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たんぺん!  作者:
1/7

小さな幸福時間

カタカタと聞こえる、キーボードを叩く音。

その音が、僕は好きだった。


一度止まったかと思えば、すぐにまた音がなり、小さく唸る声が一緒に聞こえてくる。

途中でまた止まって、ズズズ、コーヒーを飲む音。

それからまたキーボードの音がなって、また唸っての繰り返し。


それ以外の音は聞こえてこない。

白塗りの壁に掛けられた淡い色のカレンダーが、風によってハタハタと動いて。

それを見上げた視線が、僕に映る。


「……おかわり」


たった一言、そう呟いてまたすぐに視線をそらした。

僕は立ち上がり、カップを机から離して片手に持った木製の御盆に載せる。

キッチンのパヌトンを持ち上げ、カップにコーヒーを注いで。


カタカタ、カタカタ。

叩く音が徐々にスピードを増し、少しばかり距離のあるキッチンからでも聞こえてくる。

僕が新しく淹れたコーヒーを持ってくる頃には、キーボードを叩く手はだらりとたれていた。


「………終わった」

「お疲れ様です」


たった一言。僕らに必要以上の会話はいらない。

相手が元から無口というのもあるが、僕はそんなところが好きだから。

自分も、無口になってしまう。

その声が聞きたいから。その小さな声を聞き逃さないように。

僕は淹れたてのコーヒーを、机の上に置いて。

それをその小さな口に、少しづつ流し込む姿。

細い指さきが、やけどをしないようにと、少し震えながらコップを包み込んでいる。

こくり。熱々のコーヒーが喉をとおる音がして。


「……美味しい」

「…それはよかった」


僕らに必要以上の言葉はいらない。

このひそかな時間こそが、僕らの幸福な時間なのだから。




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