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レストランの窓際席。
玉藻、サクラ、隼人のテーブルにはパスタや前菜が並び、ゆったりとした空気が流れていた。
「やっぱり、ここ静かでいい店っすね」
サクラがフォークをくるくる回しながら満足げに言う。
「少し前までは外国人観光客で騒がしかったけど、今は落ち着いたね」
隼人も微笑み、グラスの水を口に運んだ。
玉藻も柔らかく微笑む。
こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに――そう思うほど、空気は心地よかった。
だが。
ふと視線を横に向けると、部屋の隅の空き席に、奇妙な“会議”が開かれていた。
藁男、ヒイラギ(蛇)、ピンクのブードゥー人形。
三者(?)が寄り添い、こそこそと頭を寄せ合っている。
「……人形たち、何を喋ってるんだろう」
隼人が目を細めた。
「多分、岸本玲奈をどうするかじゃないっすか?」
サクラはサラダをつまみながら当然のように答える。
「どうする……つもりなんだろうなぁ」
隼人は背筋がすこし寒くなる。
視線の先では、藁男がぎしぎしと頷き、ヒイラギが尻尾でテーブルをトントン叩き、
ブードゥー人形はふにふに胸のハートを揺らしながら腕を組んでいた。
まるで秘密結社の作戦会議。
「……まあ、あの子達を見守るしかないわね」
玉藻は静かにため息をついた。
その“見守り方”が平和的かどうかは、
今のところ、誰にもわからない――。
レストランの隅。
空き席のクッションの上で、三体の“異形”たちが円陣を組んでいた。
ピンクのブードゥー人形が、ハート型の胸をぽん、と叩く。
ブードゥー人形「――玉藻さんは、康親のことが好きなのね」
その言葉に、藁男はギシッと音を立てて頷き、
ヒイラギ(蛇)はとぐろを少し持ち上げ、しゅるりとうなずく。
藁男「……そうなんだ」
ブードゥー人形「仕方ないわね。
ここは私が、康親と玉藻さんを結びつけてあげるしかないわ」
藁男がぎし、と体を揺らしながら問いかけた。
藁男「……隼人と玉藻さんを、結びつけなくていいのか?」
ブードゥー人形は、まるで当然のように両手を広げる。
ブードゥー人形「いいのよ。無理な相手を思って悩むより、
早く失恋して、次に行く方が本人のためなんだから」
その言い方があまりにもさらっとしていて、ヒイラギが「しゅるっ」と目を細めた。
藁男「……おまえ、容赦ないな」
ブードゥー人形はハートをちょんと触り、怖い表情で言い放つ。
ブードゥー人形「恋は“適性”よ。
合わない相手に執着するほど、寿命を削るの。
――隼人さんは、もっと自分に合う人を選ぶべきなの」
藁男が黙り込み、ヒイラギがうなずく。
三体の間に、妙に現実的でシビアな空気が流れるのだった。
藁男「……岸本玲奈はどうする?」
ヒイラギが小さく舌を鳴らす。
ブードゥー人形「放置というわけにはいかないわね。
このままでは、いずれ命を落とす」
藁男とヒイラギが同時に視線を交わし、重い空気が落ちる。
ブードゥー人形「でも……あの女を反省させるのは、至難の業よ」
ハートが、しゅん、としぼむ。
ブードゥー人形「こちらが少し優しくすると“自分は許された”と思い込み、
少し厳しくすると“周りが悪い”と怒りだす。
自己愛が肥大しすぎて、罰も教訓にならないタイプね」
お読みいただきありがとうございました。




