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週末
隼人
「これから玉藻さんとサクラさん、志保と……みんなで食事に行ってくるよ。」
棚の上から、人形がちょこんと身を乗り出す。
そのガラスのような瞳が、きゅるんと輝いた。
人形
「ねぇ、私も連れて行って。置いて行かれたら寂しいじゃない。」
隼人
「えっ……外へ? 大丈夫なのかい?」
人形
「もちろんよ。私は“幸運を運ぶ人形”なんだから。
一緒にいた方が、あなたにも、みんなにも良いことが起きるわ。」
人形
「大丈夫よ隼人さん。バッグにちょこんと座ってるだけだもの。
ほら、“恋愛運アップのピンク”がついていれば、玉藻さんとの仲も……」
隼人
「そ、それは……!」
隼人はため息をつきつつ、人形をそっと手に取り、肩をすくめた。
隼人
「……わかったよ。じゃあ一緒に行こう。ただし、バッグの中で静かにしていてね?」
人形
「もちろんよ。約束するわ。
だって今日は“みんなで幸せになる日”なんでしょう?」
隼人
「……そうだね。」
隼人の胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなった。
土曜の夕暮れ。
街の中心にある有名レストランは、予約が数週間先まで埋まるほどの人気ぶりだ。
隼人は少し緊張した面持ちで、入り口の前に立つ。
隼人
「こんにちは。今日は、皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。」
その言葉には、ぎこちなさではなく誠実さがにじんでいた。
玉藻
「まぁ……とても素敵なお店ね。」
玉藻は店内の雰囲気を一目で気に入り、柔らかな微笑みを浮かべた。
彼女が纏う気品と霊力の輝きが、店のライトを受けていっそう映える。
サクラ
「ここ……すごいっすね! 料理めちゃ楽しみっす!」
妹らしい無邪気な喜びように、隼人は思わず笑みをこぼした。
志保
「お兄ちゃん……予約が取れない店なのに……すごいじゃん。がんばったね。」
隼人
「いや、そんな……。友人が働いてて、少しだけ無理を聞いてもらっただけだよ。」
志保
「それを“がんばった”って言うんだよ。」
と、志保は誇らしげに微笑んだ。
■ バッグの中の人形
隼人のショルダーバッグの中で、ピンクの人形がひそひそと囁く。
人形
「隼人さん、みんな楽しそうよ。いい選択をしたわね。」
藁男(サクラのショルダーバッグの中から)
「……久しぶりwww元気っすか?……」
人形
「まあね……玉藻さんのパワー、近づくと本当にすごいのね。」
バッグの隙間から玉藻の姿を見た人形は、まるで聖堂の光を見た巡礼者のようにため息をついた。
人形
「……あの子、神様に近いわ。私の恋愛成就の力なんて、彼女の前ではたいして役にたたない。」
藁男
「だろうな……。俺もいつの間にか動けるようになってたし。」
人形
「隼人が彼氏なんて、恐れ多いわ。お友達に加えてもらえるだけで、十分よ」
藁男
「お前が言っちゃダメwww」
■ テーブルで
店員
「ご予約の三浦様ですね。こちらへどうぞ。」
案内されたテーブルは落ち着いた個室風の空間。
隼人は少し照れながら、皆へ視線を向けた。
隼人
「今日は本当に……僕なんかのために、色々していただいて……。
せめてお礼がしたかったんです。」
玉藻
「“僕なんか”なんて言わないでください。あなたはとても素敵な方ですよ。」
隼人は一瞬、耳の先まで赤くなる。
サクラ
「うんうん。隼人さんはすげぇいい人っすよ!」
志保
「そうそう。お兄ちゃん、もっと自信持ちなよ。」
人形(小声)
「ほらね、恋愛運は今、最高に上向いてるわよ……ふふふ。」
隼人(心の声)
「(やめてくれ……そんなに煽らないで……)」
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