83
隼人はスマホの予定表を眺めながら、小さく息を吐いた。
本当は玉藻と二人きりで話してみたい。
彼女が見せる柔らかな微笑みを、もっと近くで見たい。
胸の中には、そんな思いが確かにあった。
だが──。
隼人(心の声)
「……まずは礼儀だろ。僕一人で助かったんじゃない。
玉藻さんも、サクラも、志保も……みんなが動いてくれたんだ」
思い返せば、岸本玲奈の呪いや嫌がらせの一件。
普通なら関わりたくもない厄介事に、迷わず協力してくれた。
その恩は、決して軽くない。
「二人きり……は、少し後でいい。
まずはきちんと、みんなにお礼をしないと」
隼人は決めた。
週末、四人で食事をしよう。
場所は少し背伸びをして、学生が気軽に入る店よりも大人っぽいレストラン。
支払いなら問題はない。
大学生にしては珍しく、隼人は自由に使えるお金を持っていた。
ネット転売の仕事が順調で、安く仕入れた海外アイテムが思わぬ高値で売れることも多い。
アルバイトとは比べものにならない収入があるのだ。
隼人
「……よし。みんなが喜んでくれたらいいな」
その横で、棚の上の人形が目を細めた。
人形
「ふふ……まずはみんなにお礼、ね。
そういうところ、玉藻さんはきっと好きになるわよ?」
隼人は顔を赤くし、慌てて視線をそらした。
隼人
「そ、そういうんじゃないよ……」
人形
「はいはい。……でも、応援してあげる」
隼人は、第一印象からして目を引く青年だった。
すらりとした体つきに整った顔立ち。派手さはないが、どこか爽やかで品がある。
大学でも、女子から「隼人くんは優しい」「怒ったところを見たことがない」と評判になるほど、穏やかで人に対して壁を作らない。
そのうえ──。
ネットでの転売事業が順調に軌道に乗っていた。
輸入雑貨や限定スニーカー、電子機器まで扱いは幅広い。
値段が跳ね上がった商品が売れることも珍しくなく、大学生としては破格の収入を得ている。
生活にも余裕があり、誰かを食事に連れて行くくらい、負担にならない。
金銭的にも、性格的にも、隼人は「人気が出て当然」のタイプだった。
そして──。
岸本玲奈が執着した理由も、そこにあった。
玲奈は、自分の“教祖”という立場で多くを支配してきた。
人の心を揺らし、従わせることに慣れていた。
そんな彼女にとって、隼人は、
手に入れたい男
支配したい存在
自分の価値を証明するための飾り
でもあった。
だからこそ、告白を断られた瞬間、彼女の自尊心は傷ついたのだ。
そして、彼女はいつものように
「呪いという形の“報復”」を選んだ。
お読みいただきありがとうございました。




