バケネコカカシ
ボクたちの町には、小さな山がある。
いつもは大人に言われて入れないんだけど、いちど皆にないしょで入った。
その時、ボクたちはカカシを見つけた。
畑でも何でもないところにカカシがポツリとあった。
カカシにはいっこだけ首にきれいなワッカがついていた。
ケンくんがワッカをさわったら、どこからかネコが出てきた。
みんなびっくりして走ったら、いつのまにかネコはどっか行っちゃった。
あのカカシはみんなでバケネコカカシってよぶことにした。
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部屋を掃除していたら、昔の日記が出てきた。
ほとんど書いてないので日記というよりメモに近いものだったが、何はともあれ懐かしいものだ。
ふと、バケネコカカシについての日記に目が止まった。
あったなぁ、バケネコカカシ。
今冷静に考えればただ変なところにカカシがあって、猫がたまたま出てきただけじゃないか。
でも大きくなった今なら、あのカカシが何故あそこに立っていたのかが分かるんじゃないか。
電車に乗って三十分。当時俺が住んでいた駅に俺は降り立っていた。
どうしても気になったのだ。バケネコカカシが。
山が切り崩されて無くなっているかとも思ったが、あの時から時間が止まったかのようにそのままだった。
山に足を踏み入れる。
傾斜がかなり急だった。大人が止める訳だ。
全く気にならなかった辺り、子供の時のパワーは凄いんだと感じさせられる。
たしかあの木の先にバケネコカカシはあったはずだ。
バケネコカカシは、確かにそこにあった。
しかしそれは案山子ではない。これは……。
「……お墓だったのか。」
木を十字架のように組んで挿しただけのお墓だった。
あの時よりボロボロになっていたが、まだ形は残っていた。
そしてあの時のワッカは首輪だった。
恐らく飼っていた猫が死んでしまい、お墓を立てて首輪をかけたのだろう。
当時の友人がそれを取ろうとしたため、猫が怒って出てきたと考えるとバケネコと言えなくもない。
いくら子供だからと言って申し訳ないことをしたものだ。
俺は近くの草むらから何本か花を摘んだ。
お墓の前にお供えして手を合わせる。
あの時は騒いでしまって申し訳なかった。
ゆっくりと休んで欲しい。
墓に背を向けて歩き始める。
後ろから猫の鳴き声が聞こえた。安らかな声だった。
俺はその声を聞きながら、その山を後にした。