表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/53

「何百年も昔からの悲願だ」

 街の灯も消え、暗くなった室内で二人の人影が動いた。

 影だけでは、男か女かも判断することは出来ない。

 影の一方は、紙を手にしているようだった。横顔が俯き加減に傾いて、手にした紙を見下ろしていた。片方の手を顎に宛がい、影であろうとも何かを思案していることがうかがえる。


「少しばかり、まずいことになったようだな」


 紙を持った人物から、低い声が発せられた。この声は男のものだった。


「まさか、勝手に動いているとは……」


 もう一方の影が苦虫を噛んだような苦しい声を出した。この声も、また男のものだった。


「俺の不注意だ。すまなかった」


 頭を下げた男の肩を、もう一方の男が軽く叩いた。


「まぁ、いいだろう。すぎたことをとやかく言っても仕方ない」


 男は続けた。


「それに、おまえのことだ。すでに手は打ってあるんだろう?」

「ああ。最優先事項だからな」


 頭を下げた男が、今度は不敵な笑みを口元に浮かべた。

 片を叩いた男が手にしていた紙を折り畳み、胸のポケットへとしまい込んだ。


「何百年も昔からの悲願だ」

「簡単に破綻させやしない」


 男たちの声からは、意志の固さが聞き取れた。

 祖父よりもずっと先の代から計画されたことだ。立案者がこの世を去り、それでも同調した者たちが陰で力を合わせてきた。そして、彼らの代でようやく悲願が達成されようとしている。


「失敗すれば、我々の祖先に申し訳が立たない。ただあの世に行くだけではすまされないぞ」


 一方の男が喉奥で笑い声を立てた。


「あの世なんて物騒なこと言うなよ」

「物騒ですめばいい」


 男は腕を組んで、肩をすくめた。


「一から計画をやり直すには、大変な労力を要するからな」

「完璧な計画だ。失敗するはずがない」

「おまえに限ってつまらない失敗はしないと思うが、油断はするな」


 今度は違う男が肩をすくめて見せた。


「言っただろう? すでに手は打った。これ以上先に進むことは出来ない。となれば、手詰まりだ。充分に時間は稼げるだろう」

「それに関しては心配していない」


 男は手近にあった椅子に腰を下ろした。


「未来の同胞のためだ。我々の責任は大きい」

「だからこそ、やりがいがあるんだ」


 立ったままの男の口調に熱がこもる。


「この時代に生まれたことに感謝しないとな」


 彼はそう言って唇の端を上げる。そして祈りを捧げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ