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第3話 予兆

缶はどれも似たような派手なデザインだった。

ビニール袋から一本取り出し、すぐに飲む。

注意書きは見なかった。どうせ昨日と同じようなことが書いてあるのだろう。


強炭酸が喉を刺激する。

何かが覚醒したような気分だった。


その夜、Aは上機嫌だった。

テーブルの上には刺身とビール。

久しぶりにスマホで映画を観る。

ビールもストロング缶も、つまみも買い溜めした。

手元にはまだ10万円以上残っている。


ふと、家賃の支払い期限が近いことを思い出す。

光熱費の請求も来ていた。

このままでは、残った10万円がすぐに消えてしまう。


Aは一気に夢から覚めたような気分になった。

「やっぱり運なんてない」

せっかくいい気分だったのに、現実が台無しにする。


そのとき、スマホに見慣れない番号からの着信があった。

Aは警戒心が強く、知らない番号には出ない。

いつも通り、番号を検索してから掛け直す。


調べてみると、銀行からだった。

Aにとって銀行とは、預金ではなくローンの象徴だった。

もしかして、滞納していた返済の件か?


普段なら無視するところだが、なぜか気になって電話をかけた。

着信があったことを告げると、すぐに担当者と名乗る女性が出た。

投資の案内だった。


「口座にかなりの残高があるので、普通預金に入れておくのは損ですよ」


Aは耳を疑った。

金なんて入っているはずがない。

何かの間違いだろう。

他の客と取り違えたのか?


それでも気になり、ネットバンクにログインする。

口座残高を見て、Aは目を丸くした。


――1,000万円。


すっかり忘れていたが、以前ネットで宝くじを買ったことがある。

預金残高が数百円だけ残っていて、試しに2、3枚だけ購入したのだった。


それが当選していた。


頭が真っ白になった。

そしてすぐに、昨日の缶ジュースを思い出す。


「まさか……」


翌日からのAの行動は、想像に難くない。


とにかく豪遊した。

欲しかった服、腕時計、家電、車。

久しぶりに夜の街へ繰り出し、高級ボトルを次々に開けた。

指名も惜しまなかった。

それでも金は余っている。


「なんて最高なんだ」


あの缶ジュースを飲んでから、人生が180度変わった。

もっと早く飲んでおけばよかった。

Aは有頂天だった。


缶の注意書きのことなど、すっかり忘れていた。


この後のことは、誰もが想像する通りだ。

運を使い果たして、一気に不幸が押し寄せるのか。

それとも、じわじわと静かに崩れていくのか。


その他の選択肢なんて、筆者にも思いつかない。

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