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宝物庫に眠る伝説の幼女

「こちらが、我が国の宝物庫でございます」


 鍵守かぎもりと呼ばれる老人の声を聞き、重厚そうなその扉の前でおれたちは立ち止まった。


 内心けっこうワクワクしながらも、おれは一応高校生としての体裁を保てるよう努めて冷静に、その扉が開かれる様子を見ていた。



 謎のゴミ拾い集会のあと、宰相がこの国の宝物庫から気に入ったものを持って行っていいと言ってくれた。


 なんでも、おれも女神の力による勇者召喚によって召喚された、一応は勇者らしいので、勇者を招いた側としては一応形だけでもそれに見合ったものを持っていて欲しいということらしい。


 持って行っていいというか、おれのことを明らかに戦力としてカウントしたうえでの申し出であるのは明らかで、そのことを相手も隠そうともしていない。


 ただの高校生が任されるにはちょっと荷が重い話である。


 いやまあ、仕方ないのはおれにもわかるんだけどね。満を持して投入した勇者連中が軒並み行方不明じゃ。


 わかるよ? わかるけどさ。


 おれは扉が重い音を立てて開いていくのを見ながら、なんとなく制服の上からへその辺りをさすった。

 さっきから、なんとなく腹の調子が良くない。



 さて、宝物庫扉の取っ手部分には種類の違う三つの南京錠がかかっていて、それぞれの鍵を国王、宰相、そしてこの鍵守の爺さんの三人が管理しているらしい。


 生体認証魔法によりそれぞれの鍵は持ち主と定められた者以外には触ることもできず、しかもどうにかして鍵を三つ揃えたとしても、それらはまったく同時に解錠しないと扉に仕掛けられた魔法による警報が城中に鳴り響き、瞬く間に衛兵が駆けつける仕組みなのだそうな。


 確かにすごく厳重に管理されてるなとは思うんだけども。


 しかしこれ、鍵のかかった扉を問答無用で開けられる魔法とかあったら意味ないんじゃないの? よくあるよね、そういう魔法。


 なんとなく気になったので、歩いている途中で後ろを歩いていたアレクに聞いてみたら、アレクは答えづらそうにそっと目をそらした。


 ダメじゃねえか。



 扉が完全に開かれる。


 部屋の中には、ほのかなカビの匂いが漂っていた。様々な種類の装飾品や武器、防具などが整然と並べられている光景に、思わず身が震える。


 すごい。まじで。まさにファンタジー。


 おれが声もなく感動に打ち震えていると、宰相の人がおもむろに口を開いた。


「ミチル殿。ここにあるのは、それぞれが固有の伝承や由来を持つ紛れも無い伝説級の宝具ばかりでございます。それらの多くは自ら使い手を選別しますので、たとえ女神に選ばれし勇者といえども、宝具自身に認められなければこの場から持ち出すことは叶わないでしょう。それをあらかじめご了承ください」


「わかりました」


 使い手を選ぶ伝説の武器。まさに王道的だ。


 一応は勇者として召喚されているらしいし、もし万が一このなかのどれかに選ばれたりしたときには。


 おれの! 伝説が! ここからはじまる! かも知れない!


 宰相の後について鼻息荒くおれが部屋を進んでいくと、何故かアレクとローシィまでが一緒になってぞろぞろついてくる。


 いやいや。いやいやいやいや。


「なんで二人までついてくるんだよ」


「別に見てるだけにゃんだから気にしないでいいにゃ。ミチルはゆっくり選んでていいにゃん」


 それだけ言って、ローシィはさっさと先に進んでいってしまう。


 そんな彼女を見ながら、アレクは少し困ったように眉尻を下げて言った。


「すまない。ローシィがどうしても見たいといって聞かなくてね。場所は知られてしまったから、駄目だといっても勝手に扉を破って入ってしまうだろうし、それなら僕が見ているときのほうがまだいいかなと思って」


 僕達のことは気にしないで、君は自分に必要だと思うものをしっかりと見極めてくれ。


 そういって、アレクもローシィの後について行ってしまう。


 いいのかよ。今入って行ったうちの片方、どこかの国で悪名高い伝説の盗賊王だぞ。


 まあね。いいんですけどね? おれの武器選びとか二人とはなにも関係ないし? まあでもちょっとは空気も呼んで欲しかったかなー。別にいいんですけどねー。


 気を取り直して部屋の中に目を向けると、さっそくひとつの黒い腕輪に目が留まった。特別な装飾もない腕輪なのに、なぜだか不思議と惹きつけられる。


「あの、これってなんだかわかりますか?」


 近くにいた宰相に聞くと、宰相は少しお待ち下さいといって手に持っていた分厚い本を調べ始めた。


 それを待つあいだに、腕輪を手にとってみる。近くで見ると表面に複雑な模様が彫られていたそれは、持ち上げると手の中で小さく震えだした。頭のなかで、鈴の音に似た音が聞こえる。


 少しして、宰相はあるところでページをめくっていた手を止めると、腕輪の説明を始めた。


「それは月の精霊アルテミスの宿った月光の腕輪ですな。一見するとただの腕輪のようですが、この国の礎を築いたかつての七英雄の一人ジークムントが、第一次人魔大戦の折に魔神王討伐のために精霊の庭から譲り受けたといわれる紛れも無い神造品です。非常に強力な精霊ですが、その英雄が亡くなってから、もう三百年以上も新しい使い手を選んでおりません」


 とにかく、それはもう凄いものらしい。


『――汝の、真名を答えよ』


 女性の艶やかな声が、頭のなかに反響した。


 え? これいきなり来たんじゃないの? 選ばれたんじゃないの!?


わらわは月と夜を司る尊き精霊アルテミス。資格持つ者。身の丈に合わぬ宿命を負いし異界の子よ。我が力を求めるのならば、汝の真名を答えよ』


 おいおい月の精霊ってことはもうこれ完全に闇属性じゃん。みんなから漆黒のダークなんちゃらとかって異名で呼ばれるの決定じゃん。困るわー。中学の頃ならともかく、だっておれもう高校生だよ? そんな闇属性とか漆黒とか黒騎士とか勇者なのに闇を背負ってるぜとかそんなのいまさらぜんぜん興奮しないですわ。


「うわっ。ミチルが急にニヤニヤし始めたにゃ。気持ち悪いにゃ」


 近くにいたローシィが一歩引いた。


 ふん。まあ言いたい奴には好きに言わせておけばいいさ。そこで指をくわえてみているがいい。このおれがっ、闇を背負いし漆黒の勇者ダークレイブン(仮)になる瞬間をなあっ!!


 おれの伝説は、ここから始まるんだ!


「おれの名はっ――」


「ミチル? なにか見つけたのかい?」


 ひょこっと。アレクが横から顔をのぞかせた。


 瞬間、おれの手の中にあったはずの尊き精霊様の宿る腕輪は持っているのも困難なほどに激しく震えだし、


 いきなりぶっ飛んで行って、


 ガシィンとアレクの左腕に装着された。


「何でだよっ!!!」


「え? 契約? うーん、でも僕にはもう王から賜った聖剣があるから、今は特に必要ないかな」


 そしてアレクはそれを躊躇なく外して元の場所に置いた。


「何でだよっっ!!!?」


 そしてアレクはそのままほかの展示物を見に行ってしまう。


 後にはおれと腕輪、そして重い沈黙だけが残された。


 目の前で腕輪がまたカタカタと小さく震え始める。


『――わ、妾は月と夜を司る尊き精霊アルテミス。資格持つものよ。やはり汝こそ我が担い手にはふさわ』


「白々しいわあああああっっ!!!!!」


「ミ、ミチル殿ォッ!?」


 腕輪はおもいっきり遠くの方にぶん投げると、金銀財宝の山の中へと消えていった。

 宰相の人が慌てて走っていったがしばらくは見つかるまい。これでもうあれを見ることはないだろう。


 さて、次探そう次々。出会いは一つじゃないはずさー。




 ――などと。考えていたのだが。


 その後もおれがなにかを見つけるたびに、たまたま近くを通りかかったアレクのほうに武器がひとりでにぶっ飛んで行き、別にいらないからと即座に元の場所に戻され、それをおれが拾って全力でぶん投げる、ということが何度も繰り返された。


「なんでじゃああああっ!!」


「そうだ! 僕が部屋から出ておけば、そしたら――」


「そしたら今度はミチルが部屋からでた瞬間に勇者サンのほうにぶっ飛んでいくに決まってるにゃ」


「やってられるかああああ!!」


 どいつもこいつも一瞬だけ色目使いやがって!! そのたびに期待させられるこっちの身にもなれよ! やめてよ! 結局捨てるんなら初めから相手にしなければいいじゃない!! 


「ああもうやる気なくなったー! 別に中古の武器とか初めから欲しくなかったしいいんですけどねー!」


 ちょうどいい感じの位置にぼろい椅子があったのでどっかりと腰掛ける。


「ホントに負け惜しみいうやつ初めて見たにゃ」


 ち、違うよ? 負け惜しみとかじゃないから。ほんとに興味なかったから。最初から

「まあ貰ってやってもいいかな?」くらいのつもりだったから。


「あれ? おかしいな。そんなところに椅子なんてなかったはずだけど……」


 おれの方を見ながらアレクが不思議そうに声を上げた。


 いやあるから座ってるんだよ。ていうかそうじゃんお前のせいなんだよあっちいけ。


「……ミチル、危険なものかもしれないから――」


 背もたれに体重をあずけて仰向けのまま椅子を前後にぎっこんばったん揺すっていると、急に電気が流れたように、ひざ上のあたりがピリッとした。


「ん? 今なんか――」

「――椅子から離れたほうが」


 アレクがなにか喋ってるのを聞きながら顔を足の方に向けてみると、膝の上になんかいた。


 なんかっていうか、子供がいつのまにか膝の上に座っていた。というか顔のすぐ下に頭があるし、体重を預けられていい感じに背もたれに使われていた。


 いや完全にホラーである。


「ぎゃああああああああっ!」


「ミチルっ!? 大丈夫かっ!?」


「ちょっ、ちょっとアレクっ、アレクさんちょっとこれ何とかして!!」


 膝に乗られてるから逃げようにも逃げられない。ていうか必殺の間合いだこれ。やばい。


「……? 膝の上には、何もいないけど?」


「えっ?」


 いるよ? 今も普通に座られてるよ? 助けて?


 おれが何も言えずに固まっていると、膝の上の子供がもぞもぞと動き出して、こちらを向いた。


 幼女だった。金髪幼女だった。


 幼女は眠たげにほとんど閉じられた青い瞳を小さな手でぐしぐしと何度かこすった後、それでもまだ半分くらいしか開いていない目で、おれを見ていった。


「……おはよう」


 ……お、おはようございます。



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