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第1話 才能の差

このストーリーを通じて、少しでも読んでくださった方々の感情を動かせることが出来たら幸いです。


 才能、というものは存在するのだろうか。

 存在していたとしたら、生まれた瞬間に人生の価値が決まっているということだろうか。

 それは、あまりに残酷ではないか。

 

 俺、リグルはサイドラ村で生まれた。サイドラ村は国の北西に位置する小さな村だ。

 パッと見晴らしの良い丘の上に位置するこの村は、魔物もめったに現れないのどかな場所であり、総人口も30人程度。

 国のはずれに位置するため、往来はほとんどなく、半月に一度商人が村の農作物を買い取りに来る程度である。


「俺さ、冒険者になりたい。冒険者になって、勇者パーティの一人になって、魔王を倒すんだ」


 村の中で一番高い丘のうえで、赤髪の少年ーーリグルは村中に響き渡るくらい大きな声で言った。

 すると、隣に座っていた青髪の少女は少し困ったように微笑みながら頷いた。


「うん、そうだね。リグルなら出来るよ」


 青髪の少女の名はルミナ。

 村長の娘で、リグルと同い年あり、いわば幼馴染の関係だ。

 彼女で特筆すべきことがあるとすれば、優しい子であることだ。常に周囲に気を使い、決して他人を否定することを口にしないお淑やかな少女だ。

 そんな少女の反応を受けて、リグルは口を尖らせる。


「ルミナ。他人事じゃねーぞ。お前も勇者パーティに選ばれるんだよ」


「ええ、私もなの?」


「当たり前だ。俺とお前、二人で勇者パーティに入るんだよ」


「入れるかなぁ」


 ルミナは長いまつ毛でパチパチと瞬きをしながら、控えめに笑った。

 リグルは自信ありげに自身の胸をドンッと大きく叩くと、顔を上げながら威勢よく言い放つ。


「なれるさ。俺たちには才能があるはずだ。二人で英雄になろうぜ。そしたら、この村は英雄を2人排出した伝説の村になる! そしたらさ、観光地となってこの村が発展するよな!」


 目を輝かせながら言うと、ルミナは視線を村に向けながら答えた。


「発展かぁ……。私、このままでも良いんだけどねぇ。確かに少し小さいかもしれないけど、皆優しいし、のどかで良い場所だよ」


「おい、次期村長が何甘えた事言ってんだ」


「うーん、村長かぁ。私、そんな器じゃないんだけどなぁ」


 再び困ったように眉をひそめながら、ルミナは笑う。

 ルミナとリグルは二人で村を見渡した。

 カラカラと音を立てて回る水車。晴天の下で汗水を流しながら畑を耕す人々。風によって揺れる下草。

 どこを切り取っても、平和だ。

 そんな平和な光景を目にしながら、リグルはごくりと唾を飲み込んだ。


「……明日だな。明日、魔法が使えるようになる」


「そうだね」


 明日、ルミナとリグルは10歳になる。

 この世界では10歳になると魔力が生成できるようになるのだが、生成出来る魔力量は個人差が大きい。

 魔力量が多い人間ほど魔法は強力であり、強さとは魔力量であると言っても過言ではない。

 リグルは自信ありげに言う。

 

「明日、魔力量が分かる。つまり、俺の才能が分かるってことだ」

 

「私もだね。イマリーシュ魔法学院に行けるには、どれくらいの魔力量がいるんだっけ?」


「えぇと、確か……八千だったと思う。最低、八千」


「八千かぁ……途方もないね。ここの村人全員の魔力量を合わせても、八千いかないと思うなぁ」


 ルミナは八千という数値の大きさに苦笑する。

 ルミナの反応も無理はない。一般人の平均魔力量が百に対し、八千は常人の80倍の魔力量ということだ。

 そしてルミナが口にした『イマリーシュ魔法学院』とは、世界一の魔法学校と呼ばれている世界中から尊敬される学校だ。

 当然ながら誰もが入れるわけでなく、世界で有数の才能を持った者のみが、この魔法学園には入れる。そして入学する際の最低条件が「魔力量が八千」と言われているのだ。

 勇者パーティー候補になるのは、この『イマリーシュ魔法学院』の卒業生であることが必須と言われており、当然勇者パーティーの一員を志すリグルもイマリーシュ魔法学院の入学を熱望している。

 リグルは興奮しながら憧れのイマリーシュ魔法学園について熱く語ろうと口を開いた時、リグルの父親ーーフリューゲルが後方から声を投げかけてきた。


「おーい、リグル。そろそろ商人さんが来る時期だから、荷物をまとめたいんだ。運ぶの手伝ってくれ」


「……チェッ。良いところだったのに」


 と口を尖らせながら、リグルは丘を下る。そして丘の上にいるルミナを見上げる。


「じゃあ、明日な」


「うん、じゃあね」


 と互いに手を振り、リグルは父親の元へと向かった。


「じゃあ、リグル。ここらへんの農作物を袋につめてくれ」


「へーい」


 とぶっきらぼうに返事をすると、リグルは採れた野菜を手際よくホイホイと麻袋の中に詰めていく。

 そうして汗水を流しながら、野菜を詰めて15分。パンパンに膨れ上がった麻袋をどうにか持ち上げる。

 麻袋の重さに引っ張られて、ふらふらな足取りのまま父親に向かって不満げに言った。


「こんなに詰め込んでとさ、せいぜい銀貨5枚とかでしょ。絶対足元見られてるよ」


「まぁ、そういうな。こんな辺鄙な村まで商人が来てくれるだけありがたいじゃないか。それに銀貨5枚あったら服だって2枚買える」


「……うーん。もっとさ、レアなモンを採ればいいじゃん。例えばさ、あの森の中とか散策したら見つかるんじゃない?」


 そう言って、リグルは村の後方に位置する雑木林を指さした。

 父親は首を横に振る。


「マスカーロ森林のことか。あそこは立ち入り禁止と言っているだろう」


「なんで禁止なんだよ。絶対高価なキノコとか採れるって」


「ダメだ。あそこは、危険だ。前も言っただろう。マスカーロ森林ではかつて大量虐殺が行われたせいで、恐ろしい亡霊が出るんだよ。あの森は呪われてるんだよ」


「ただの噂だって。それに、少しくらい危険を冒さないと、ずっと村はひもじいままじゃん」


「それでいいんだよ。飯を食えて家族もいる。それ以上の幸せはない」


「はぁ」


 リグルは大きくため息をついた。

 父さんの口から出る言葉は酷く牧歌的で、欠伸が出るほどに退屈だ。

 村長が言ってた。都市は夜でさえも昼のように明るく、いろんな人が飯屋でおいしいご飯を食べたり、遊んでいたりするらしい。

 俺はそれほどまでにこの村を発展させたいんだ。

 そんなことを考えながら、再び農作物を袋に詰めていると、気が付いたら夕日がこちらの機嫌をうかがうように覗き込んできた。


「もうそろそろ夜飯の時間だな。母さんが用意してくれるだろう」


「明日、俺の魔法の才能がわかるんだ。予祝も兼ねて、豪勢な食事が良いな」


「魔法の才能なんて無くていいじゃないか。この村には魔物なんて出ないし、農業も農具とちょっとした魔力があれば十分だ」


「それじゃあ、イマリーシュ魔法学院には入れないんだよ」


「リグル。肩の力を抜け。イマリーシュ魔法学院に入れなくても、どんなに魔力が少なくともお前は俺の息子だ」


「……なんだよ、気持ち悪い」


 リグルは眉をひそめると、父親は「ガハハ」と豪勢に笑う。

 農作物をすべて回収し終え、父親と自宅へと戻ると食卓には母の手料理がすでに用意されていた。その食卓に並べられていたのは巨大な肉や魚といった豪勢な品がーー並べられているわけもなく、採れたての野菜の煮つけや川魚が並べられていた。

 食卓の上を一瞥すると、リグルは不満げに唇を尖らせる。


「母さん、明日は何の日か分かってないの」


「リグルの誕生日でしょう。わかってるわよ」


「そうだけど、違うんだって。明日は俺の魔法の才能が分かる瞬間なんだよ!? 後押しとなるというか、明日に力をつけるために、鹿肉とか、胆力つくのを食べたかった!」


「鹿なんて最近見てないわねぇ……。それにご飯たくさん食べても明日の結果は変わらないわ。魔力量は生まれつきの才能だもの」


「俺にはその才能があるって言ってるんだよ。はぁ、明日は世界が変わる日だってのに……」


 リグルは母親に対してもため息をつき、椅子についた。

 俺には才能があるんだ。根拠はないけど、ここまで勇者に渇望している人間はこの世にいないと思う。おそらく俺が勇者になることは自明であり、世の理だ。

 このことを話しても、父と母は真剣に受け止めようとしない。笑って、「そうだといいな」と受け流すだけ。

 ただの妄想だと思われているようだ。

 今に見てろ、と思いながらごはんを平らげた。

 そしてドキドキとはやる胸を抑えながら、俺は眠りについた。


 翌日、村人全員が広場に集まる。

 広場の中心に立つのは、リグルとルミナだ。二人は自分の背丈ほどの大きさの杖を握りしめていると、村人たちをかき分けて村長が姿を現した。

 村長はゴホンと大げさに咳き込むと、パッと顔を上げる。


「えーーでは、この村の期待のホープのルミナとリグルが10歳になった。もう知っておると思うが、10歳になると魔力が使えるようになる。今から二人の魔力量を測ろうと思う。ルミナ、どうやって魔力量を測るか知っておるか?」


「それくらい知ってるよ。発動できる火球の数で測るんでしょ」


「その通りじゃ。さすがはワシの娘。聡明! 天才! 最高! かわいい! 女神!」


 と村長が毎度おなじみの親ばかを発動させる。

 村人全員は慣れきっており、全員スルー。

 場がしらけていることを察した村長は再び咳き込んで誤魔化すと、説明を始めた。


「この魔方陣が書かれた紙を手に取って、フーラと唱えるんじゃ。そしたら小さな火球を生み出すことができる。火球一つ生み出すのに、必要な魔力は一律で10じゃ。体内の魔力が切れるまで、この火球を打ってもらう。魔力切れを起こす直前に鼻血が出るから、鼻血が出たらそこで測定終了じゃ。生み出せる火球の平均は10個じゃ。ちなみにワシは25個生み出せた。ふふ、この村ではトップじゃ」


 得意げに鼻を鳴らす村長。

 この村長の自慢話も耳にタコができるほどに聞いた話だ。村人全員がつまらなそうに、白い目を村長に向ける。

 村長は村人からの冷ややかな視線を華麗にスルーし、言葉を続けた。

 

「では、さっそくだが始めようか。ほれ、二人とも杖を持て。火球をあのレンガ壁に向かって打つんだぞ。さぁ、みんなで火球の数を数えようではないか」


 リグルとルミナはレンガ壁の前に並んで立つ。

 リグルは心臓がドキドキと鼓動を打つのを感じていた。手汗がにじみ、杖を握る力が強くなる。

 ちらりと横に立つルミナに目を向けると、ルミナも同様に緊張しているのか、顔が青ざめていた。

 ルミナに情けないところを見せるわけいかない、と自分に言い聞かせて、リグルはニヤリと無理やり笑みを浮かべた。


「ははは! ルミナ、楽しみだな。これから俺らの才能がわかるんだぜ」


「やっぱりすごいね、リグルは。私、怖いや。みんなから見られていると思うと、緊張して……」


 そういって肩を震わせるルミナの肩を、リグルはポンポンとたたく。


「落ち着けよ、ルミナ。俺たちは将来勇者パーティーになるんだ。勇者パーティーになるってことは、全世界中の人間から注目されるってことだろう。それに比べたら、周りにいるのはせいぜい30人程度。緊張なんてしねぇよ」


 本当は内心ビビっていたが、無理やり強がってみる。

 すると、ルミナ目を大きく開き驚く。

 もう一度リグルがルミナの肩をたたくと、ルミナの肩の震えが止まった。

 ルミナは顔を上げると、いった。


「ねぇ、リグル。私が勇者パーティーになってさ、もし魔物を前にしてこうして震えちゃったら、その時は……」


「あぁ、そんときはまたこうして隣で肩をたたいてやるさ」


 リグルはニッコリと笑みを浮かべながら言った。

 二人は胸を張り、杖を握りしめると顔を上げた。

 不思議だ。ルミナが隣にいると、自分の中の震えもなくなった。 


「では、測定を始める!」


 村長が高々と宣言する。

 リグルとルミナは魔方陣の書かれた紙を握りしめると、声をそろえて言った。


「「フーラ!」」


 呪文を唱えた瞬間、リグルの全身を奇妙な衝撃が駆け巡る。

 そして杖先に光芒が集まっていき、その光芒はやがて赤く染まり始めた。赤く染まった光の粒が熱を帯び始め、一つの塊へと集まっていく。

 そして人の頭の大きさにまで膨らんだ塊は、大きな火を帯びながら杖から発射され、レンガ壁へと飛んでいく。


「これが……魔法!」


 全身に駆け巡った衝撃が残り、震えている手を見ながら、リグルは興奮気味につぶやいた。

 隣のルミナも紅葉した表情を浮かべている。


「1!」


 村人全員で生み出した火球の数を叫んぶ。さながらお祭りのようだ。

 リグルは興奮も冷めぬまま、ルミナとともに唱える。


「「フーラ!」」


 再び全身を駆け巡る衝撃とともに、杖から生み出された火球がレンガ壁へと飛んでいく。


「2!」


「「フーラ!」」


「3!」


 ーーあぁ、楽しい。こんなに魔法というのは楽しく、興奮するものだったのか。

 新しい自分の可能性にワクワクが止まらない。

 ずっと打てそうな、そんな予感がしていた。


「「フーラ!」」


「4!」


「「フーラ!」」


「5!」

 

 一般人が平均10個の火球を生み出せるわけだから、ここが平均値の半分か。

 だが、まだまだ余裕だ。

 ちらりと隣を見ると、ルミナも集中している表情をしており、一向に疲労は見せない。

 当然だ。俺らの目標は勇者パーティーの一員になること。

 こんなところでへばるわけにはいかないのだ。


「「フーラ!」」


「6!」


「「フーラ!」」


「7!」


「「フーラ!」」


「8!」


「フーラ!」

「フーラ……あれ」


 9発目のフーラを発動しようとしたとき、ポタポタ、と地面に赤い血が垂れた。

 

「……へ、あ、あぁ?」


 自分の鼻から大量の血が流れる。

 ……なんだ、なんで鼻血が出る? 最近、鼻傷つけたことあったっけ?

 ちらりと横を見ると、ルミナの杖から9つめの火球が生み出され、壁に向かって放たれていた。

 自分の杖を眺めてみると、火球が生み出されていなかった。

 そして、なぜか鼻血が止まらない。


「9!」


 村人たちが9個目の数字を唱える。

 ちょっと待ってくれ。何かの間違いで、俺は9個目を上手く生み出せなかったんだ。だから、もう少し待って。


「フーラ!」


「10!」


 隣でルミナがいとも簡単に10個目の火球を生み出す。

 リグルの表情は青白く呼吸もままならないのに、ルミナは平然としている。

 村長がいう。


「リグル! 下がれ! もうおぬしの測定は終了した!」


「……は?」


 村長が何を言っているのかわからない。

 終わり? 測定、終了? そんなわけがないだろう。だって、ここで終わったら火球が8個で終わりじゃないか。

 つまり、俺の魔力量がたったの80ってことだ?

 アホか、そんなわけない。ありえない。

 だってそんなの平均以下じゃないか。勇者を目指すどころじゃない。一般人以下の人間じゃないか。

 そんな考えが頭を巡っている最中、ルミナの詠唱は止まらない。


「フーラ!」


「に……26!」


 ルミナの火球の数はこの村一番の記録である村長を超えた。

 そして、その勢いはとどまることを知らない。


「フーラ!」


「さ、37……」


 ルミナはいとも簡単に30番の大台に乗せた。

 それでもまだ、ルミナは冷や汗一つかくことなく、卓越した集中力で詠唱を続ける。


「フーラ!」

「フーラ!」

「フーラ!」


 ……測定開始時点では頭上を照らしていた太陽が、こちらの機嫌を伺うように、斜めから陽光を差し込んでくる。

 

「フーラ!」

「フーラ!」

「フーラ!」


 先に声を出せなくなったのは周囲の村人のほうだった。数を唱えることをあきらめた村人たちは、ただただルミナに圧倒されている。

 リグルも同じだった。ルミナから少し離れた場所から愕然とルミナを眺めていた。

 リグルは震えた声で呟いた。


「一体、どこまで……」


 ずっと数えていたから分かる。ルミナが火球を生み出している数は今ので800だ。

 つまり魔力量が8000。

 ルミナはイマリーシュ魔法学院の推薦をその手に収めたのだ。

 そして、それでも尚ルミナの火球は止まらない。

 

 やがて月の輪郭が鮮明になった刻、薄暗い村の中でルミナだけが光と熱を放ちつづけていた。


「う゛っ……」


 ルミナがうめき声をあげると、その場に座り込んだ。

 ルミナは鼻血を流すと、持っていた杖を手放す。主を失った杖がガランガランと地面に転がった。

 魔力切れだ。

 村長が震えた声で言う。


「で、では……これにて、魔力測定を終了する。リグル、火球の数は8個。ル、ルミナ……火球の数……」


 村長が改めて信じられないといった表情を浮かべながら、ルミナの火球の数を言う。


「せ、1046……」


 ーールミナの魔力量は1万を超えていた。

 へたり込むリグルは、青髪を揺らす少女を、呆然と見上げることしか出来なかった。


ブクマ、高評価、感想をいただけるとモチベにつながります。

よろしくお願いいたします。

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