではなくて、子どもに聞かせるような空想物語のような話。ただ、俺が知っているのは――生まれ育った地域の話というわけではなくて……マナハルトの、だ。マナハルトのお伽噺」


「マナハルト、の……お伽噺?」

どきん、と心臓が大きく跳ねた。

ウェラディアの知らない話を、ロードナイトがしようとしている。

そんなときウェラディアがいつも、どこかしら魔法めいた気配を感じてしまう。


どこか畏ろしいような、それでいて心惹かれずにいられないような――。


ふっと、遠くを見つめるような玲瓏とした月明かりのような横顔を、じっと見つめずにはいられない。


「そう、この国に古くからある話……。マナハルトにもかつて、近隣にマナハルトの白き魔女と畏れられた人がいたんだ……遠い遠い昔の――いまはとなっては知る人さえほとんどいないお伽噺のような伝説だが」


「遠い昔の伝説……」

「だから魔女というと、白いイメージですね」

「マナハルトの白き魔女……マナハルトの魔女かぁ……」

呟いてみると、その魔法めいた響きは、確かに黒い服の魔女よりマナハルトという国に相応しい気がしてくる。


それとも、いま目の前に広がる光景が霧に覆われているせいだろうか。

真っ白い霧に沈む王都のどこかから、白を纏う魔女がいまにも現れそうな錯覚さえ覚えてしまう。


そこまで考えて、ふっと何かが頭をかすめた。


白い魔女の伝説。

黒が漆黒の騎士の色ならば、白は――。

 

誤字をみつつ、続きを22時に上げますー

最後まで書きあがったので順次上げですー

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