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第7話:マネージャーとの邂逅



 僕は、シュート練習をしていると、ふと、背後から誰かの気配を感じ、振り向いた。今まで練習に夢中になり過ぎて気付かなかったのか。


 ―――でもまあいい。


 実力はなるべく評価されたほうがいいし。


 という事で僕は、体育館の入り口に立っている美少女・・・どこかで見た事ある・・・に話しかけた。


「あの、今日からバスケ部に入部した瀬亜翔太ですけど、マネージャーの人ですか?」


 僕が尋ねると、マネージャー(仮)がハッとしたような表情をしたあと、少しだけ慌てながらその事を肯定した。


「あ、うん。そうよ。私がバスケ部マネージャーの乃川梨央よ。っていうか瀬亜とは一緒のクラス何だけど?」


「あ、そうなんだ。ゴメン。全然覚えてない」


 マジか。


 基本的に他人の名前と顔を覚える能力は絶望的に無い僕だから仕方がないと言えば仕方がない。


 それなのに友達作ろうとかバカ過ぎるな、僕。


「二年になったばかりとは言え、同じクラスの人に顔くらいは覚えるもんでしょ、普通」


 そう乃川さんは言う。


 全くその通りだと僕も思うが、覚えて無いモノは仕方がないと思う。僕はコミュ力が少ないんだ。


「人の顔と名前を覚えるのが苦手なんだよ、僕」


「それ人としてどうかと思うわよ?」


 苦笑いしながら肩を竦める乃川さんに僕も苦笑いで返した。


「それにしても瀬亜、あんた凄いじゃん。超バスケ上手かったんだ。ただの残念イケメンじゃなかったんだね」


 残念イケメンて・・・。


 何故そのようなあだ名を付けられているのかは大方予想はつくが、深くは追及しない。


「バスケは小学校の頃からやってたから。別に特別上手いって訳じゃないよ」


「謙遜しなさんなって。3Pシュートを三十本中二十二本も入れるなんて普通の高校生には到底無理よ?」


 まあ確かに普通(・・)の高校生プレイヤーでは無理だろう。でも僕が知っている奴らはこれくらいは簡単にこなす。


 少なくとも僕がいた学校では、別段特別な事じゃなかった。


「あはは。それで、他のバスケ部員はどうしたの?」


 僕は話題を逸らすためにその話しを振った。


 正直聞かなくても今のバスケ部の現状は大方分かる。


「今バスケ部は殆ど活動していないわ。毎日放課後私が来てボールを磨いたり、床を掃除したりするくらい」


 なるほどね。


 大体僕が予想した通りだ。でも、乃川さんが毎日来て道具をキレイにしているというのは個人的に驚きだった。


 でもじゃあ、あのボールの汚れは一体・・・?


 毎日道具をキレイにしているならボールがあんなに汚れているのは不可解だ。気になったので、僕は尋ねてみる事にした。


「ねえ、毎日掃除している割にはボールがかなり汚れている様に見えたんだけど?」


 そう言って、僕は手に持っているボールを見せた。


 それを見せた瞬間、乃川さんの顔が悲しみと怒りに染まった様な気がした。


「あはは・・・、ごめんね。これは今のバスケ部の部員が私へのあてつけの意味合いを込めて嫌がらせしているのよ」


「なんだってまたそんな事を・・・」


「それは私が口うるさく真面目に練習しろ!って言ってて、それがウザいみたいからなんだけど、正直ここまで陰湿な事しなくてもいいんじゃないかなって思うだよね」


 乃川さんは努めて明るく言ったけど、はっきりと傷ついてるのは、殆ど初対面に近い僕でも分かった。


 それと同時に、彼女がどれだけバスケを・・・この部を大切に思っているかが分かる。


 それを知ったからと言って、僕は別に彼女に同情といった感情は抱かない。それを抱くには余りに僕は彼女の事を知らなさすぎる。


 けど、そんな僕でも、彼女の事を助ける事くらいは出来る筈だ。


 ―――僕は決めたんだ。


 今までの自分を変えると。


 これはその為の一歩だ。


「じゃあさ、もう一度ボールを磨こう。僕も手伝うからさ」


 そう言って、僕は倉庫の方に向かった。そして、その中から籠に入ったボールを取り出した。


「意味ないでしょ。仮に全部のボールを磨いても、また汚されるのがオチだし・・・」


「まあ、そうだろうね。ならもっと違う風に考えればいい。例えば倉庫に誰も入れないように鍵をかけるとか、バスケ関連の用具は別の所に保管するとか」


「それは私も考えたわよ。でも倉庫の鍵は顧問の先生か、部長が持つのがこの学校の決まりだし、勝手に備品を移動させる訳にもいかないのよ」


 まさかこの学校にそんなルールがあったなんて・・・。


 確かにそれだと実質的に備品をどうこうするのは無理か。先生にバスケ部部員が備品の扱いが酷いので片づける場所を変えさせて下さい、なんて言ったら逆にバスケ部が廃部になりかねないからな。


 ・・・なら仕方ない。


「明日から僕が自分のボールを持ってくるからそれで練習するよ。それに呼びの為に部のボールを二つほど持っておこう。それなら問題無いはずだと思うんだけど」


「あ、うんそれなら大丈夫だけど」


「なら決まりだね。僕はまた練習するから、乃川さんはとりあえず一番状態が良いボールを二つ程持って磨いててくれるかな?」


「わかった」


 乃川さんは頷き、そのまま倉庫に入って、ボールを二つほど持ってきた。


 それを確認した僕は、先程と同じように、3Pシュートの練習を始めた。高校に入学してからも、ある程度暇な時に練習はしていたけど、本格的な練習をするのは一年振りだ。


 もし試合に出る、なんて事になった時に為に昔・・・いや、それ以上のレベルまでなっておく必要がある。


 大丈夫。


 僕ならやれる。


 そう思いながら、ひたすらにシュートを打ち続けた。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



 梨央は、ボールを磨きながら、今日新しく入った部員のシュートを眺めていた。


「キレイ・・・」


 思わず口から本音が漏れ出る。完全に無意識下での言葉だが、それ故にその言葉は梨央の本心だった。


 改めて見ても、ここまでキレイなシュートフォームをする選手を梨央は見た事がなかった。


 中学の時に好きだった先輩も上手かったと記憶しているが、それを遥かに凌駕する技量。まさに瀬亜翔太は、完全にレベルの違う選手。


「アレはまず間違いなく全国クラスのシューターだわ」


 梨央は、そう確信した。


 そして同時に何故瀬亜程のレベルの選手がこんな無名校にいるのか不思議で堪らない。この学校は普通である事が特色の、至って普通の高校。


 進学校という訳でもないし、他に目立った何かがある訳でもない。


 彼の性格を考えても、好きな女の子がいたから入学した、という訳でもあるまい。


「つか瀬亜に友達とかいないでしょ」


 最近は深見拓人と一緒にいるみたいだが、それもつい最近・・・一週間くらい前の出来事だ。


 学年一のイケメンと、学年一の残念イケメンが揃うと、見た目だけはかなり絵になるが、梨央にはどうでも良かった。


 というかバスケ部の現状が酷過ぎてそれどころじゃないといった感じである。


「でも瀬亜が入って来てくれて正直良かったけどね」


 瀬亜翔太。


 彼のバスケの実力は間違いなく本物だ。瀬亜自体は謙遜していたが、あのレベルのプレイヤーは少なくとも県下には存在しない。


 そしてだからこそ思う。


 ゴール下を任せられる選手がいない事の不幸を。


 瀬亜は見た感じ完全なシューターだ。だからこそ中に切り込む力は弱い。そう梨央は考えた。


 事実、彼は練習の時、一度もレイアップなどのゴール付近でのシュートを行っていない。


(それもそうよね。全てに特化した選手なんているわけない)


 それは梨央の人生観ともいえる思い。


「これは・・・ゴール下の補充は急務ね・・・!」


 ボールをフキフキしながら、梨央はこの高校に入って久しぶりに自分の気持ちが昂るのをはっきりと感じた。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



 部活が終わり、僕は乃川さんと一緒にマッグにきていた。


 マッグ。正式名称マグドナルドは人気ハンバーガーチェーンだ。低価格競争に勝利したこの店は、とにかく安い。


 しかしこの僕、瀬亜翔太は、マッグに来るのは実は初めてだったりする。


 そしてもう一つ。


 何故僕は初対面に等しい女子と一緒にマッグに来るというデートっぽい事をしているのか。


 別にドキドキはしない。


 女子と二人きりで何処かにでかけて「やっべ!これってデートじゃねっ!?ヒャッホウウウウ!!」と言える可愛げは僕には一ミクロンと有りはしないのだ。


 それをエマに言ったら、「死ねクソジジイ」と言われた。「エマの理不尽暴言ランキング」上位に食い込んでいる。


 ちなみにどうでもいいが、「エマの理不尽暴力ランキング」というのもある。


 本当にどうでもいいな。


 そしてそろそろ現実を見た方が良い気がしてきた。


 僕は頼んだポテトLサイズの中から一本取り出し、それを口に入れた。


「なんで僕は乃川さんと一緒にマッグにきてるの?理由を教えて欲しいんだけど」


「梨央」


「は?」


「私の事は梨央ってよんでよ。私も瀬亜の事は翔太って呼ぶ――――」


「断る」


「・・・なんでよ」


 不満気に言う乃川さん(・・・・)


 というか当たり前だ。下の名前を呼び捨てになんて出来るか。


「仮に僕が梨央と呼んだとしたら確実に学校であらぬ噂が立つ。そんな下らない事で目立つのはゴメンだ。せめて乃川かマネージャーにしてくれ」


 そう言って、一応の納得をみせた乃川さんは、「じゃ、乃川で」と言った。


 というか見た感じ言ってみただけって感じだな。


 なんて面倒な女だ。


「わかったよ。で?乃川はなんで僕を誘ったの?」


「それはね、部員を新しく集める為よ」


「まあ、確かに新しい部員集めは急務だるけど、正直無理だと僕は思うけど」


 バスケ部の風評を考えたら。


「だからこそそんな風評をあまり知らない一年からスカウトしようって考えたのよ」


 それってただの詐欺だろ。


 何も知らない一年にしてみればたまったもんじゃないな。


「それと瀬亜、あんた深見君誘える?」


 ・・・おい。


 なんで僕は呼び捨てなのに深見だけ「君付け」なんだ。この女僕を舐めてるのか?


「・・・分からない。でも深見は高一の頃から色んな部活のスケットやってたみたいだからもしかしたら短期間だけならやってくれるかも」


「短期間じゃダメなのよ。正式にバスケ部に入ってくれなきゃ」


 いや、それは流石に無理だろ。と思ったが、乃川の眼は本気だ。


 はあ、仕方ない。


「分かったよ。明日適当に話しを切り出してみる」


「ふふん。話しわかるじゃない瀬亜。じゃあ深見君の事は頼むわよ」


「・・・ねえ、なんで僕は呼び捨てなのに深見は君付けなの?」


「え?だって女子のみんなあんたの事は“瀬亜”とか“残念イケメン君”って呼んでるし」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・。


 ・・・。


「ああ・・・そう」


 初めてしったクラスの女子事情に若干へこみながら、僕はポテトと食べ始めた。


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