第2話 男友だちと女友だちが出会ったら
放課後。俺の席までやってきた五人の女友だちから遊びの誘いを受けた。
でも俺の返事は一貫して「ノー」。理由は――
「悪いけど、今日はパス。他の約束があるんだ……男友達とな」
人生で初めて『男友だち』という単語を正しく使った気がする。
今まで日常会話で、使うことなんて一度もなかったからな……。
「トモが男友だち? 冗談はやめて、ほら今日はゲーセンでこの前の続きを――」
「嘘じゃねぇよ‼ 俺にも遂にできたんだ‼」
同じA組の心愛は俺の発言を疑い。
「な、なら昨日の深夜アニメの感想回は――」
「それも後日ということで」
「……わ、わかった」
B組の雪葉はわかりやすく落ち込む。
「部活はどうするんだ‼ 文芸部は今日も活動中――」
「定期的に作品さえ出せば自由参加なわけだし、今日は自主休部で」
F組で同じ部活の澪は怒ってばかり。
「ケーキバイキングはどうするんですか‼ 今日までですよ‼」
「それよりも男の友情優先で」
D組の凪咲は俺に冷ややかな視線を向け。
「ハハハ‼ つまり旦那にも心の友ができたわけか‼ ……旦那、殴っていいか?」
「さすが竜虎姉さん。話が分かって大変ありがたいよ。殴られるのは勘弁で」
E組の竜虎は拳を構えて、恰幅のいい笑い声を漏らす。
五者五葉。相変わらず反応がそれぞれ違っていて面白い。これだから、この五人といると毎日飽きないんだ。そもそも別に、五人が嫌いだからスバルを優先するわけじゃないし。
まだ『親友』という関係には浅いから少しでも早く、スバルとの関係を深めたいというだけの話。別に誰が一番大切とか、順位付けしないといけないわけでもあるまいし。
「トモキ!」
俺が女友だち五人と話していると、ちょうど教室の後ろ側のドアから顔を覗かせる人物がいた。
廊下側の列最後列の俺は体を後ろにそり返し、その人物の姿を確認する。
逆さまで見てもやっぱり「格好いい」の一言に尽きる。
「来たか、スバル。じゃあ、一緒に帰ろうぜ」
「あれ? 話し声が廊下まで聞こえてたけど、彼女たちとは――」
「今日はお前優先。帰りにどこ寄ってく?」
ニヒヒヒッとイタズラな笑みを浮かべて、スバルに意見を求めてると。
「ちょ、ちょっとトモ‼ どういうことよ‼」
「な、なんでこんな有名人とその……本宮さんが知り合いに……」
「ある意味驚きだ。こんなダメ男を二階堂が友人に抜擢するとは」
「これが噂の転校生ですね……たしかに格好いいですね」
「なるほどな。こりゃあ、アタシたちが束になっても敵いそうにない」
スバルを見るなり、それぞれがそれぞれ驚きの反応を見せた。
澪に至っては相変わらず、俺に対してコメントが辛口すぎる。
でも事実、ルックスの格差は明らかなんだよな。
「なあスバル。お前ってモテるだろ?」
「そ、そんなことないよ‼ ボクよりもトモキの方がモテモテ――」
「「「「「トモキ⁉」」」」」
教室に重なった五つの声が響き渡る。
それに驚いてクラスメイトが一斉にこっちの様子を伺うけど、発信源を知るとすぐに自分の行動を再開させた。どうやらまた、いつもの六人かと呆れられたらしい。
「な? 面白い五人だろ? 今日のところは二人で遊びに行くけど、今度こいつらも一緒に遊びに行こうぜ。なあ、みんな――」
「私でさえ、トモって呼ぶのに十年も……」
「と、とも……や、やっぱり本塚さんが限界……」
「本宮。本宮。ええい‼ 苗字はもういいんだ‼」
「いいんです。私はまだ、ただのスイーツ仲間でしかありませんから」
「大丈夫だ。旦那呼びのアタシの方が確実に上のはず……」
声をかけたものの全員、完全に放心状態。小さな声でブツブツと何かを繰り返すばかりだ。今日のところはもう会話できそうに無さそうだな。しょうがない――
「じゃあ、とりあえず下駄箱まで行くか?」
「え、いいの⁉ 彼女たちを放っておいても⁉」
「気にするな。こういう時に声をかけても当分反応しねぇよ」
「う、うん。トモキがそういうなら……」
鞄を持って席を立つなり、放心した五人を置き去りに俺は教室を飛び出した。
「よし‼ そんじゃ今日はどこに寄り道スっかな‼」
「キャッ⁉」
「うん? 変な声なんてあげてどうしたんだ?」
「い、いや。別になんでも……」
肩を組んだ時、悲鳴みたいな声を聞いた気がしたけど、あれはスバルの声じゃなかったか?
そんな疑問を一瞬抱いたもののすぐに振り払い、俺は男友達に対する接し方で――
「とりあえず下駄箱へゴーだ‼」
肩を組んだまま、三階にある一年の教室から昇降口を目指した。
***
「マジかよ⁉ あの漫画、そんな終わり方なのか……」
「うん。でも意外かな、トモキが見てないなんて」
「妹に『過激なシーンが多い』って没収されたんだよ」
下駄箱で靴を履き替えながら、早速漫画話をしていた。
話題は少し前に最終回を迎え話題になった漫画だ。たしかに過激なお色気シーンもありはしたけど、バトルの描き方が格好良く、俺としてはそちらに熱く燃えていた。そしてそれはスバルも同じだったらしく、この数分でそれなりに打ち解けかけている。
「なぁ。スバルはあの漫画、全部持ってるんだよな?」
「うん。ボクっていうよりは姉さんの持ちものだけどね」
「頼む‼ 今度最終巻だけ持ってきてくれないか。俺、最終巻だけ読めてないんだ」
両手を合わせて、スバルに頼み込む。
まさかここまで少年漫画の趣味が合うとは。これはもうある意味、友だちになる運命だったのかもしれない。力あるものは、力あるものに惹かれるみたいな。
「べ、別にいいけど。なんなら今度、ウチに来る? ほかにも色々な漫画が――」
「本当か‼ なら今行こう‼ すぐ行こう‼ レッツゴー‼」
スバルの意外と細い腕を強引に引っ張り、俺は校舎を後にする。




