第1話 真実に気づいた翌日、男友だちができた
昔から男とか女とか関係なく、気の合う相手とばかり遊ぶことが多かった。だから特段意識していたわけでも、最初から狙ってそうしたわけでもない。気づいたら、そんな感じになっていたんだ。
「……男友だち、一人もいなくね?」
夏休みを数日後に控えた夜。友だちから遊びの予定を伝えられ、自室のカレンダーに書き込んだ直後、そこに書かれたいくつかの名前を見て、ようやくその事実に気づいてしまった。
「いやいやいや。俺だって男友だちの一人ぐらいね……」
軽く首を左右に振り、カレンダーに書かれた名前を一つずつ確認する。
不知火心愛――ゲーム友だち。
夢見雪葉――アニメ友だち。
一条澪――小説家志望友だち。
真白凪咲――スイーツ友だち。
黒羽竜虎――スポーツ友だち。
間違いない、五人とも女の子だ。
一人でも女装男子がいれば話しは変わるけど……
「……それぞれ色々と見ちゃってるからな」
いくらトラブルや偶然、うっかりだとしても恥ずかしすぎる数々の光景。友だちだからこそ、ギリギリ許されるレベルのあられもない姿。でもおかげで胸を張って言える、五人とも歴とした女の子だと。
でもそれはつまり、俺に男友だちはいないということで。
「一見すると……ハレーム主人公にしか見えないんだけど」
ただ大前提として、それはありえないと言っておく。
だって友だち全員、俺の前で自分の好きなやつの話をしているから。まるで恋愛相談みたいに。そもそも俺、恋愛相談されるほど恋愛に明るいわけじゃないんだけど……。
それにぶっちゃけ――
「男の友情とか地味に憧れるんだよな……」
ぼっそと呟いて、親父や兄貴から受け継いだ少年漫画ばかりの本棚をみつめる。
並んでいるのは恋愛漫画よりもバトル漫画が多く、俺が憧れているのもそういう物語。体を鍛えてるのだって、『いつか俺にも少年漫画的なことが……』と期待しているからだ。でも生まれてこの十五年、そんなこと一回も起きたことがありゃしない。
仮に俺の人生におけるラブコメが始まっていたとしたら、親友枠一体どこ⁉
***
なんてことを考えたのは昨日の話。
そして夏休みを十日後に控えた今日、俺は校舎裏に呼び出されていた。
下駄箱に入っていた手紙には差出人の名前はなく、ただ『友だちになってください』の一言。たぶん普通の人なら、こんな怪しい手紙なんて見なかったことにするんだろうけど、俺の場合は少し違う。
本物だろうが、偽物だろうが、どっちに転んでも面白いに決まってる‼
俺は昔から面白い方を優先する悪いクセがある。
結果、気づけば周りは女友だちばかり。でも友だちになったことを後悔したことは一度もない。実際、毎日退屈なんて一切してないんだから。
友だちになってください、なんて手紙を出すやつ。どう転んでも面白い展開にしかならないだろ‼
心をザワザワさせながら待ち続けること数分。
もうすぐ昼休みも終わるギリギリの時間帯、そいつは現れた。
サラサラとしたボブショートの銀髪に、俺より少しだけ低い背の高さ。顔つきは俺なんか比べものにならないほどのイケメンで、特徴的な碧い瞳がキョロキョロと動き続けている。
男子の制服を着た彼は、照れ臭そうに現れるなり、男子にしては可愛い声で申し出る。
「ずっとキミのことが気になってました‼ ボクと友だちになってください‼」
念願だった同性からの友だちの申し込み。こんなの受けない理由なんてない。相手がイケメンとか関係なく、俺は今すごく男友だちがほしいんだ‼
「お、おう。よろしくな」
差し出された手に自分の手を添えて、軽く握手をする。
「知ってると思うけど。俺は一年A組の本宮友樹だ。趣味は……まあ色々だな」
「ボクの名前は二階堂スバルだよ。クラスは一年C組。趣味は少年漫画一択‼」
自己紹介が終わると、互いに互いの手を握り返し。
「よろしくな、スバル‼」
「こっちこそ、トモキ‼」
握手をしているとちょうど、昼休み終了の予鈴が鳴り響いた。
「ヤバいな……急がないと次の授業に遅れるぞ」
「じゃあボクは移動教室だからここで……」
手を離し、スバルと互いに軽く手を振って。
「また放課後、話そうな‼ それで帰りに寄り道とかしようぜ‼」
「う、うん‼ ボクもすっごく、キミと話がしたかったんだ‼」
慌てて駆け出すスバルの背中を見ながら、ふと自分の手のひらへ視線を向けてみる。
そこに残る感触は思った以上に――
「男の手って意外と……柔らかいもんなんだな」
高校生になって初めての夏休み十日前。
俺、本宮友樹に、初めての男友だちができた。
名前は二階堂スバル。俺よりも確実にイケメンで、俺と同じように少年漫画好き。
神様、ここに俺の親友枠はいたんだ。




