「おまえは星ではなく『世界の守護者』なんだ」
先に攻撃を仕掛けたのはレヴェリスだ。間合いに突入したウィルに剣を振るう。水平薙ぎをウィルは危なげなく受けとめた。反撃には転じない。再び振り下ろされた光の剣を足捌きで避け、地面を抉った剣の峰を踏みつける。
その隙に、リサは背後からレヴェリスに躍り掛かる。
レヴェリスの背に、上段からの一閃を浴びせる。しかし、レヴェリスは剣を消してウィルの拘束を解き、背後の斬撃を避けた。
レヴェリスはリサの頸に手を打ち込もうと、振り返り様に左の手を予備動作で引く。その腕に、ウィルの腕が絡められた。
レヴェリスの動きがとまる――かに思われたが、左腕をさらに引き、ウィルの顔に肘を打ち込んだ。
「ってぇ……っ!」
リサは手首を返し、レヴェリスの首筋目掛けて剣を振り上げる。だが驚くことに、レヴェリスは右手の甲を刀身に打ちつけて軌道を逸らし、流れるような動きで刀身を潜り抜ける。そして、背後の男の顔にもう一度右肘を打ち込んだ。
顔面を殴られたウィルが地面に倒れる。
「ウィ……っ!」
レヴェリスの反撃はまだ終わらなかった。名を叫ぼうと口を開いたリサの下顎に左の拳が打ち込まれる。
舌に激痛が走り、口内に鉄の味が広がった。怯んだリサが背後に倒れると、レヴェリスは乱暴な手つきで胸座を取り、馬乗りになる。
「確か、貴様は長靴にナイフを隠していたな?」
リサは血を吐き出し、馬乗りになったレヴェリスの胸座をつかむ。
「妹に殺される気分はどうだ?」
首筋に冷たい刃が宛がわれた。
「――そんなに悪くない気分だ……。私も、おまえを殺そうとしていたんだからな、ソフィア」
見慣れた妹の顔に、見慣れない表情が浮かんだ。
「この身体に免じて、一思いに殺してやろう」
「……頼む」
レヴェリスがナイフを振り上げる。
と、ウィルがその腕に手を掛けた。
「そいつを殺すなら、まずは俺に了承を取りやがれ」
頬の骨が陥没してもおかしくはない打撃を受けたというのに、ウィルの顔には痣ひとつなかった。上空の者たちは、早速禁を犯したようだ。
「貴様……っ!」
リサの身体も温かな風が包まれ、舌の傷口が塞がった。
レヴェリスがリサの胸座を解放し、ゆっくりと上体を起こす。同じく胸座をつかんでいたリサは、手を離さぬまま立ち上がった。もう一方の手で、レヴェリスの腕をつかむ。
「――おまえがどうして『世界の守護者』になったか判るか?」
リサは静かに問うた。すると、目の前の守護者は鼻で笑って見せる。
「愚問。三の竜の中で、我が最も力を持っていただけのことだ」
「そういうことじゃねぇよ」
ウィルが呆れた様子で否定の言葉を口にすると、レヴェリスは眉をひそめた。いかにも目が不愉快だと訴えている。
「おまえは星を――アストルムを守るって言っているが、だったらどうして星の守護者と呼ばれなかった?」
今度はリサを睨む。
「我にすれば、世界と星は同一のものである。それを守るため、アストルムより永久の命を授かったのだ」
唸るような返答に、ウィルはこれ見よがしに長い溜息を着いて見せた。レヴェリスを逆上させても面倒だというのに、彼は態度を改めようとしない。
「リオンもザインも人類の守護に関わってるってのに、おまえだけ星の守護か? おまえも人類に関わってると考えるのが妥当だ」
「……何を申したい?」
短く息を吐き出し、まっすぐにレヴェリスの瞳を見据えた。
「アストルムが頼んだのは、星の守護じゃない。人類が住まう世界を守れと頼んだんだ。だから、おまえは星ではなく『世界の守護者』なんだ。それなのに、おまえはアスクルの住む小さな世界を――アークを滅ぼそうとしている」
錯覚かと思うほどの一瞬間だけ、レヴェリスが目を見開いた。しかし、レヴェリスはすぐさま眉間に深い皺を刻む。
「くだらぬ詭弁だ……! 言ったはずだろう? 堕ちたカンヘルごときがアストルムの名を口にするなと!」
レヴェリスは激情に突き動かされつつも、冷静に二人の腕を振り解いた。ウィルの首筋をつかみ、膝で鳩尾を蹴り上げる。その後、一連の動きで、リサもろともウィルを突き飛ばした。
地面に倒れた二人が起き上る。
「アークも世界だというなれば、我はより大きな世界である星を選ぶまでだ!」
光の剣を出現させたレヴェリスが躍り出る。それをウィルが受けとめ、竪穴に金属音が響きた。
「貴様らを屠った後に、上の者たちも滅してやろうぞ!」
レヴェリスの激しい斬撃をウィルは受けとめる他にない。そこにリサが斬り掛かるが、レヴェリスは彼女の攻撃を見越したかのように防ぐ。ただ、リサは防がれても構わずに剣を振い、時にはレヴェリスに殴り掛かった。
リサとレヴェリスが剣を打ち合う最中に、ウィルが割り込む。しかしながら、しばし続いた攻防の中で、レヴェリスはウィルの斬撃が己を捉えようとしていないことに気づいた。否、役割が分担されていることに気づいたというべきか。
ウィルの攻撃は、レヴェリスの攻撃を自身に向けさせるものだ。攻撃を担当しているのはリサの方で、彼女に攻撃の隙を与えるためにウィルは防御に徹しているのだ。
その戦略に気づいたレヴェリスの動きが変わった。必要以上に鍔迫り合いに持ち込もうとするウィルを嘲るように退ける。そして攻撃を担当するリサに向き直り、猛攻の隙を突こうと構えた。
――まずい。
とは思わなかった。すべてはこの隙を生み出すがために、二人は攻守を分けた。
リサの一撃目を受けとめようと防御の構えをとったレヴェリスが目を見開く。攻撃に専念していた彼女だが、レヴェリスの間合いに入った瞬間に剣を手放したのだ。
一瞬動きを鈍らせたレヴェリスが、柄を身体に引き寄せて突きの構えをとる。しかし、レヴェリスが突きを放つ前に、リサは間合いを詰め切った。遅れて突き出された柄を握る手をつかみ、後ろ手に拘束する。
次の瞬間、身体に微かな衝撃を感じた。




