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運、借りられますか?  作者: an


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第1話 運、借りられますか?

Aは駅のホームでため息をついた。

また勢いで会社を辞めた。

明日からのことなど考えず、ただ嫌になって辞めた。


朝夕は通勤客で混み合うが、この時間帯の車両は人もまばらだ。

静かな車内、Aの思考だけが騒がしい。


地方から都市部に出てきて、もう十年以上が経つ。

漠然とした夢を抱えて出てきたものの、これといった成果もなく、気づけば時間だけが過ぎていた。


長い独身生活。

出勤時に見かける、子どもの手を引く母親。

帰宅時間に家族と歩くスーツ姿の父親。

スーパーでの買い物では、独り身の虚しさが胸を突く。


結婚願望はある。

付き合った女性もいた。

だが、面倒くさがりで短気、飽きっぽい性格のせいで、長続きしたことはない。

仕事も転々としている。

上司や同僚と少しでも合わないと、すぐに嫌になって辞めてしまう。


毎日、仕事帰りにスーパーへ寄る。

割引シールの貼られたつまみと、ストロング缶を買ってアパートへ帰る。

ドアを開けると、空き缶でパンパンになったビニール袋と、出し忘れたゴミ袋が出迎えてくれる。


自炊は面倒でしない。

夜は酒とつまみ、朝はコンビニのパン、昼は外食。

スマホでニュースを見ては、政治や事件、芸能人の不倫に腹を立て、どうでもいいコメントを書き込む。


「こんなはずじゃなかった」

周囲を見ては、そう思う。


あんな会社に就職しなければ。

あんな奴がいなければ。

もう少し給料が良ければ。

時代が悪すぎた。

就職氷河期世代がもてはやされる中、自分は少し若いだけで、苦労は変わらない。


昔から、何でも他人のせいにする癖は変わらなかった。


仕事を辞めて数日間は、せっかくの休みだと割り切って部屋でのんびり過ごした。

今の時代、スマホさえあれば暇はしない。

ニュースまとめ、動画配信、サブスクで映画も安価に楽しめる。


金がなくても、考え方次第で楽しみはある。

――そう思っていたのも束の間だった。


サブスクは未払いで止まり、スマホも止められた。

Wi-Fiも契約していない。

何もする気が起きない。

鬱になりそうだ。

「なんで自分がこんな目に……」


起きたのは夕方。

なけなしの金で朝からストロング缶を飲み、寝入ってしまっていた。


喉が渇く。

水道水ではなく、炭酸ジュースが飲みたい。

シュワっと弾ける、あの感覚が欲しい。


そういえば、近くの駐車場に格安自販機があった。

少しアルコールが残る頭を抱えながら、早足で向かう。


自販機には、見慣れない商品が並んでいた。

売れ残り、季節外れ、賞味期限間近――正規の値段では売れないものばかり。


その中に、ひときわ目を引くポップがあった。


「激安!運試し!何が出るかはお楽しみ!」


レインボー色の缶に、?の文字。

1本50円。

この中で一番安い。

値段もそうだが、妙に惹かれる。


Aはポケットの小銭を取り出し、10円玉を5枚入れた。

出てきたのは、派手でいかにも不味そうな缶。

ハズレを引いた気分だった。

それでも炭酸らしいから、少しだけ希望が持てた。


缶を眺めていると、成分表示の隣に注意書きがあった。


「※飲むとあなたの運を前借りして、少しだけ運の良いことが起こります」


運を前借り?

バカバカしい。

思わず笑ってしまった。


ある意味、買ってよかった。

くだらないが、少し楽しい気分になれた。


喉が渇いていた。

缶を開け、グッと一口飲む。


キツめの炭酸は好みだった。

味はスポーツドリンクのような、栄養ドリンクのような、ファミレスのドリンクバーを混ぜたような――まあ、不味くはない。

ただ、売れる味ではない。

開発部は能無しだな、などと考えながらも飲み干した。


何も起こるはずがない。

少しだけ期待もした。

漫画のような展開を。


だが、何も起こらなかった。


運を前借りだなんて、やっぱりバカバカしい。

そもそも、今までの人生で運なんてなかった。

借りるも何も、そもそも持っていないのだから。

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