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人形が呪いの気配を持たないことが確認され、

玉藻たちはようやく胸をなでおろした。


玉藻「……じゃあ、この子は隼人さんの部屋に置いておくのが一番自然ね。

もともと宛名も隼人さんだし。」


人形「よろしくね、隼人さん。」


隼人は少し戸惑いつつも、丁寧に頭を下げた。


隼人「こ、こちらこそ……よろしくお願いします。」


その瞬間、人形は小さく噴き出したように肩を揺らした。


人形「……ふふっ。

これからは――ずっと一緒よ。」


こうしてピンクの人形は、隼人のデスク横の棚に飾られることになった。


人形は新しい居場所に座らされると、ぱちりと目を開くように顔を上げた。

人形「この棚、とても居心地いいわ。隼人さん、ここ気に入った!」


隼人「え、ええ……よかったです。」


人形は嬉しそうに足をぱたぱたさせる。

それを見て、サクラも玉藻も普通に頷いた。


その時、志保がぽつりと呟いた。


志保「……ねえ、あたし思うんだけど……。

この人形が普通に喋ってること、誰もツッコまないわけ……?」


一瞬、全員が「え?」という顔で志保を見る。


サクラ「あれ? 喋ってるのって……普通じゃないっすか?」


志保「普通じゃないわよ!!

喋るし動くし、性格まであるし!

なのに、なんでみんな落ち着いてるの⁉」


玉藻は首を軽く傾げて答える。


玉藻「だって……藁男も喋るし、ヒイラギも通じるし、

康親さんも時々井戸から出てくるじゃない。」


志保「それも全部普通じゃないわよ!!」


志保の悲痛な叫びに、藁男が胸を張って応えた。


藁男「志保さん、落ち着くっすwww

呪術的存在が日常に混じるのは、世の中の摂理っすよwww」


志保「いや、あんたが言うと説得力はあるけど!

あるけども!!」


人形はくすくす笑いながら志保の方へ向き直った。


人形「すぐ慣れるわよ、志保ちゃん。

ほら、私ってそんなに恐くないでしょ?」


志保は額を押さえ、ため息をついた。


志保「……もう、何が普通で何が異常なのか分からなくなってきた……」


隼人「……ごめん、志保。

僕ももう感覚がマヒしてきた……」


日常の中に、いつのまにか“異常”が溶け込む――

そんな三浦家の一幕だった。



岸本玲奈サイド


岸本玲奈は、ここ数週間“異常”と言っていいほどついていなかった。


朝家を出れば、高確率で鳥の糞が頭上に落ちてくる。

「たまたま」では説明できない頻度だった。


家では、再び天井裏のネズミが配線を齧り、危うく火事になりかける。

消防の放水で家がびしょ濡れになり、家電の半分は故障した。

お気に入りの高級ドレスは、水を浴びて縮み、二度と着られなくなった。


玲奈は鏡の前で歯ぎしりした。


「何なのよ……最近の不幸続き……!」


だが、本当に彼女を追い詰めたのは別の出来事だった。


玲奈は、自分を“覚醒した特別な存在”として飾り立て、

小さな新興宗教の教祖として信者から金を巻き上げていた。


しかし——


不運が続く教祖を、誰もありがたがらない。


家がボヤ騒ぎになった日の夜、

信者のうち数名が小声でこんな噂をした。


「教祖様、最近ついてないよね……」

「……加護、なくなったんじゃ……?」


その翌週、大量脱退が起きた。


玲奈は唖然とした。


「……信者が! 金づるが……消えていく……っ!」


以前なら、脱退した信者に呪いをかけて不幸にし、

恐怖で引き留めることができた。


しかし——


今回は、いくら呪っても、まったく効かない。


彼女の呪詛は、まるで空を切るように不発だった。


手元にあった、丑の刻参りの道具も、蟲毒の残りも、

使えないただの“道具”に成り下がっていた。


玲奈は気づいていなかった。


自分の“恋愛・結婚運”が最低レベルに落ちていることも、

人との縁が切れていることも。


ましてや、自分の呪いの力が弱体化してることも。

想像すらしていなかった。


鏡の前で、震える声で呟く。


「……どうして……どうして……?」


お読みいただきありがとうございました。

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